↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Re:connect  作者: ひとやま あてる
第5章 帝国編Ⅱ
85/170

第80話 信念

「あいつらが……人間の犠牲の上に……」


何だよそれ。


気持ちが悪すぎる。


人間を犠牲にして、人間を救う存在を召喚する?


全く何をもってそんなことをするのかが分からない。


あいつらがこのことを知ったら……。


「大規模な魔法陣を用意したり大量のマナを注いだり、そんな程度じゃ世界の壁を破るくらいしかできませんよ。

それこそ勇者なんていう規格外の魔物を呼び出すのですから、それ相応の犠牲が必要なのは自明ですね」


「なんだって勇者を呼ぶのにそんな、そんな犠牲を払わなきゃならないんだ!

他の方法だってあるはずだろ!?」


「確かに、他の方法もあるかもしれません。

ですが、手っ取り早く条件を揃えるなら犠牲を払ったほうが良いのではないでしょうか」


「良いだって!?

人間が死んでるんだぞ、良いはずないだろ!」


「ええ、そんなもの良いはずがありません。

それでも均衡を重んじるこの世界では、対価を支払えばそれ相応の結果が伴うのですよ。

それにこの機構を生み出したのはあなた──ティール神に他なりませんが?」


「くそったれ……!」


「あなたが元の世界でどのような倫理観を得ていたかは知りませんが、遍くこの世界の理を否定することは筋違いですよ」


「マリア先生、あんたがそれを言うのかよ。

家族を失ったんだろ!」


「ええ、魔人を一網打尽にするための犠牲となりました。

あの過程で多数の魔人を葬ることに成功していますし、正当な対価とは言えませんか?

村人が束になっても敵わない相手を、命を犠牲にして殲滅できているんですから。

本来の目的は、勇者を召喚するということでしたがね……」


「でも……!」


「でも……何ですか?

結果だけ見ればこの世界の理から外れた行為ではなかったのですよ。

あの事実がたとえ知られていようが、最終的には大多数が皇帝の手腕を褒め称えることになっているでしょうね。

だって、その結果に納得がいかなかったのは私だけなんですから。

少数派の意見など基本的に黙殺されます。

私が声高にその事実を伝えたところで、かわいそうな女の妄想として片付けられるだけ。

だからこそ、いつまでもグジグジ言ってなどいられないのです」


「それでいいのかよ……」


「むしろ、感謝しているくらいですよ。

結果的に命は助かっていますし、目的もできました。

あの出来事がなければ、今もあの村でのうのうと生きていたに違いありませんから」


「結果結果って、そんなに結果が重要なのかよ!

ちょっとくらい泣き言を言ったって……ちょっとくらい悲しんだっていいはずだろ!」


叫びをぶつけながら、なぜか頬を伝っている涙に気がついた。


「……この話を聞いて、あなたがそこまで感情的になるとは思いませんでした。

正直、困惑しています。

私はそこまで、悲しむことができなかったから」


「なんでだよ、なんでだよ畜生……」


なぜ俺はここまでマリアに感情移入しているんだ。


「……何度も言いますが、結果は結果です。

その手段は決して褒められていいものではありません。

ですが、歴然とした事実がそこにあります。

結果のためには、もはや動機も手段も関係ありません。

だからこそ、昨日までのあなたの在り方に厳しく切り込んだのです。

あのような自らの命を捨てるような方法では、良い結果は伴いません。

最後に残るのは、果てしない後悔と絶望だけです」


「じゃあ今後も、勇者召喚なんていう非道が行われても良いって言うのか!?

魔人から人間を守るには、それも仕方ないっていうのかよ!」


「そうは言いません。

過去に起こったことは覆しようがありませんが、未来に行われることを阻止することはできます。

未来の惨劇を阻止するという点で、ようやくシリウス皇帝殺害という話に繋がるのです。

それ以前に、世界が崩壊するなどという厄介な事象が存在していますが、今は忘れてください」


「今後もシリウス皇帝が非道を続けるということですか?」


ようやく俺も落ち着いてきた気がする。


さっきまではやけに気が立っていたな。


マリアにも暴言を吐いていたし、話が終わったら謝ろう。


「あの男は、目的を果たすためなら何だってします。

魔王を倒した後、用済みになった勇者を消すなんてことも容易に想像できます。

勇者などという兵器を残しておいて、安心していられるような男ではありませんから」


「それは……!」


「許されるものではないでしょう。

だってそこには、あなたのお友達も含まれるかもしれないのですから」


そんなこと、許されるはずがない。


だってあいつらは、この世界の人たちのために頑張っているんだぞ?


それが褒められこそすれ、蔑ろにされるのは間違っている。


「皇帝を殺せば、全てが上手くいくんですか?」


「そんな簡単な話ではありません。

実際、魔人との戦争で人間が負けずに戦えているのは彼の手腕によるものですし、今あの男を失えばどのような混乱が起こるか分かりません。

一気に人間側が劣勢になる、ということも考えられます。

ですから戦争が終息次第、彼を殺せる算段をつける必要があります」


「それが可能なんですか?」


「現状では、不可能です。

……あの男は不気味です。

どんな手札を隠しているか分かりません」


マリアの顔がやや曇っているように思える。


それほどまでの相手なのか、皇帝ってやつは。


「では皇帝の弱点を探る必要がある、と?」


「その通りです。

決して容易な話ではありません。

ですが、チャンスはあります。

一番近いチャンスは、近く行われる腕試し。

その見物に来るということが分かっています。

可能な限り取り入りたいのですが、あの男は恐ろしいほどに慎重です。

身の回りも、信頼の置ける臣下しか侍らせていません。

ただ、腕試しであの男のお眼鏡にかなえば、徴用されて近づくことができるかもしれません」


「だから諜報活動に加えて、実力を見せつけることが必要ということですか……」


なんだこれ。


どんどんやるべき事が増えてくる。


全部を全部背負い込まないといけないわけでもないが、話を聞く限り皇帝が勇者を害する可能性があるのは明白。


だからこれは避けては通れない。


「無理してやれとは言いません。

このことは頭の片隅にいれて、わかった事があれば教えてください」


「分かりました、できる限りのことはやってみます」


あいつらのためだ。


労力を惜しんではいられない。


「そうですか、助かります。

では話の続きをしましょうか」


「えっと、これで終わりではないのですか?」


「こんなものは、まだほんの一部です。

あなたが知るべきことは、この程度ではありませんよ?」


「まじかよ……」


「続いては魔導書についてですね。

あれも、元々は犠牲魔法により作り出されたものです。

魔導印を刻んでいるのなら、心当たりはありますよね?」


「たしか命と引き換えに作り出せるとかなんとか」


「では、引き継いだ魔法を魔導書として遺す場合はどうでしょうか?」


「残るように願えば、残す事ができるって聞きましたよ」


「それで概ね間違っていません。

詳しい原理は不明ですが、継承者は皆同じことを言っているので間違いはないでしょう。

魔導書の魔法とは、魂に刻まれたもの。

魔導書を後世に遺す行為は、魂から魔法を切り出す行為に他なりません。

それ即ち、命を削る行為なんですよ。

それを行なった継承者は、多くの場合それから程なくして亡くなっています。

魔導書を開くというのは、それだけでリスクの伴う行為なのです。

ご存知でしたか?」


「え、いや……それは初耳でした」


好奇心で開いたものが、そこまで危険なものだとは。


若干後悔を覚えたが、この魔法がなければ死んでいたかもしれない場面は多い。


複雑な気持ちにはなったが、結果的には開いて良かったと思う。


あ、俺も結果的にとか言ってる。


マリアのことは言えんな。


「魔導書の中では、先代の継承者が存在していたと思います。

あれは何もその者が自分の映像を遺したというわけではなく、命を切り出したからです。

その命の長さだけ、魔導書の中で活動ができるというわけですね。

もちろん何者も触れなければ何も起こりませんが、他の者の魂が触れることで魔導書は活性化され、その中で先代の命が息を吹き返すという仕組みです。

では、ここで言う魂とは一体何でしょうか」


「心の在り方とかそう言う漠然としたものでは?」


「遠からず、といったところですね。

魂というものは、人間が後付けで作り出した概念に他なりません。

魂とは、即ち命のこと。

心と表現されることもありますが、それらは全て同じものです。

命を切り出す行為は、当然その者を短命にしてしまいます。

そのため、魔導書はデリケートに扱わねばなりません」


「分かりました」


ヴィクターのやつ、あそこで生きていたんだな。


それならもっと話しとけばよかった。


さっさと帰ろうとはせずに、ヴィクターの遺した最後の命に触れるべきだった。


なんか泣きそうになってきた。


「そして魔導書の魔法も、使えば使うほど寿命を削りますよ」


「……本当ですか……?」


「あなたの引き継いだ魔法は、そんな小さな刻印で可能な規模でもないでしょう。

これからは気をつけて使用することですね。

それに頼りっきりになっていては成長もありませんし、命の無駄遣いですよ」


「ま、まじかよ……」


胸に刻まれたこれが、途端に恐ろしい何かに変貌したようだった。


根本的に生き方を変えていかなければならないようだ。


「このことを話したのは、犠牲魔法からの繋がりもありますが、最近巷で魔導書が出回っているからです。

ご存知ないですか?」


「それは、初めて聞きました」


「巷といっても公の取引ルートではなく、非合法なルートでのものですけどね。

簡単に強力な魔法が手に入るという話ですが、果たしてそのようなものが多数流通するでしょうか」


「それはつまり、魔導書を作り出しているやつがいるってことですか?」


「そう。

魔導書の作り方は先程話した通りですね。

ただ今回はそれが少し違っていて、生きた人間の魔法を無理やりに魔導書として遺す方法がとられています。

自分の意思ではなく、他人の意思で。

魔導書ができるその瞬間まで被害者は生きているのですから、その時に感じる恐怖や絶望、そして怒りなどの負の感情を抱いた魂が魔導書に込められるわけです。

その負のエネルギーが、中に宿る魔法を強力無比なものにしてしまうと言われています」


「またゴミみたいな連中がいるのか、許せねぇな」


「強力な魔法が得られるわけですが、この世界の理に従えばその対価を支払わなければなりません。

当然ですよね。

負の感情渦巻く魂と直接接続するということは、それを自身の魂に侵入させることにつながります。

多くの人間は、それによって気が触れてしまうようですね」


「そこまでして、魔法が欲しいのかよ……」


「苦労せずに簡単に、というのは甘い蜜です。

人間は水と同じく低い方に流れる生き物です。

そうなってしまうのも無理はありません。

そしてこの簡易魔導書の出元も概ね突き止めています」


「それは?」


「魔王崇拝教と呼ばれる集団です。

ですが簡単には尻尾を掴ませてくれません。

今の話も教団を脱退した者からの聞き伝てですし、おおっぴらに誰でも入手可能なものでも無いようです。

相当な信用が得られないと入手できないシロモノという風に聞いています。

現状そういった良くないものが多数生まれているというのは事実です。

早急に対処せねばなりません」


それにしてもおかしなことばかり浮上するな。


この世界は問題を抱えすぎだ。


マリアの言う教団とは、トラキアで見たあれに相違ないな。


ヴィクターが言ってた凶悪な魔法を封じた魔導書ってのは、こういうものなんだな。


めちゃくちゃ多いみたいなことは聞いてなかったが、今の話だとかなり量産されてるっぽいぞ?


それらを全て封印しなきゃならねーのか?


無理だろ、普通に考えて。


それなら教団をぶっ潰したほうが手っ取り早い。


……って、そう言うことか。


「教団の大元も調べなきゃならないんですね……?」


「魔剣然り、魔導書然り……どこかしこで悲劇は起き続けています。

それらを全て根絶せねばなりません。

魔人の脅威がなくなったとしても、同時にそれらがなくなる保証はないのですから。

そのためには手段を選んでいてはいけません。

邪魔するものは全て殺します。

偶然であれなんであれ、関わるものは全て」


「だから、マリア先生には闇属性が発現したんですか?」


聞いちゃならないことかもしれない。


でも今日聞いた話で、俺はマリアに深く興味が湧いてしまっている。


家族を失っても悲しむことすらできなかった女性。


この人も、守られるべき存在だろう。


「ああ、気になりますか?

では、私が孤児院に引き取られたあたりから話しましょうか」


「はい、お願いします」


「と言っても、そんなに大した話でもないですけどね。

これは──闇属性は、村に使者として来ていた宰相を殺した時に発現しました。

たしか、8歳の頃です。

たまたま孤児院の視察目的でやって来たところを目撃しましてね。

子供ということで油断させ、喉を掻き切ってやりました。

ついでに自分にも大きな傷をつけて暴漢がやったということにすれば、バレることはなかったですね。

治安もあまりよろしくない場所でしたしね」


「それを8歳の子供がやったんですか……」


「……実にあっけないものでしたよ。

殺しても何の感情も湧きませんでした。

あの使者はろくな人間ではありませんでしたが、別に怒りを覚えていたというわけでもなかったのですよ。

でも、この世界に巣食うゴミは消しておくべきだと思ったんですよね。

あなたも、同じような感情を抱いたことはありませんか?」


「……」


俺がトラキアで殺したあの女性に感じたものと一緒だな……。


「その時の感情はともかくとして、それは殺人という悪行に違いありません。

自分の中では正義を執行したと思い込むようにしましたが、しっかりと闇属性を発現させられてしまいましたね。

この話からも、動機に関係なく結果だけが重要だということが分かりますね」


「それがあって、そのような生き方を続けているんですか……?」


俺がつい先日抱いた感情を、20年以上も……。


「まぁ、褒められたものではありませんね。

でも人間が生きていく以上、自分の中の何かしらの信念があるはずです。

私の生き方を否定する者も当然いるでしょう。

対極の感情を抱く人間の方が、倫理的に正しいのは確かです。

そういった者と対峙した場合、私はもう、その者を躊躇なく殺してしまえる。

これが、自分の生き方を定めるということです」


「俺には、そんな生き方は難しいかもしれません」


いつでも仲間を切り捨てる覚悟なんて、俺にはできない。


それこそ、魔人を倒すためという名目で勇者を召喚しているのと変わらない行為だ。


できればみんな幸せになってほしい。


だが、難しいのは目に見えている。


「あなたは未だ迷っています。

先程あなたのやり方では長くは続かないと言いましたが、それを貫くというのなら止めはしません。

別にこんな生き方を真似しろと言っているわけではないですし、あくまで一例です。

ですが──切り捨てる覚悟がないのなら、それは辛く険しい道のりとなるでしょう。

私の話が、あなたの選択の一助になることを祈ります」


「そんなすぐには決められないと思いますが、とてもためになりました」


「まぁそうでしょうね。

ですが、決断の時というのは自分が思っているより遥かに早くやってくるものですよ。

それだけはゆめゆめ忘れぬように」


「はい」


「では話を続けましょう。

闇属性を発現した後、私は孤児院を出て一人で教会に向かいました。

母が教会にいたこともあって最低限教会の作法などは備えていましたから、入ること自体は容易でした。

もし私が教会に属していなければ無差別な殺人鬼になっていたかもしれませんし、これ自体は幸せなことでした。

所属する折、コルネオ様は私の闇属性に気がついていたはずですが、未だに何かを言われたことはありません。

それは恐らく、私が一つの信念──悲劇を減らそうという私の中の正義を崩さずに持ち続けているからだと思います。

右往左往する信念など、信念とは呼べません。

それはもう、狂人の類です。

私は死ぬことよりも何よりも、狂人として断罪されることが何より恐ろしい。

それはもう、信念を持たない魔物として処理されるのと同じだから。

だからあなたには、重い責務を負ったあなたにはしっかりと生きてもらいたい。

先日あなたを殺すと言っていたのは、ある意味嘘になります。

ですが、世界の命運を左右するあなたがふらついていては問題なのも事実。

だから、自分の信じた道ならばそのまま真っ直ぐ歩いてください。

結果が全てを証明します」


何が正しいだとか、そんなことはなかったのだ。


みなそれぞれ正しい。


その正しさのぶつかり合いが、この世界なのだろう。


マリアの話を聞くと、一般的にどうだとかそんなことを忘れて自分を信じることが大切なのだと理解できた。


それができなければ──自分を自分たらしめられなければ、この世界では生きてはいけないということが分かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。