第15話 裏側
指定された場所で、時間の少し前にクロは待機していた。
人通りのない通りで待たされていると、昨日の男性を思い出してしまう。
しばらくそうしていると一台の馬車が近づいてくるのが見えた。
お、あれかな。
予想通り俺の目の前で停車し、中から1人の男が姿を見せた。
「参加証と参加費のご提示を」
言われた通り、支配人にもらったものとプラチナ硬貨5枚を提示する。
「確かに。では中へどうぞ」
案内されて馬車に乗り込む。
初めて馬車に乗ったが、驚くほど振動が少ない。
なんかの魔道具の効果かな?
「では裏競売について説明させていただきます。
今から参加していただく裏競売は非常に秘匿性の高いものです。
当然、王国から認められているものではありません。
ですが、お客様も満足いただける商品がきっと見つかるでしょう。
場内ではどのお客様が商品を購入したか特定できないように、変装を可能とする仮面をお渡ししております。
個人が特定できてしまえば、盗難などの危険性もありますから。
魔力を込めれば起動しますので後ほどお試しください。
場内は魔法の使用ができない造りとなっていますので、変装は入場前に行なってください。
また武器の持ち込みは禁止しております。
ただし、護衛を伴った参加は可能です。
以上のことをご理解いただければ、あとは競売をお楽しみください」
男性は言い終えると、俺に仮面を渡してくれた。
「イメージした姿になれますよ。
ただし、競売終了後に回収いたします」
とのことだ。
仮面といえば俺が思い浮かべるのは──
魔力を込めるとイメージ通りに服装が変わっていく。
おー、いいね。
奇術師の出来上がりだ。
しっかりシルクハットとステッキも現れた。
この魔道具ほしいわぁ。
カ○ナシも一瞬思い浮かんだが、妖怪みたいなのが参加してたら浮くだろと思ってやめた。
そのあと何回か馬車を乗り換えて、結構な時間をかけて目的の場所にたどり着いた。
「おかえりの際は私がここに居ますので、またお声掛けください。
それでは、いってらっしゃいませ」
男に送り出され、屈強そうな男の配置された扉を抜けて会場に入場する。
会場はとても薄暗い。
既に数名が護衛を側に控えさせて着席している。
仮面舞踏会のような状態だ。
お、ご婦人もいるのか。
参加者はほとんどは黒を基調とした服装になっており、仮面もパピヨンマスクやファントムマスクのようなものが多い。
白のタキシードもいるが、月に代わってお仕置きする人の旦那さんだろうか。
にやけ面の奇術師仮面は俺以外には居ないな。
護衛も連れてないし、俺の小僧感が半端ない。
おそらく俺以外は貴族か、やり手の商人とか、あとはマフィアとかかな?
マフィアみたいなのがいるのかは知らないけど。
佇まいだけで貴族ってわかる人も多い。
貴族の作法とかは知らないが、背筋だけはピンと伸ばして舐められないようにしないと。
武器帯同禁止・魔法禁止とはいえ、下手に目立つことすると護衛にボコされる未来しか見えない。
続々と参加者が集まってくる。
皆席について開始を待っていると、突然前方のステージがライトアップされた。
「皆さま、大変長らくお待たせしました!」
出てきたのは、仮面をつけた太ったピエロ。
「前回からかなりの期間が空きましたが、今回も大変貴重な商品を多数ご用意させていただいております。
きっとお気に召す商品が見つかることでしょう。
ではまずカタログをお渡しいたします。
カタログには記載されていませんが、最後にとびきりの商品もあるのでお楽しみに!」
カタログが配布される。
なになに…
『止まらない心臓、溶岩獣の燃える眼、バフォメットの角、食人植物の種、ヘルランタン、死者の怨魂、狂乱の魔女の頭蓋骨、メデューサの頭、九尾の尾、オーバークロックの黄金砂、氷薔薇、ハーピークイーンの爪、ハーピーの幼生体、聖痕、呪印、エクトプラズム、デュラハンの兜、思念体、ロゼッタストーン、ルーンストーン、オスロドラゴンの牙、ハティーの氷牙、思念体、悪夢の肖像画、ギガンテスの眼、ヘルスカルの背骨、呪われたブローチ、ライトウィスプ、連続殺人鬼の首斬り包丁、ギロチンアックス、イリュージョンブレイド、ブレイクアーマー、カーススタッフ…』
物騒な名称多すぎだろ。
しかしあった。
『魔導書』
これ以外にも気になるものが多すぎるな。
写真付きのカタログだったら毎日でも眺めていられそうだ。
「それでは、これより開催致します!
奮ってご参加ください!」
裏社会の宴が始まった。
「80プラチナ、現在80プラチナです!
これ以上はありませんか? ありませんね!?
では3番の方、80プラチナで狂乱の魔女の頭蓋骨落札です!
おめでとうございます!」
落札した3番のご婦人に使用人が近づき、お金を受け取って消えていく。
「さあ、続いての商品は──」
競売は続く。
「お次は目玉商品の1つ、魔導書が登場です!
多くの魔法使いが喉から手が出るほど欲しがる古代の遺産! 使用するまで中身は不明!
しかし一度使えば強力な魔法が手に入る!
一体どのような魔法が眠っているのでしょうか!?
では参りましょう、1プラチナからスタートです!」
ついに来た。
途中何度も他の商品に目移りしたが、用途の少ないものにお金を使えるほどお金持ちではない。
無理言って100プラチナまで借りてきたが、今までの商品の競り具合からみてもかなり高値がつくことは確実だ。
まずは1人目の動きを見る。
「50プラチナ」
またこの男だ。
さっきから結構な数の商品を競り落としている。
「おっと1番の方、いきなり50です!」
くそ、やっぱりだ。
金に糸目は付けないタイプだとまず勝ち目がない。
「55」
俺も対抗する。
「13番の方も55プラチナを提示だあー!」
「60」
すかさず1番の男が上げてくる。
「65」
「70」
「75」
頼む、諦めてくれ。
「100」
俺の願いも通じず、一気に上がる。
「1番の方、これは大幅に上げてきた!
これは13番の方も苦しいか!?」
これはまず勝てないな。
これが成金と本当のお金持ちの差というやつか。
「100プラチナが現在最高値です!
他におられませんか? おられないため1番の方が魔導書を100プラチナで落札です!
おめでとうございます」
パチパチと拍手が響く。
残念だが完敗だ。
これが金持ちの世界かと圧倒される。
賞賛の意味も込めて俺も拍手をする。
1番の男がこちらを見ている。
なんだ…?
俺が気づくと男は俺からふっと視線を外した。
まぁいいか。
あとは本当に欲しいものがないか探していこう。
最後にとびきりの目玉商品もあるということだしな。
「それではこれが最後!
お楽しみの商品でございます」
買いたいものは買えなかったが、見てるだけでも初めての競売は楽しいものだった。
結局気にいるような商品は無かったため、100プラチナはしっかり残ったままだ。
お楽しみということは、今までの比じゃないくらい白熱していくだろうな。
「ご覧ください!
多数の犠牲を払って捕獲した、魔人の子供でございます!
子供とはいえ、その攻撃性は凄まじいもの。
しかし現在は何重にも奴隷紋を刻印しておりますのでご安心を。
それでは参りましょう、100プラチナからのスタートです!」
小さい魔人の子供が檻に入れられて、ポツンと座っている。
図書館の本で見たような恐ろしい外見はしていない。
羽があって漆黒の体色。
手先や足先、顔の一部は肌の色を残している。
羽や体色を除けば普通の子供にしか見えない。
魔人って世界を滅ぼそうとしてる奴らだろ?
捕まえるなんかして魔族を刺激して大丈夫なものなのか?
エーデルグライトは魔界から一番離れた国だけど、こんなことして魔族が襲ってくるとか勘弁だぞ。
マジで嫌な予感しかしない。
未知の商品に参加者は大いに興奮し、予想通り競売は白熱していた。
「──1番の方、落札おめでとうございます!」
やっぱりあの男か。
財布の中身はどうなっているんだろうか。
「皆さま、ご希望の商品は手に入れられましたでしょうか。
今回も多くのご参加をいただき誠にありがとうございました!
更なるラインナップでお届けして参りますので、次回も是非ご参加ください!
それでは、ごきげんよう」
最後のはびっくりしたが、未知の体験ができてよかったな。
魔導書を手に入れられなかったのは残念だが、また別の手段を探すか。
遺跡を探してトレジャーハンターって路線もありかな。
よし、帰るか。
「そこの君、待ちたまえ」
不意に声をかけられる。
振り向くと1番の男が護衛とともに近づいてきた。
ん?
声をかけられる理由なんてないぞ。
あれ、知らないうちになんか失礼なことした?
まずい、ぶん殴られるかも!
思わず構える。
俺の動きを見て護衛が動こうとした。
「よせ」
男がそれを制する。
「君は他の商品には目もくれず、魔導書だけを買おうとしていたな。
見た感じ大した人間には見えないが、欲する理由でもあるのか?」
だいぶ失礼だな。
ただ態度に出すとボコされるので抑える。
「いえ、ただの興味です。
手に入れられれば使ってみようかと思っていましたが。
しかしあれほど高価なものとは知らなかったので、別の手段で探そうかと思います。
失礼ですが、こういった競売以外で手に入れる方法とかご存知ではないですか?」
「知らないわけではない。
ところで魔導書を解放する条件を知っているのか?」
「魔導書に適性があれば、というくらいしか知らないですね」
「知りもせず手に入れようとしていたのか。
君はとても愚かだな」
カチンとくる言い方が多いなぁ。
愚かとは言われたが、バカではないのでこの程度の暴言には反応はしない。
「そんな愚かな君に教えてやろう。
魔導書はマナを込めることで解放することができる。
まずこの時点で適性がないものであれば魔力が弾かれる。
そして適性があっても必要量のマナを注ぐことができなければ開くことはない。
この時、何度かに分けて注入するようなことでは不可能だ。
一度のマナ放出で条件を満たさなければならない。
同時に複数の人間で注入するようなことも許されない。
解放まで至った者は先天的に魔法力に優れた者や王族、歴史に名を連ねるような者くらいだ。
ここまで聞いても君は魔導書を欲するのか?」
最初はウザかったが、しっかり説明しくれてちょっと好感持てる。
「はい。
それにMPだけで言えば比肩する者はいないと自負しています」
今までのお返しとばかりに自信たっぷりに答えてやる。
仮面で顔を見せられないのが残念だ。
「ほう、大した自信だな。
君は長生きできないような性格だが、面白いかもしれんな」
一瞬男は沈黙したが、声に若干の明るさが宿った。
そして続ける。
「いいだろう。
君が私のために働ける人材なのであれば、働き次第で魔導書を譲ってやることも考えないでもない。
どうするかね?」
考えるまでもないな。
この世界では色んなことに挑戦していくんだ。
「願っても無い申し出、ありがとうございます。
ぜひ受けさせていただきます」
「よろしい。
ではこの日時にここに来たまえ」
そう言ってペンを走らせ、メモを渡してきた。
しっかりと受け取る。
「ありがとうございます!」
護衛とともに男は去っていった。
護衛は最後まで俺をしっかりと警戒していて怖かったな。
あ、そうだ。
最後にこれだけ聞いておかないと。
ピエロがまだ残っていたので、彼に質問だ。
「すいません、1つお聞きしたいことがあって」
「おや、まだお帰りではなかったのですね。
お客様は今回お気に召すものが落札できず残念でしたね。
一体どのようなことでしょうか」
「あの、この変装仮面を譲ってもらえないでしょうか」
「商品よりもこの仮面が気に入ったのですか、面白いお客様ですね。
うーん、どうしましょうか…」
ピエロの言う通り、魔導書以外ではこの仮面を超える商品は見つからなかった。
「ではこうしましょう。
後ほど特殊な仕事をお願いしますので、その報酬として仮面をお譲りしましょう。
前払いとして先に仮面はお渡ししておきます」
「いいんですか! ありがとうございます」
「仕事のお願いの際にはこちらから使いの者が伺いますので、しっかりと働いてもらえれば構いませんよ。
それほど難しいことはお願いしませんので」
「でも、先払いでいいんですか?
もし失敗なんかしたら」
「失敗の心配などしなくても大丈夫ですよ…。
その際は仮面を回収させていただきますので」
「分かりました。ではまたその時に」
「ええ、その時までお身体を大切に」
安請け合いしちゃったけど大丈夫かな?
いいものもらえたし、まあいっか。
魔導書を買うことはできなかったが、初の裏競売は満足のうちに幕を閉じた。




