第6話 ウンコ、王都に向かう。
姫騎士=怪力女。
うむ、護衛としては申し分ないな。
怪力女の名前はルルナ。
この国の第1王女らしい。
早朝、ズキンがルルナを連れて、俺のもとにやって来た。
俺とルルナは互いに自己紹介をした。
今、ルルナは、姫騎士の素晴らしさについて、長々と語っている。
正直、推しメンについて語るアイドルオタクよりも、痛い。
いやそれ以上だ。
ルルナは、『姫騎士道の心得』なる巻物を持っていた。
姫騎士が従うべき、行動規範が書いてあるのだそうだ。
ちなみに著者はルルナ。
すごいでしょ!
と言わんばかりに、ルルナの目がキラキラしている。
こいつ、精神医が見放した末期の中二病患者だ。
「読めば人生が変わりますよ。
読まないと人生の99%は損してますよ。ほらほら」
とまあ、ルルナがウザい。
「ほらほらほら、ほらほらほら」
ハエのようにウザい。
「ほらほらほら、ほらほらほら」
ウザすぎるので、
「読むよ」と俺は言った。
「あ、触らないで読んでくださいね」
どうやって読めばいいんだよ。
まあ、機嫌を損ねても何だからね。
ズキンに手伝ってもらってさ。
俺は『姫騎士道の心得』を完読した。
意外にも、貴重なお言葉がたくさんあった。
例をあげよう。
姫騎士道の心得。
その1 姫騎士は超カッコいい。
その2 姫騎士は嘘をつかない。
その12 姫騎士は土下座をする者に優しくする。
その502 姫騎士はウンコだって守る。
うむ、特にこの502がすばらしい。
これで、道中の安全は約束されたようなものだ。
この502。
昨夜、ズキンのお願いで、嫌々追加したものらしい。
ズキン、マジ天使。
妹にしたい。
その後。
村の入り口にて。
ルルナはさ。
村総出(ズキンも含む)の歓声を浴びながら、出発した。
対する俺はさ。
村総出(ズキンは除く)の罵声を浴びながら、出発した。
村長が俺に叫んだ。
「村の敷居を二度とまたぐな!」
俺が一体何をしたっていうんだ!
まあいい。
俺は王都に行って、人生をやり直す。
商人でも鍛冶屋でも物乞いでもいい。
まずは、ウンコ以外の職を得るんだ。
さあ、出発だ。
ルルナはマジに強かった。
羽の生えたライオンも、足が6本あるゾウも、一撃必殺で倒した。
街道を進む道中は、本当に安全だった。
でも、1つだけ不満があってさ。
ルルナが馬に乗っているのに、俺は歩きなんだ。
『姫騎士道その12 姫騎士は土下座をする者に優しくする』
だから、俺は土下座をしてさ。
後ろに乗ることを、ルルナに許してもらったんだけどさ。
馬が許してくれなくて、蹴り飛ばされそうになっちゃった。
俺は甘んじて、ガマンした。
だってさ。
馬とウンコ。
圧倒的な力の差を感じ取っちゃったんだもん。
だけど、ガマンするとストレスがたまるんだ。
このままだと、便秘になるかもしれないからさ。
ルルナにイタズラすることにしたんだ。
突然、ルルナは馬を止めると、
「少し、お花畑に行ってきます」と言って、下馬しようとした。
ちなみにさ。
お花畑とは、女の子用語で『トイレ』のことだよ。
信じられない物を見るような目で、俺は言った。
「お前、姫騎士なのにトイレするのか?」
『何言ってんの、こいつ?』みたい目で、ルルナは答えた。
「当たり前です」
「まあいい、それは大か小か?」
「貴方には関係のないことでしょう」
「宇宙の崩壊に関わる大切なことなのだ!」
俺の迫力に気圧されて、ルルナはモジモジと言った。
「だ、大です」
俺は大賢者のように、厳格な口調で言った。
「俺の世界では……、姫騎士はウンコをしない」
ルルナは驚愕の表情を浮かべた。
「ま、まさか……」
「姫騎士は世界で最も高潔な職業」
「そ、そのとおりです」
「それ故、汚いウンコなどしないのだ」
ルルナは雷に打たれたような表情で、言った。
「そ、そうですね。
姫騎士道その1、『姫騎士は超カッコいい』ですからね。
わかりました。
もう金輪際、ウンチはしません」
「巻物に書いておけよ」と俺が命令すると、
「わかりました。今すぐに書きます」とルルナは従った。
こうして、姫騎士道その503。
『姫騎士は絶対にウンチをしない』が誕生した。
ぷぷぷ。大バカ者め。
俺は今、余裕しゃくしゃくで歩いている。
だけど、馬に乗った姫騎士ルルナ様はね。
股をモジモジさせ、汗びっしょりでさ。
「んはぁ、あはぁ、いやっ、ああっ、もうっ、いやん!」
あえぎ声まで出しながらさ、ぷぷぷ。
ウンコをガマンしている。
ううん。セクシー。
あ、一応言っておくけど、俺は変態じゃないからね。
ウンコをガマンしていることを忘れればさ。
これは本当にエロい動画なんだからね。
はあ、気分がいい。
バーカ。バーカ。バーカ。
「バーカ。バーカ。バーカ」
はっ。つい口に出してしまった。
やばい。
「もし、嘘がバレたら殺される」
はっ、またしても、口に出してしまった。
俺はごまかすために、馬の蹄の音を口ずさむ。
「パーカ。パーカ。パーカ」
だが、無駄だった。
ルルナは細剣を構えて、言った。
「姫騎士道その30。姫騎士は嘘を絶対に許さない」
俺はウンコを構えて、言った。
「姫騎士道その502。姫騎士はウンコだって守る。
お前は守るべき対象を攻撃するのか?」
「んぐぅ……」
ルルナがひるんだ。
この機を逃さず、俺は言った。
「姫騎士道その2。姫騎士は嘘をつかない」
「ふぐぅ……」
そう言うと、ルルナは黙り込んだ。
俺は元気よく言った。
「さあ、先を急ごう。王都が俺を待っている!」
「いいえ、貴方を待っているのは棺桶です」
そう冷酷に告げるとさ。
ルルナは馬を降り、消しゴムを握りながら、巻物を開いた。
俺は言った。
「姫騎士道その3。姫騎士は卑劣な事は絶対にしない」
ルルナは言った。
「貴方を殺して口をふさげば、万事OKです」
ルルナは、姫騎士道その502を消した。
ウンコの安全は消滅した。
俺は逃げ出した。
地平線の向こう側にあるはずの、王都に向かってな。