エピローグ -新たな日々へ-
――そして季節は春。
新学期の始まりの季節となった。
「それじゃあ行ってくる」
「気を付けてね」
母親に声をかけて、太一は学校に向かう。
学校に着くと、そこには桜が咲き乱れていた。
風が吹き、花びらが舞う。
桜吹雪の中、太一は三年棟の新たな教室へと向かった。
新しいクラスには、黒木の名も、小木の名も無かった。
城嶋や清水でさえいない。
知り合いはほぼ0だ。
正直残念な気持ちはあるが、仕方ない。
「おう、赤城君久しぶりだな」
「久しぶり......」
数少ない知り合いである和泉から声をかけられる。
「ケガは治ったみたいだな。生徒会長戦見てたよ。凄かったな。でも何であの後生徒会長なんなかったの?」
「まあいろいろやりたいことあったしな」
「そっか」
そこで会話は途切れる。
おーい、と和泉を呼ぶ声がする。
「それじゃあな」
和泉は友達の輪の中へと歩き出す。
が、その前にこちらを振り返った。
「あと赤城君、前と表情変わったな。俺は今の方がいいと思うよ」
そういって和泉は友達の輪の中に戻っていった。
少し和泉との距離は近づいた。
だがほんの少しだ。友達と呼べる関係とは遠い。
でも、それでもいい。
和泉達の輪をみる。
彼らのような姿に憧れていた。
あのような輪に入りたかった。更に言えば、あのような輪を作りたかった。
しかし、今はそんな願望は無い。
彼らには彼らの青春があるように、自分には自分の青春があるのだ。
どちらのほうが優れているとか、どちらのほうが幸せだとか、そんな比較に意味なんてない。
自分は自分らしくでいいのだ。
そしてチャイムが鳴り、新しい日常が始まる。
放課後、太一はある一室に向かう。
入院中、城嶋に与えられた仕事があった。
それは太一自身が提案した、虐め問題の解決のために作られた委員会への参加である。
生徒会長戦以来、自分ひとりでもスクールカースト下位の者の救済をやろうと思っていたため、その依頼は渡りに船であった。
太一は二つ返事でその仕事を引き受けた。
部室の扉の前に立つ。
慣れ親しんだ場所とはいえ、緊張する。
大きく深呼吸をして、扉を見つめる。
幾度となく使ってきた扉だが、今や全くの別物に見える。
ノックをして、その扉を開けた。
「なんやイッチ、遅かったやないか」
小木は漫画を読みながら目だけをこちらを向けていた。
「もうちょい丁重に迎えて欲しかったな」
近くで笑い声が漏れる。
「そうね。ならこんな感じでどう?」
黒木が正面に立つ。
そしてにっこりと微笑みかけてきた。
「ようこそ、革命委員会へ。歓迎するわ。赤城太一君」
「なんかしっくりこないな」
黒木もそれは感じていたようだ。
ゴホン、と咳払いをすると、改めて笑顔を向けてくる。
「おかえり、太一」
やはりそれが一番しっくりくる。
太一の顔にも、自然と笑顔がこぼれた。
「あぁ、ただいま」
太一は新しい居場所に一歩足を踏み入れた。
失われた青春を求めて ~学内階級の復讐者~ 完




