↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
63/64

エピローグ -黒木沙羅-



「久しぶりだね、美樹......」


 もうすぐ春になろうかというある休日、黒木は墓前にいた。

 そこは美樹の墓の前、事件がひと段落ついたところで、ようやくゆっくり弔えるようになった。

 黒木以外、ここには誰もいない。

 山の中にあるその寺は、雪が溶け、至る所から春の息吹が感じられた。

 黒木は手に持っていたバックからUFOのぬいぐるみを取り出す。

 これは昔、美樹と共に取ろうとして頑張った景品、そして太一とのデートで手に入れた景品だ。


「ね、見て、これ。あの後頑張って、遂にとったんだよ」


 その時、一陣の風が黒木のもとを優しく吹き抜けた。

 風が黒木の頬を優しくなでる。

 髪が風になびく。

 まるで美樹がよくできたねと褒めてくれているようだ。


「美樹......」


 黒木は、真実が伝えられた日のことを思い出す。




「城嶋君? 何しにきたの?」


 その日、黒木は教室で一人、窓の外を眺めていた。

 放課後、革命部の活動が終わって以来、特にやることが無くなっている。

 生徒会の方では美樹の行方を探るよう動いているようだが、自分にやれることは何もない。

 こんな状況で動けないことが歯痒かった。

 そして今は、部室に行っても太一はいない。

 恐らく彼はリハビリを頑張っているのだろう。

 待ってろと言われたからには、彼を信じて待っているべきだろう。

 結果的に考えることは多いものの、やること、やれることは限られていた。

 小木も気を遣って傍で話相手になろうとしてくれていたが、今は一人でいたかった。

 そのことを伝えると小木は、あんま考えこみすぎんようになと言い残して去っていった。

 そうして一人でぼんやりとしていたときに、城嶋は現れた。


「白井美樹さんのことで、少し君に頼みたいことがあるんだ。嫌ならば無理にとは言わないが」


 城嶋は真剣な面持ちで言う。

 どうやら頼みとは、美樹の携帯のパスワードを解除して欲しいということだった。


「君はあまり思い出したくないことかもしれないし、辛いことかもしれない。けど、そこに捜査に必要な情報が入っているかもしれないんだ」


 美樹の遺体が見つかったという知らせは城嶋から先日受けた。

 覚悟は出来ていたとはいえショックも大きかったが、ようやく見つかったかという安堵もあった。

 だが、その死の真相はまだ明らかになっていないらしい。

 それ以上のことは城嶋の口からは伝えられなかった。

 多分何か城嶋は隠しているのだろう。

 だがそれは隠した方が良いと彼が判断したからだろう。

 それ以上のことは追及しなかった。


「もちろんやらせてもらうわ。私も何か協力したいと思っていたところだし」


 そしてその日、美樹の携帯を預かった。


 夜、自宅に帰り、部屋で美樹の携帯を開いてみる。

 城嶋の言う通り、パスワードがかけられていた。


 ――携帯のパスワードが決まらないの。


 かつての美樹の言葉が頭に浮かんできた。

 そういえば、そんな会話をした。

 二人で美樹のパスワードを考えた。

 そして結局何に決めたか。

 覚えていた。


 9646。


 その番号を震える手で入力する。

 携帯の画面が変わった。

 そこには、沙羅へ、と書かれた未送信メールが表示されていた。

 そのメールをタッチする。

 



「 件名 沙羅へ



 沙羅へ。

 多分、このメールを見ているとき、私はこの世にいないでしょう。

 ごめんね、こんなところで、こんなタイミングで死にたくは無かったよ。

 でも、これはちょっと生き残れなそうだから、こうして最後のメッセージを書いています。

 沙羅はいつも私のことを心配してくれていたね。

 私が辛いことを沙羅に打ち明けると一緒に本気で悲しんでくれて、私の代わりに怒ってくれた。

 本当に嬉しかったよ。

 だからこそ、いじめのことは黙ってたんだ。

 でも、そのせいで余計心配させちゃったね。

 今日の沙羅の姿見たら、もっと早く相談してればよかったかなってちょっと後悔している。

 だけど、沙羅が頼りなかったから相談しなかったわけじゃないんだよ。

 沙羅を巻き込みたくなかった、本当に。

 その結果、こんなことになっちゃったから、その判断は間違ってたのかもしれないね。

 だけど、沙羅には笑っていて欲しかったんだよ。

 

 もっと長々と色々書きたいところだけど、ちょっと時間が無くなってきたから、要点だけ。

 

 沙羅、あなたはこれから、自分のために生きてください。

 あなたのことだから、私が死んだことを悔やんでそうだけど、あまり気にしないで。

 この携帯にさっき、私がやられたことについて書いておきました。

 それを警察に差し出してくれれば、この事件に関わった人間には相応の罰が下ると思います。

 私のことで犯人に復讐をしたいなら、この携帯のパスワードを警察に教えてくれれば、それで十分です。


 私はあなたに会えて幸せでした。

 あなたは最高の親友でした。

 いつもあなたは私の心配をしてくれていたけど、私だってあなたが心配なんです。

 私が死んだあと、あなたが引きずってしまわないか心配です。

 だから、お願いだから、自分のために生きて。

 友達とか、彼氏とか作ってください。

 あなたの幸せが、私の幸せになるんです。

 沙羅、幸せになれ。

 ありがとう。」

                

 

 黒木はメールを読み終わる。

 涙が止まらなかった。


「美樹......」


 その日は一晩中、泣き明かした。




「私は幸せになるから。だから、安心してみていてね」


 線香をあげ、手を合わせる。

 一筋の煙が、空までと伸びていく。

 黒木は静かにそれを見つめていた。


「それじゃあ帰ろうかな」


 墓の周りを一通り掃除して、帰る準備をする。


「次来るときは、紹介したい人がいるの。今日は連れてこれなかったけど、次は一緒にこれるといいな」


 その時、後ろから誰かが黒木を呼んだ。


「やっぱりここに居たのか」

「え......なんで......」


 振り返ると、そこには太一が立っていた。


「小木からここに美樹さんがいるって聞いたんだ。俺もお祈りさせてもらっていいかな」


 そう言うと、太一は手に持った花を供え、もう一度蝋燭をつけて線香をあげた。

 彼は目を閉じ、真剣に手を合わせる。

 今まで見たことの無い表情だった。


「ありがとう。多分美樹も喜んでるわ」


 太一と二人で並び、山から降りる。

 だが、黒木には疑問だらけだ。


「それにしても、何でここに? いつの間に退院したの?」


 太一はそれを聞くと、黒木の前に立った。


「今日何とかリハビリ終わって、急いでここに来たんだ。聞きたいことがあったから」


 太一の表情は真剣だ。

 それでいて、顔が真っ赤になっている。

 

「聞きたいこと......?」


 太一との電話を思い出す。

 彼は革命部でのあの日の別れ際の言葉をもう一度聞きたいと言っていた。

 それってつまり......。

 心臓の奏でるリズムが急激に早くなる。 

 顔が赤くなっていくのが自分でも分かる。

 緊張していた。これまでにない程に。

 口を開こうとするも、上手く言葉にならない。

 そんな中、太一が沈黙を破った。


「でも、いつまでも聞いてばかりじゃいらないから、俺から先に伝えるよ」


 太一は深呼吸をすると、こちらの目を見てきた。

 真剣だ。

 

「......俺は黒木のことが好きなんだ。黒木がいてくれたからここまでこれたんだ。だから、あの日の言葉の続きが聞きたい」


 太一の顔がゆでだこのように赤い。

 これほどまでに人の顔は赤くなるのかと驚いたほどだ。

 しかし、人のことを笑えそうにない。

 だって、多分同じくらい赤いだろうから。

 でも、とてもうれしかった。

 だから、こう答える。


「私は、太一のことが......」


 涙が流れる。

 それでも、最後まで言い切らないといけない。


「大好きです」


(美樹......)

 黒木は太一に抱き着いた。

 太一は優しく受けとめてくれた。

 太一の腕の中で、黒木は泣きながら笑った。

(ほら、私は笑っている。笑って生きていくから。あなたとの約束、忘れないからね)


 抱き合う二人に、風が梅の花を引き連れて優しく吹いた。

 それは二人の新たな始まりを寿く花吹雪となった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。