表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/64

エピローグ -城嶋明-


「ふぅ......この報告書はこんなものか」

「お疲れ、明君!」


 城嶋は生徒会室で大きく息をついた。

 最近の激務で体は疲れ切っている。

 しかし重要な仕事ばかりだ。頑張らなければなるまい。


 最近の仕事は主に太一から頼まれた二つのものが中心である。


 まずはいじめの取り締まりについて。

 

 この学校には自分たちには見えないところで、陰湿で危険な虐めが行われている。

 坂東などのグループがその筆頭であった。

 彼らは自分たちから巧妙に隠れ、ターゲットを徹底的に痛めつける。

 その犠牲者も何人も出ている。

 坂東達のグループの退学は決まっているが、第二、第三の坂東が現れないようにしなければならない。

 そのためには改革が必要だ。

 その改革は"力"こそが正義とするこの世界の摂理に逆らうものかもしれない。

 弱者の保護、この世界では長い間ないがしろにされてきたことだ。

 だが、なさねばならない。

 城嶋は虐めなどの問題を撲滅すべく、スクールカーストの構造の改革、底辺の救済を目的とした委員会を旧オカルト研究会の部室を拠点として設置することを決めた。

 これまでの経歴を考えれば、旧オカルト研究会の部室はそのように使われるのが本望だと考え、部室を増やしたい運動部などの反対を押し切った。

 

 だが問題もある。

 だれがその委員を務めるか、である。

 これまで生徒会でもこの問題の解決を試みていた。

 しかし失敗であった。

 やはりそこはリア充には見えない世界、ということなのだろうか。

 そのことからこの委員会は、スクールカースト底辺の置かれている世界をよく知る者にしか務まらない。

 だが、その条件を満たしており、尚且つこの仕事を引き受けてくれそうな人間は中々見つからない。

 城嶋自身、そちらの世界のことについては疎いのだ、誰が適した人物かなんて分からない。

(うーん、どうしようか)

 城嶋はしばらく考え続けた。

 そこである人物の顔が頭に浮かんだ。

(そうだ、あの人ならやってくれるはずだ)

 その人物に直ぐに連絡を取る。

 すると、他にも条件に当てはまる人間がいると紹介された。

 

「分かった。それなら君たちにこの委員会をやってもらおうと思う」


 こうして無事に太一からの一つ目の課題はクリアした。




 そして次の依頼、これはかなりの大事となった。


 それは、白井美樹の不登校の問題についてだ。

 いや、今となってはその名は相応しくない。

 白井美樹の死の真相の調査についてである。


 太一は、黒木から白井美樹の事件の話を聞いたらしい。

 黒木は白井美樹を自殺と結論付けていた。

 しかし、太一には疑問点があるという。

 

 それは最後に美樹が、また明日と言ったことだ。


 これから自殺を考えている人間の発言とは思えない。

 それに黒木によると"力"が消失したのはその日の深夜~翌日の朝早くまでのいずれかだ。

 つまりこの発言をしたとき、美樹は黒木を親友とみなしていたことになる。

 親友にこのような嘘をつくだろうか。

 そして親友にショックを与えるような形で自殺するだろうか。

 そこに太一は違和感を持ったらしい。

 

 そしてもう一つ、あくまで根拠のない推測だが、と前置きしたうえで太一はある仮説を口にした。


「俺はこの件に美樹の母親が絡んでいるんじゃないかって思ってるんだ。美樹が家にいないのに不登校とい


う扱いにして、警察にも届け出ない。これには何か理由があるはずだ。そしてその母親は美樹に虐待をしていたらしい。だからもしかするともしかするかもしれない」


 この推測を聞き、城嶋は白井美樹の発見のために全力で動いた。

 学生という身分で白井美樹の母親を問い詰めるのは不可能だ。

 直ぐに警察のもとへと向かった。

 ここでは生徒会長という肩書が役に立った。

 学校の立場として調査を依頼すると、最初は難色を示していたが、粘り強い交渉の末、捜査してくれることとなった。

 以前黒木が捜査を依頼していたのもプラスに働いた。

 白井美樹の失踪がただの家でなどではないと分かったらしい。


 そして警察の捜査によって、この事件の真相が徐々に明らかになっていた。


 白井美樹は彼女の自宅で発見された。

 庭の一角に埋められていた。

 その遺体が見つかるとともに、白井美樹の母親を死体遺棄の疑いで警察は逮捕した。

 だが母親はこの事件の真相について黙秘を貫いた。

 このままでは真実が闇に葬られてしまう。

 そんな時、美樹の携帯電話が見つかった。

 警察では何か手掛かりがないかとそれを開こうとするも、ロックがかけられていた。

 そこで、黒木に捜査の協力が要請されることになった。

 美樹の親友であった彼女にならパスワードが分かるかもしれない。

 その考えから、美樹の携帯が彼女に預けられた。

 翌日、黒木は美樹の携帯のロックを解除。

 携帯に何か手掛かりがないか、警察が調べ始めた。

 するとそこには、この事件の真相が書かれていた。


 美樹の最後に残した記録が示したこの事件の真相はこのようなものだった。

 

 美樹は事件当日、家に帰宅。

 その日は坂東達に虐められ、肉体的に酷く傷ついた状態であった。

 しかし医者にはいけない。それに傷薬は無い。

 そのため手当も最低限のことしかせず、部屋で体を休めていた。

 そこに母親が帰宅。

 仕事でのストレスから、弱っている美樹に暴力を振るった。

 致命傷となったのは、部屋にあったハサミで美樹の腹部を刺したことであった。

 その時点で母親は自らがしたことの重大さに気付き部屋から逃げ出す。

 しかしそこではまだ美樹は生きていた。

 その後、美樹は最後に残された力を振り絞り、自らの携帯に今回の事件の真相や、これまでの虐待について、また坂東達による虐めについて書き残した。

 翌日の朝、母がもう一度部屋に戻ると、美樹は携帯を握りしめたまま、冷たくなっていた。

 そこで母は美樹の遺体を隠すことを決意。

 人目につかない時間を見計らって庭に穴を掘り、そこに美樹の遺体を捨てた。

 匂いからばれないように対策は講じたが、結局警察犬の鼻は誤魔化せなかった。

 調べによると、美樹の携帯を壊さなかったのは、GPSの反応が途切れることなどで怪しまれることを防ぐためらしい。

 また、この美樹の残した記録により、坂東達も警察に呼び出され、取り調べられることになった。

 両者とも、然るべき罰を受けることになるだろう。


 事件は収束に向かいつつある。

 悲しい結末ではあるが。



「大変な事件だったね......」


 ポツリと萌が呟く。

 彼女も今回の事件の解決のために奔走していた。

 他の生徒会メンバーや黒木の協力なくしてこの事件は解決できなかったであろう。


「今回の事件、絶対に忘れないようにしないとね......」

「そうだな」


 二人で窓から外を見る。

 冬を越え、春が近づいていた。


「それにしても、結局太一君の"力"ってなんだったのかな?」


 萌がふと疑問を口にする。

 それは城嶋も考えていたものだ。


 太一の"力"、本人は世界への怒りがきっかけで覚醒し、怒りが収まると同時に消えたと言っていた。

 その性質から、恐らく一般的な"力"とは別物であろう。

 ではなんであったのか。

 城嶋はそれが"特殊能力ギフト"の一種ではないかと結論付けた。

 太一は世界を憎んでいた、しかし同時に自分に自信をもっていたと考えられる。

 彼は自分の性格などを省みることなく、自分の不遇の原因は"力"の不足であるとした。

 つまり自分は一切悪くないと信じていたわけだ。

 その"力"が全てだとする自分の考えへの自信が怒りと結びつき、自分の身体能力を強化するという特殊能力ギフトの獲得に至ったのではないだろうか。


 しかし誰にも真実なんて分からない。

 真相は闇の中、だが真相なんて些末な問題であろう。

 だからこそ、城嶋はこう答える。


「さぁ? 神様の気まぐれじゃないかな」


 なぜ彼に"力"が与えられたかは分からないが、その結果、彼は求めるものを手に入れたようだ。

 今の太一は充実しているように見える。

 それだけで充分であろう。


「まあ休憩はここまでにして、俺たちは彼が気持ちよく戻ってこれるような環境を作ろうか」

「そうね」


 二人は別の仕事に取り掛かり始めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ