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最終決戦 ー本気ー


「これがお前の本気か......」


 城嶋は接近戦で分が悪くなると遠距離戦に切り替えてくる。

 現在決闘場の地面はボロボロだ。

 そこかしこに穴が開き、いたるところに石が転がっている。

 つまり城嶋はどこからでも石を蹴れる状況にあった。


「ちっ......」


 石が三つ飛んでくる。

 右回転が掛かっているため、回避方法は限定されている。

(まさかこんなとこで訓練が役立つとはな)

 かつての防御用訓練を思い出しつつ左に避ける。

(ここで多分城嶋は動く......)

 太一は後ろに飛び距離を取る。

 その瞬間、城嶋が自分がいた位置にスライディングを仕掛けてきていた。


「外したか......」


 一瞬回避が遅れていたら当たっていた。

 しかし先程からこの戦いではそんな場面ばかりだ。

 一瞬の気の緩みが敗北につながりかねない。

(それにしてもあの右足......やっかいだな)

 城嶋の戦いの軸になっているのは間違いなく"黄金の右足"であった。

 それを使えなくすればだいぶ楽になる。


「羨ましいね。特殊能力ギフトを持っている人間は」


 城嶋がまた石を蹴ってくる。

 今度は四つ。全部回避するのは不可能だ。

 その中から危険度が高い物だけ選んで回避する。


特殊能力ギフトを手に入れる条件は自信だっけ? いいよなお前らは自分に自信を持てて。小さいころから"力"があって、沢山の成功経験があったからこそ自信を持てたんだろ?」


 城嶋は無言で石を蹴ってくる。

 どうやら答える気はない様だ。


「一度底辺になったら自信なんて持てないから、特殊能力ギフトなんて手に入らないんだよ。そして特殊能力ギフト持ちは周りから更にチヤホヤされ、持ってないものとの差は広がる」


 今度の意思は全部回避し切れた。

 接近戦を仕掛けようとするも、再度城嶋は石を蹴ってくる。

 本当にやっかいだ。


「これは"力"についても当てはまるな。"力"を持っている人間には人が集まる。逆もまた然り。こうして"力"の差は広がっていく。底辺スパイラルだ」


 一発被弾。

 右太ももから出血。

 だが問題なく動く。


「リア充には人が集まるから更に"力"が増す。そして人が更に集まる。リア充スパイラルに入る訳だ。こっちのスパイラルにいるお前と俺じゃ、同じ世界に住んでいるように見えて、全く別の世界に生きているんだ」


 城嶋に近づく。

 石が飛んでくる。

 しかし今度は一つ。

 この程度なら恐れる必要はない。


「あとお前は知らないかもしれないけどさ、底辺にいると人間性が歪むんだよ。クソみたいな環境だからな。いやでも歪んだ人間になってしまう。俺の性格が悪いと言うのなら、それすらもこの世界のせいなんだよ」


 左腕の負傷と引き換えに接近に成功。

 

「......分かった。もういい。全てを世界のせいにして満足する者とは永遠に分かり合えないだろうからな」


 顔面に向けて右ストレート。

 しかし城嶋に回避される。

 だがそれは予想の範疇にある。

 続けざまに左足を城嶋目がけて繰り出す。


「世界の在りように身を任せるだけならばそこらの羽虫にもできる。人間ならばどうすれば上手くいくか考えて行動すべきだ。与えられた知性を生かせないならば葦と同等だ」


 城嶋の右手にガードされる。

 しかし相当痛いはずだ。

 お互い相当なダメージが蓄積されている。

 僅かなダメージでも積み重ねれば相手を倒すことが出来るはず。

 太一は攻撃の手を緩めない。


「向上心も持たないお前に負けるわけにはいかない!」


 城嶋は太一の攻撃をガードすると後ろに跳ねた。

 城嶋の声色から、奴は勝負を決めにかかりにきている。

 そして距離を取ったということは......。

 予想通り城嶋は地面を蹴った。

 砂埃と砕かれた鋭い石が宙に舞う。

 城嶋の右足がキックモーションに入る。

(ここだ!)

 この瞬間を狙っていた。

 太一は城嶋に接近し、右足を振りかぶる。

(砕けろ!)

 狙うは城嶋の"黄金の右足"。

 今まさに石を蹴ろうとしている。

 太一はそこを目がけて右足を振りぬいた。


 バギッ。

 足の骨が砕けた音と、鈍い衝撃が右足に奔る。

 だがそれは城嶋も同じであるはずだ。


「くっ......」


 城嶋がうめき声をあげながらよろよろと後ろに下がった。

 右足の甲には蹴ろうとしていた石が刺さっていた。


「どうだよ城嶋......これでもうお前の特殊能力ギフトは使えねぇなぁ......」


 太一は自分の右足を見る。

 こちらにも石が刺さっていた。

 恐らく骨も砕けている。こちらのダメージも少なくなかった。

 しかし同じ痛みだとしても、特殊能力ギフトが使えなくなる分城嶋の方が不利なはずだ。

 太一は口元に笑みを浮かべた。


「はは......ざまあ見やがれ。お前の自信の象徴もあっけないもんだ」

「......確かにピンチだな」

 

 しかし城嶋は大して動揺していなかった。

 そしてこちらに狙いを定め、一足で距離を詰められた。


「は......?」


 左足のワンステップで目の前まで近づいてきた。

 心なしかこれまでよりも動きが素早い。

 

「んなわけ......」


 城嶋の右ストレートが顔面に飛んでくる。

 早い。強化した目でも追い切れなかった。


 グニャリ。

 視界が歪む。

 自分が何処にいるか認識出来ない。

 気が付くと仰向けになっているようであった。

 手足の感覚は消えていた。

 体を上手く動かせない。今の一撃で体が限界を迎えたようであった。


「......一つ君は勘違いをしているようだが」


 城嶋の声が何故かはっきり聞こえた。


「俺の右足は特殊能力ギフトなんかじゃない。元々は全然上手くボールを蹴れなくて、役立たずとか言われてきた。だけどそれでも必死で努力して、何度馬鹿にされたって諦めずに練習して来たんだ」

「そしてようやく俺の右足はこのレベルにまでなった。まだまだ未熟だけどね」


(あの右足が特殊能力ギフトじゃない? 努力の賜物だと......?)

 太一はその話が信じられない。

 人間離れした技を持っていたのだ。それが特殊能力ギフトじゃない......?


「だからこの右足は特殊能力ギフトじゃない。俺に特殊能力ギフトというものがあるならばそれは......」

「幾度の逆境を乗り越えてきた、この"心"だ!」


(そんなの......ふざけるなよ)

 信じたくは無かった。

 だが現に城嶋が逆境に陥った後に繰り出された一撃は、こうして太一を戦闘不能の状態にするほど強烈なものであった。


「はは......ははは......」


 思わず笑いがこみ上げる。

 笑うしかない。

(なんだよこれ......あいつはどこまで主人公してやがるんだよ)

 城嶋の特殊能力ギフトはあまりにも強力なものであった。

 それにピンチで強くなるなんて、まるで物語の主人公だ。

(あいつが主人公なら、俺は主人公に途中でやられる悪役か......)

 突然手に入れたこの"力"も、この物語を盛り上げるためのものに過ぎないのだろうか。

(俺に世界が"力"を与えたのは、俺を城嶋の引き立て役にするためだったのか......)

 この物語の主役は初めから城嶋だと世界に定められていたようだ。

 そして太一に与えられた役割はかませだとでも言うのか。

 そんなこと......。


「降参しろ、赤城太一。お前の負けだ」


 主人公様が悪役に降参を促す。

(俺は何のためにこれまで......)

 この戦いにすべてを懸けていた。

 それなのにこんな負け方をするなんて......。

(俺はこいつを引き立てる為だけに生まれたとでもいうのか......)

 そんなこと、納得できるはずもない。

 ならば......。

(復讐する......! 目の前のこいつに、俺をこんな形で生み出した世界に)

 だが体が動かない。

 だとすれば、取れる手段は残り一つだ。




(俺の全てをかけて復讐してやる!)



 ――怒りで自らの体を書き換える。

 もうこの体がどうなろうと構わない。

 極限まで身体能力を向上させる。

 本能による静止も振り切る。

 限界を突破した。もう後戻りできない。

(後は......)

 最後に残された脳、それさえも......。

(書き換える......。もうこの世界に未練はない。目の前の人間と世界を壊せればいい)

 太一は自らを構成する全てを作り替えた。



「......シュウ......ル」


 太一が立ち上がる。

 その目は狂気に満ちていた。もう理性の輝きは無かった。


「フクシュウシテヤル」


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