最終決戦 -限界突破-
太一は異様な姿で決闘場に立っていた。
目は獣のように敵意がむき出しであり、全身に刺さる細かい石を抜くこともしない。
そのため体の至るところから血が流れている。
歩くたびに骨が軋む音がする。
体は明らかにこれ以上の戦闘が不可能と思われる状況である。
それなのに、平然とそこに立っていた。
「まだ戦う気か。止めておいた方がいい。危険だぞ」
城嶋は忠告のつもりで太一にそう呼びかける。
が、太一は止まらない。一歩一歩こちらに歩み寄ってきた。
「オマエコロス。フクシュウスル」
太一はうわ言のようにブツブツ呟きながら城嶋に近づく。
不気味な光景であった。
「仕方ない。止めを刺させてもらうか」
城嶋は左足で地面を蹴る。
そして砕かれて出来た石の中でもとりわけ大きな物、野球ボールを二回りほど大きくした位のサイズの石を太一目がけて蹴る。
太一は避けなかった。
その石は太一の胸に直撃した。
しかし太一は止まらない。一歩一歩城嶋のもとに歩み寄る。
「な......」
いくら左足とはいえ、城嶋のそれはかなりの"力"と技術を持っている。
そして城嶋は特殊能力によって本来以上の"力"を出した一撃であったはずだ。
それなのに太一はもろともしていないようであった。
「化け物か......」
城嶋が無意識に後ずさる。
それが合図となった。
「ウガアアアアア!」
太一が跳躍する。
城嶋は太一の体当たりにより押し倒される。
太一は城嶋に馬乗りになる。
「フクシュウシテヤル」
太一は指を突き立て、城嶋の両目目がけて右腕を振り下ろす。
「くっ......」
城嶋は寸前のところで、ピンチによって底上げされた"力"を使って太一を突き飛ばし、不利な体勢から抜け出した。
「目潰しは反則だよね。ええと......これは太一君の反則負けにすればいいのかな」
審判の清水がどうすればいいのか戸惑う。
「いやいい。続行だ。それに太一君の様子がおかしい。多分反則とか言ったところで聞きやしない」
城嶋は守りの構えを作りながら呼びかける。
「太一君、このまま戦えば君の体が壊れるぞ。もうやめるんだ」
しかし太一は何も答えず、再び城嶋のもとへと近寄り始める。
「オマエコロス。フクシュウスル」
「心が壊れたのか......?」
既に太一に言葉は通じていない。
いくら傷つこうが止まらない太一の姿は、生き物に備わっているはずの生存本能が消えているようだ。
しかし、獲物との距離をじわじわと詰め、射程圏内に入ると一息にとびかかるその戦い方は、人よりもずっと生き物めいている。
野生の獣のような狩猟本能がむき出しになっていた。
「ウギャアアア!」
太一は咆哮をあげると、城嶋に再び飛びかかった。
城嶋も寸前のところで回避する。
しかし太一は止まらない。
太一は何度も何度も城嶋に飛びかかる。
その度に城嶋は回避する。反撃の隙は無く、ガードしても押し倒されてしまえば不利になるためだ。
戦いは一方的な物になった。
攻撃が効かないものに対して攻撃すれば、ただ隙を生むだけの行動となってしまう。
城嶋は回避に徹し、太一の攻撃を躱し続けた。
だがその度に体力を消費する。
「くそっ......」
今度は立った状態のまま、太一が目を狙い指を突き出す。
城嶋は体を90度に折り曲げて何とか回避し、直ぐに距離を取る。
だが太一はその距離を一瞬で詰める。
城嶋に休む暇は無い。
城嶋の敗北は時間の問題であった。
そして今の暴走した太一に負けることは死を意味する。
城嶋はよく回避した。
右足を負傷していることを忘れさせるほど機敏に動いた。
しかし遂にその時は訪れた。
「ぐっ......」
城嶋は回避先にある石に足をとられた。
一瞬だった。
しかしそれは致命的であった。
「ガアアアアア!」
太一が城嶋に突っ込む。
城嶋は太一に上を取られた。
必死に太一を突き飛ばそうとするが、太一は動かない。
「フクシュウダ!」
太一は両手で城嶋の首を絞めた。
「......!」
城嶋は何とか脱出しようとするも無駄であった。
城嶋に死がゆっくりと、だが着実に近づく。
しかし城嶋の目に諦めの色は無かった。
「明から離れろぉぉぉ!」
清水が太一の体を引きはがそうとする。
清水も相当の"力"の持ち主だ。
しかし太一を城嶋から引き離せない。
「グオオオオ!」
太一は城嶋の首から手を放し、清水を突き飛ばす。
ズドン。
清水は観客席近くの壁に勢いよく激突した。
「うう......」
「萌! お前何てこと......」
「コロス!」
再び太一は城嶋の首に手をかける。
「シネ!」
もう誰も太一を止める者はいない。
このまま城嶋が死ぬと思われたその時、観客席から会場に響き渡る叫びがあがった。
「イッチ!!」
「太一!!」




