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爆乳の挑戦者 ー1ー

 



 革命部が結成されて数日、挑戦者は一向に現れなかった。

 部が結成されて早々の休部状態である。

 太一としても、この状況はまずいと感じていた。

 小説や漫画によってインスピレーションは得ているものの、実際に体を動かしてみなければ、実戦で有用かどうかさえ分からない。

 太一は戦いを欲していた。


 

 だがそんな太一の思いとは裏腹に、部室の雰囲気はのどかで平和なものだった。

 他の2名の部員はコーヒーを啜りながら思い思いのこと、黒木はオカルト本を、小木はバトル漫画を読んでいた。

 

 

「黒木ネキはオカルトに興味が好きなんか?意外やな~」

 

 小木が漫画を読み終わったところで黒木に声を掛ける。

 

「私自身はあまりないわ。ただ、友人が興味あったから......」

 

 黒木は言葉を濁しながら答える。その表情は髪に隠れて読み取れなかった。

 せやったかとそれ以上追及せず、小木は漫画の続きを取りに席を立った。


 

 コーヒーを啜る音とページをめくる音。それらが規則的に繰り返される夕方。

 その心地よいリズムは人を眠りへと誘う。

 太一も気づくと目を閉じ、眠りに落ちようとしていたその時――。



「赤城太一君いるー? 私と勝負してよー!」


  元気の良い声と共に、扉が開け放たれた。突然の大音量に、太一の眠気は吹き飛んだ。

 太一はその少女に目を向ける。否、自然と目が向いてしまうのだ。体の一部に。

 小木も同じところを見ていた。キタコレ......などと訳の分からないことを呟きながら、顔を真っ赤にさせていた。

 そう、その少女は巨乳の保持者(ホルダーオブバズーカ)だった。

 

 

「ねぇ、何ぼっとしてんのよ。早く決闘を始めましょうよ。ところで3人いるけど誰が赤城太一君?」

 

 巨乳の少女は部室を見回す。3人もいたことに少し驚いているようだ。

 

「赤城はそこにいる彼よ。私は黒木沙羅。審判を務めさせてもらう者だわ」

 

 流石に無視するわけにはいかないと思ったのか、太一を指し示しながら黒木が案内を始めた。

 

「あっちにいる彼は小木君といって、ただの手伝いよ。ところであなたの名前を聞かせてもらってもいいかしら?」

「私は3年の小倉あずさ。なるほど、あれが赤城君ね。それじゃ手合わせよろしく!」

 

 そう言って太一のもとに歩み寄って来る。小倉が一歩足を前に進めるたびにポヨポヨと揺れる。何がとは言わないが、揺れるのだ。

 遠くではおぅふ......とうめき声を上げながら小木が鼻血を噴出させていた。

 黒木がそれに冷ややかな目を向けながらもティッシュを差し出していた。

 

「よろしく......」

 

 小木のような醜態は晒すまいと必死に冷静を装いながら差し出された手を握った。

 

 しかし身体の接触は太一の脳に、いや本能に更なる刺激を与える。

 本能の強い欲求は、身体に変化を促す。太一は下半身の一点に血流が集中に気が付いた。

(鎮まれ、俺の本能モンスター......! そのための理性だろうが!!)

しかし理性が本能を打ち負かすことは出来なかった。

 人間の人間足らしめる理性も、生物として太古の昔から受け継がれてきたDNAの拡散欲求の前では無力だ。

(だが人間は、周りの人間を欺く技術も発達させて来たんだ......!)

 太一は早々に握手を切り上げ、ポケットに手を突っ込む。これでズボンの不自然な膨らみは誤魔化せるはずだ。

 小倉は少々訝し気な表情をしたが、それじゃ行きましょとだけ言って、一人先に決闘場へと向かった。

 どうやらばれなかったようだ。

(勝ったぞ本能モンスター......。これが人間の力だ!)

清々しい気分で太一は決闘場へと向かう。

 

 が、途中で黒木に声を掛けられた。

 

「赤城君、にやけているわよ。それに何故ポケットに手を入れてるの? ......あぁ......」

 

 黒木の目に軽蔑の色が混じるのを、太一は気づかなかった。




 決闘場にたどり着く。

 2度目だが、前回とは明らかに雰囲気が異なっていた。


「あずさ先輩ファイトです!」

「先輩! 頑張って!」


 そんな声援が挙がっている。

 客席を見ると、まばらではあるが、観客が入っていた。

(予想はしていたけど......マジかよ......)

 観客は当然皆、小倉を応援している。完全にアウェーの状態だ。

 これまでの戦いは全て観客が居なかったため、身体が固くなる。

 

「イッチ、ファイトやで~!」


 歓声の中から一際間が抜けた応援が太一の耳に入った。

 誰からの応援か、見なくても分かる。

(こんなとこでイッチとか言うなよ)

 その応援は恥ずかしくはあったが、不思議と緊張はほぐれていった。

 

「それでは二人とも準備はいい?」

 

 黒木の言葉に両者が頷く。

 

「では、試合開始!」



「悪いけど、賞金は頂くわ」


 小倉はそう言うや否や、数歩で間合いを詰め、右手で拳を作る。

(早い! だが......)

 その動きは北原や坂東達とは段違いである。

 しかし太一の強化された身体能力は、その動きに十分対応可能であった。

 目の前で揺れるおっぱいに目を奪われそうになりつつも、太一は繰り出された拳をサイドステップで避け、空いた脇腹を目がけて右足を振りぬく。

 だが小倉は太一の右足に反応し、左手でガードをしてみせた。

(こいつ、今までとは違う......)

 これまで戦ってきた相手は皆自分より格下であった。しかし小倉はそれらとはレベルが違った。

(だが、俺の"力"の方が上だ)

 しかし、小倉の"力"は太一の持つそれよりは劣る。太一にはそう感じられた。

 小倉は太一の右足を防いだ左手を痛そうに振る。

 

「やるな~。これはちょっときついかもな~」

 

 その後も小倉が幾度も拳を繰り出すが、太一は上手く避けらられた。

 そして小倉が攻め疲れた隙を太一は見逃さなかった。

 

「そこだ!」

 

 小倉が目の前に踏み込み、右手を振りかぶったその瞬間、腹がら空きになったことを太一は見逃さなかった。

 連続の攻撃で疲労した小倉の右腕は必要以上に大振りになっている。これならば、相手の右腕がこちらに届く前に、攻撃を与えることが出来る。

 太一は左手で拳を作り、小倉の腹へ目がけて繰り出そうとした。


 --その刹那、目の前で何かが爆ぜた。

 その衝撃で思わず太一は目瞑ってしまう。

(なんだ今の!)

 一瞬動きが止まってしまった太一のもとに、小倉の右ストレートが炸裂した。

 太一は吹き飛ばされ、地面を転がった。

 会場からは歓声が上がる。


「なんだよ今の......?」

 

 太一は十分な間合いをとり立ち上がると、思わず疑問を口にしてしまった。

 何が起きたのか、多少時間を置いた今でも、さっぱり分からなかった。

 小倉は得意げな笑みを浮かべ、自信満々に太一に尋ねた。



 

「ねぇ赤城君。"爆乳"って言葉、知ってる?」



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