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夏休みとポカリの味

 夏休みが始まった。

 約束通り、俺と真琴と杏奈と美波さんの四人で、絶叫マシンが多くある遊園地&願掛け寺にいくことにした。

 提案したのは杏奈だ。


「叫びたい……心の奥底から……!!」

 杏奈は教室で叫んだ。

「……叫んでるじゃん?」

 俺は椅子に座ったまま言った。

「こんなの叫んだことにならない。青空に向かって雄叫びをあげたいんだよ」

「いつも練習で叫んでるじゃん」

 昨日もサッカー専門のグラウンドで「あがれあがれあがれええええ」と叫んでる杏奈を見たけど。

「乗りたいんだよー。絶叫コースター、鷹丸山」

 最近新しくできたジェットコースターで、頻繁にCMしている。

 正直に言うと、俺はあまり絶叫コースターが好きじゃない。

 いや、苦手な分類に入る。

「俺はあんまり行きたくないなあ……」

「実は寺にも行きたい」

「は? 寺?」

 俺はポカンと口をあけてしまった。

 某遊園地の近くに、願掛けで有名な寺がある。

 それは山の中に10個以上あって、全部の寺を貰って御朱印を貰うと、スポーツの神様が微笑む……らしい。

「寺にダマされてるわ、それ」

 俺は断言した。

 そんな面倒なことを要求する神様、居るわけない。

 普通の神様なら、その時間を練習に回せというはずだ。

「有名なんだよ! 野球の中多選手も、サッカーの田野辺選手も、みんな行ったの、それで代表に入ったんだから!」

 代表。

 そっか、もうすぐアンダー20の試合があるんだ。

「行こうよ、スポーツの神様なら芸能にも御利益あるかもよ」

 真琴が言う。

「え、じゃあ私も行きたいな。夏に人気投票あるの」

 今日は髪の毛をポニーテールにしている真波さんが言う。

 こうなると反対するのは俺だけ悪人だ。

「……了解。日にちは任せた。こっちは8月入ったらコンサートで身動き取れないからな」

「お、アーバンっぽいね。芸能人っぽいね!」

 杏奈が両手の人差し指を銃に見立てて、バンと撃った。


 約束の日の、朝6時。

 最寄り駅にくる直行バスを待つ。

「……クソみたいに眠い」

 俺はリュックを地面に置いた。

「中で寝られるからいいじゃん?」

 ここに朝6時にくるために寮を5時に出た。

 真琴は本当に朝に強い。

 今日も俺より早く起きて、キッチリ準備を済ませてから俺を起こした。

「真琴は昔から朝強いの?」

「新聞配達してからかな。起きようと思った時間に起きられるよ」

 真琴はスッキリと切った髪型で言った。

 長めの前髪はそのままに、黒い髪の毛が、キレイに整えられている。

「……昨日床屋行ったの?」

「美容院ね」

 真琴が訂正する。

「床屋だろ」

「美容院のがサービス良いよ? スタッフも可愛い女の子も多いし」

「よし、その店を教えろ」

「一馬は床屋で良いんじゃないかな」

 真琴がにっこり微笑んで言う。

「なんでだよ!」

「ヒゲがあるから。僕はヒゲが無いから。ね。正当な理由でしょ」

「じゃあ俺がマッキーでヒゲを書いてやる。今晩にでも書いてやる」

「いつも一馬が先に寝るじゃないか」

「眠いんだよーー」

 俺は悔しくて叫ぶ。

 俺は夜は10時過ぎたら常に眠い。朝は7時まで寝たい。

「筋肉だな、真琴には筋肉が足りない」

 俺は真琴の肩を掴む。

 骨と皮しかないような肩。

小菱形筋しょうりょうけいきんも、棘上筋きょくじょうきんも、小円筋しょうえんきんも、もっと育てたほうが良さそうですねええ」

「ぎゃはははやめろよ筋肉バカ、触るな!!」

 真琴が逃げ出す。

 こうなったら筋肉オタク上等だ。

 しかし真琴の体は本当に細い。

 筋肉をつけるにしても、女と男の違いくらい頭にいれるべきか。

「おっはーー!」

 振向くと杏奈が両手にコンビニ袋を持って立っていた。

 いつものようにパーカーに、中はキャミソール。

 ショートパンツから逞しい足が見えてみる。

 女といっても杏奈のように日常的に鍛えてると……別格だけど。

「おはよう」

 美波さん、今日は髪の毛をほどいていて、いつも通り右側に触覚のように縛ってある。

 七分丈の淡いべージュのパンツに、花柄のキャミソールに、白いシャツを羽織っている。

 手首には輪のようなアクセサリーを数個していて、それがキラリと光った。

 おお……女の子っぽい。

 俺、杏奈以外の女の子と出掛けるの初めてだよ。

 あれ……真琴は?

 真琴は女の子認定……? と、チラリと見ると、普通のTシャツにGパンなんだけど、細く伸びた腕と首は、三人の誰よりキレイで、正直一番好みで……。

「いやいやいや」

 俺は頭を振った。

 何が好みだ。真琴は女の子が好きだと宣言してたじゃないか。

 それに真琴は俺の親友。うん。

「いい天気だね」

 俺が無言で頭を振っていると、美波さんが覗き込んで来た。

 その頬は少しピンクとラメが見えて、化粧しているのだと気が付く。

 オレンジ色の口紅も大人っぽい。

 何で俺がこんなに化粧に詳しいかと言うと、お母さんが日舞でコテコテの化粧してるのをみてるからだ。

 俺は女の子の化粧は好きだ。

 化粧は他の人に向ける【可愛く見せたい気持ち】だろ?

 まあ日舞は舞台で派手に見せるための演出だけど、美しくみせたい、別人になりたい気持ちの塊だ。

 そういう気持ちは素直に褒めるべきだと昔からお母さんに言われて育った。

「口紅、いいね、オレンジで。似合ってる」

 俺は言う。

「え? 本当? 嬉しい」

 美波さんはアゴに指を乗せた。

 その指先は、キレイにピンク色の塗られていた。

 ここまでチェックするとしつこいかな。

 母ちゃん、俺は見事な小姑になりそうだよ。

「一馬って、そういう事だけは、ちゃんと言って偉いよね。私の足はどう? ショーパンだぞ?」

 杏奈が言う。

「ハットトリックの足ですね」

 昨日杏奈は練習試合で3点決めてた。

 サッカーの練習場はダンスレッスン室からよく見える。

 だから見事な加速でシュートを決めた杏奈を俺も真琴も見ていた。

「黄金の足じゃーー、じゃなくて!」

「杏奈さんは、左足でもシュート出来るんですね」

 後ろから真琴が言う。

 杏奈がクルリと回る。

「最近練習中なの!」

「良いことだと思います」

「ホント?」

 盛り上がる二人を見ながら思う。

 この二人はお似合いというより、アスリート仲間だな。


 バスが来る。

 正直、どういう席順で座ればいいのか分からなかったので、わざと一番後ろから着いていく。

 杏奈が真琴狙いなら、俺は美波さんと座るべき?

 でも、普通に考えたら俺と真琴。美波さんと杏奈だよな。

 とりえあず一番最初に乗り込んで、俺が座って隣に誰がくる……?! 的なドキドキもしたくないので、無難に一番後ろから……と思ったら、俺より後にバスに乗りたがってる人が。

「……先に行きなさいよ」

 杏奈だ。

 俺以上に意識してる!!

 ダメだ、お前気持ち悪いぞって笑いたいけど、真琴に怒られる。

 これはどうするべきなんだ?

「杏奈ー! まだ間に合うからポカリ買ってきてー」

 一番最初にバスに乗り込んだ美波さんが言う。

「あ、わかった!」

 杏奈は近くの自販機でポカリを買った。

 そしてバスに入って行く。

 俺は一番最後にバスに入る。

 バスに乗ると一番前の窓側に真琴。スマホをいじっている。

 二列目の入り口に美波さんが立っていた。

 美波さんは、バスに入ってきた杏奈に、視線で真琴を指す。

 ほら、渡しなさいよ、の合図。

 杏奈がコクリと頷いて、ポカリを持って真琴に近づく。

「これ!」

「あ、ありがとう」

 真琴は笑顔で受け取った。

「ううん、前に飲んでたから……」

「持ってきて無かったよ、ありがとう」

「うん!」

 杏奈は通路に数秒立って真琴を見ていたが、サッと二列目の美波さんの隣に座った。

 そっちかよ!!

 俺は真琴の隣に座った。

 ああー……人の恋愛は、見てるだけで緊張するー。

 真琴は軽い音をたててポカリの蓋を開けた。

 そして一口飲む。

 俺の方を見て

「飲む?」

 と微笑んだ。

 俺はそれを受け取って、ガバババババと半分くらい飲んだ。

「おいおい、飲み過ぎだよ。二時間トイレなしだよ? 大丈夫」

 真琴が笑う。

 なんだろう、いっそ一気飲みしたかったくらいだ。

 理由は分からない。

 チラリと後ろを見ると、椅子の隙間から杏奈が俺を睨んでいる。

 別に~。悪いことしてないし~。



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