いちゃいちゃハッピーエンド
そこで窓ガラスが割れる音がした。
同時に、悲鳴を上げる男達の声がして、それはすぐに静まる。
何が起こったんだろうと思っていると、金色の髪が僕の目にうつり、次に僕の方をその入り込んできた彼が見て、
「大丈夫か、ユキ!」
「アル!」
アルが僕の前に現れ、心配するように僕を覗きこむ
連れ攫われた時に暴れたので服が随分破れかけていて所々肌が露出していた。
そしてアルが僕の手枷を切り裂いてくれて、上着をくれる。
それを着て、僕達は歩き出すと、後から追いかけてきて壊れた窓から入り込んできたイザクが、
「アル、勝手に行かれては困ります!」
「イザクか、この程度平気だ」
「ですが……」
「それよりもユキに服を着せてくれ。……俺が困る」
「……神子様、しばらくこの格好でお願いします」
イザクがそう僕に言って、ええ、何でと僕が思っているとアルが半眼になる。
「いいから服を寄こせ」
「私は何も聞いていませんし何も聞こえません」
「だったらお前の服を脱がして着せてやる」
「きゃー、アルに犯される~」
「……気持ちが悪い」
「でしょうね。貴方は私が好みではありませんでしたからね」
良く分からない会話をする二人を見上げる僕。
そんな僕にイザクは微笑んで、
「とりあえずのお話は、神殿に戻ってからにしましょうか」
と言われてしまい、僕が別の人が持ってきた服に着替えている間に、イザクは僕のすぐ傍にいてくれたけれど、アル達は僕を攫った残党たちを捕まえに行ってしまったのだった。
その後全員をどうにか捕まえられたらしいアル達と共に僕は神殿に戻ってきた。
戻ってきた僕は、まず服を着替える……前に。
「あの、体を洗いたいのですが。何だかぬるっとした感触がまだ残っている気がして……」
僕がそう告げると、シャワーを浴びる準備をしてくれたのだけれど、
「これ、どうやって使うんだろう」
シャワーのような器具はあるけれど、それがどうやったら使えるのかわからない。
困ってペタペタいろいろな場所を触っていると、赤い球のようなものに触れるとお湯が出た。
それを傍にあった石鹸のようなものやシャンプーのようなものを借りて、綺麗に洗う。
あの変なものに這われていた感覚は、完全になくなっていてとても気持ちがいい。
そうなってくると、自然と先ほどのことが思い出される。
見知らぬ人物に連れて行かれたと思ったがその人達は大丈夫だったけれど、その後に怖い人達に連れ去られた。
しかも僕を何かに利用しようとしていたみたいだった。
この力、神子としてのこの力と役割。
それってなんなんだろうと僕は思う。
身代金と言っていたから、多分僕は重要な存在なのだろう。
でも昔、敵対していたこともあって危険だとか、攻撃魔法が強すぎると閉じ込めないとと言っていた気もする。
これから僕はどうなってしまうんだろう、そう僕は不安に思う。
けれど多分、神子だから大丈夫だし、それにアルともまた出会えた。
このアルは、この神殿の人達にとっても重要な人物らしい。
更に付け加えるなら、また、僕を助けてくれた。
そしてようやく色々説明してくれるらしい。
アルから聞くようイザクに言われていたので、きっとアルは神子と関係があるのだろう。
きっとそうすればまたアルとしばらく一緒にいられたりするのかなと僕は期待してしまう。
そう思いながら体を綺麗に洗った僕は、髪と体を拭いて以前と同じような服に着替える。
白いケープのようなものを羽織って、靴を履いて……再び案内されてアルの部屋にやってくる僕。
そこに会った椅子に、アルは僕を見て自分と反対側の席に僕を座るよう進めるので、大人しく僕は座る。
けれどアルはしばらく黙ったままで、アルは僕から顔を背けている。
何でそんなに僕を拒絶しようとするんだろうと僕が思っているとそこでイザクが、
「ほら、アル、話してください」
「……分かったよ」
そこで深々とアルがため息をついてから、
「俺の名前は、アルベール。この国の王子をやっている」
そうアルは話を切り出したのだった。
そう僕は説明を受けたのだけれど、僕は首を傾げた。
だってその名前が聞き覚えがあったから。
「その名前、昔、“夢”出会っていた可愛い友達に似ている気がする」
僕の呟きに、イザクがぶっと吹き出した。
そして何故かアルがバツが悪そうな顔をしている。
何でだろうと思っていると、アルが深く嘆息してから、
「それはそうだろう。俺はその、ユキの夢で会っていたアルベールだったからな」
「でも、昔はもっと小さくて女の子みたいに可愛かったよ?」
それがこの髪の色と瞳の色が同じで、似ていると思ったけれど違うかもと僕が思った理由だったのだ。
それに……あんなに可愛い子がこんなふうに男らしく成長するのはちょっと許せないというか、僕よりも背が高くて体格がいいのも悔しいというか、こう、こう……。
僕なりにコンプレックスを刺激するものを全部目の前のアルが持っているので、それを認めたくない気持ちが僕にあった。
けれどそれを聞いたイザクが吹き出してお腹を抱えて笑い出し、アルはむすっとした表情になる。
何でだろうと僕が思っていると、アルが僕に近づいてきて僕の頭をポンポンと軽く叩いて、
「小さくなれ、小さくなれ……ああ、すでに俺よりも背が低かったな、すまない」
「な! 何でわざと僕が気にしていることを言うんだ! そもそもどうしてあんな可愛くて素直なアルベールが、こんなに意地悪になっているんだ!」
「……誰が女の子だ。女の子みたいに可愛かったのはユキの方だろう。今だってそうだし」
「ひ、酷い! だって昔のアルは女の子みたいに可愛くて繊細で……というか今は僕だって少しは男らしく、逞しくなったはずだ!」
「現実は残酷だな」
「く、どうしてすぐそうやって……アルは昔はもっと優しくて可愛かったのに!」
「……昔と今じゃ違うんだよ。ただ、ユキがこの歳になってもここまで可愛いままだというのは予想外だった。もっと男らしく成長していて、そういった意味でも諦めきれると思ったのに、まさかこんな風なままなんて」
深々とため息をつくアルに、僕は、
「諦めきれるって、何が?」
アルがしまったという顔をした。
つい口を滑らせてしまったというような表情。
そういえば神子になってこうやってアルと話しているのにも意味があるらしいことも、以前、イザクが言っていた気がする。
つまり僕が神子になってここにいるのも、
「アル、全部アルのせいなの? アルが僕に来て欲しいから、僕がここにいるの?」
「……それで、それを聞いてどうする? どうせすぐに俺はお前を元の世界に戻すつもりだし。……もう二度と会いたくない」
アルにそんな衝撃的なことを直接言われて僕は、凍りついてしまう。
確かに迷惑をかけたのは分かっているけれど、そんなに嫌われる事をしてしまったのだろうか。
二度と僕なんて見たくないくらいに嫌になってしまったのだろうか。
現に僕なんて見たくないというかのように、アルは僕から顔を背けている。
どうしよう、僕が不安を感じているとそこでイザクが、
「あー、その件ですがアル、一言いいですか」
「なんだ、イザク」
「本当にユキ様に未練の一欠片もなく顔も見たくないほどに、大嫌いなんですね?」
「……もちろんだ」
ダメ出しされて僕はさらに憂鬱になる。
けれどそんな僕にイザクが、
「ユキ様、アルの前に飛び出す前に何かありませんでしたか? 召喚された後にです」
「えっと、何だか体を弄られてすごく感じさせられました。でもそこで悲鳴をあげていたら声が聞こえて……」
「声?」
「アルの僕の名前を呼ぶ声が聞こえたんです」
クルッとイザクが顔を回してアルの顔を見た。
アルは更にイザクから顔を背けるように視線をそらす。
じー、とイザクがアルを見つめるが、アルは顔を背けたままだ。
そんなアルにイザクは深々とため息を付いてから、
「実は以前この世界に召喚された神子を元の世界に戻そうとした王子がおりまして。ただとある事情で失敗したそうですが」
それにアルがぴくっと反応をする。
けれど僕としては気になることが、
「あ、あの、もしかして僕、もう元の世界に戻れないのですか?」
「いえいえ、正常な形でうまく関係が築ければ、元の世界と行き来は簡単に出来るようになりますよ」
「そうなんだ、じゃあ何時でもアルに……あ、ごめん、アルは僕に会いたくないんだよね」
そう僕は悲しくなりながら言うけれど、アルは無言のままで何も答えない。
何でそんなに嫌われちゃったんだろうと僕が思っているとそこでイザクが、
「いえ、完全にアルがユキ様に未練が全然ないなら帰すのはいいのですよ。なにせ、少しでも未練があると、ユキ様がこちらに召喚される時にあったようなその場所で、しばらく体を弄られたりして、元の世界に帰れずに延々と甘い責め苦を味合わされて大変なことになりますからね~。あ、因みにそんな目にあった神子は、それに王子が気付いて慌ててこの世界に戻してもらえたそうなのですが、すごく感じやすい淫乱な体になってしまってしばらく大変な事になってしまったのですが……いやー、アルが全く未練もないなら大丈夫ですね。すぐに強制送還の準備を整えましょうか」
といった話を細かく説明したイザクは強制送還の準備に向かいますね~と歩き出した。
その肩をアルがガシッと掴み、
「……今の話は本当か」
「嘘だと思うのでしたら、ここにも図書室がありますので神子関連の本をお読みになればよろしいかと。昔からアルは神子なんていらない、だから読む必要がないと全く学んでいませんでしたからねぇ。神子については、一般的な話しか知らないでしょう?」
「……く、八方塞がりか」
「そうです、なので諦めてください」
そうイザクがにこやかに告げると、アルがぐったりしたように椅子に座る。
どうやらアルは何かを諦めたらしい。
そこでイザクは僕の方に向き直り、
「それで神子様がどうしてこちらに召喚されたのか、まだお話していませんでしたね」
「あ、はい。そういえば僕、どうしてここに召喚されたんですか」
そう問いかけるとイザクがにやぁと、悪戯っぽく笑い、
「ユキ様は、アルの恋人として召喚されました」
僕とアルがその言葉に凍りついたのだった。
凍りついた僕達だけれど、アルの方が正気に戻るのが早かった。
即座にイザクの胸ぐらをつかみ、
「……どうしてそういった誤解を与える言い方をした。幾らお前でも許さないぞ」
「ははっ、乳兄弟ですからね。心配してしまうのですよ」
「こんな心配はされたくない。というか、ユキ、今の話を本気にするな」
アルが僕にそう声をかけた所で僕は正気に戻った。
戻って顔を赤くしてこそこそとイザクの後ろに隠れる。
何だか凄い発言を聞いてしまい、まともにアルの顔が見れない。
そもそもそういった対象だと自分が見られていたと言われても心の準備が……そこまで考えて僕は気付いた。
アルに対してはそういったものに対する嫌悪感がない。
あれ、アルは男で、僕をそういった対象にするかもしれなくて……でも、だからといって昔、男子校で男に告白された時とは全く感覚が違う。
何でだろうと僕が思っているとそこでアルが、
「……気持ちが悪いだろう? 友達としか思っていない相手にそういった対象にされて。以前ユキは女の子が好きだと言っていたし、ユキが俺を選ばない事なんて初めから分かっていたさ。だから召喚を止めきれず、ユキをこの世界の神子として召喚してしまった責任は俺にあるから、必ず元の世界に戻してみせるから」
そう言って僕に優しく微笑みかけるのを見て、僕は昔と変わっていないなと思う。
あの頃もアルは僕に優しくて、だから、最後に別れた時のような悲しそうな顔を今もしているから、僕は、
「別に、気持ち悪いなんて僕は思わないよ」
「……ユキ?」
「た、確かにそういった経験は僕にはないから、その、性的なそれに関してはわからないけれど……アルの事は、僕だってずっと忘れられないくらい好きで、多分初恋だったと思う」
「でも……」
「それにここに来て結局ずっと手助けをアルはしてくれたし、そして僕が攫われても助けに来てくれたもの。そういった意味でも、なんていうのかな、惚れ直しちゃった気がするかも」
「つまり?」
聞き返してくるアル。
どうやら明確な言葉で告げて欲しいらしい。
アルの瞳が期待と不安で揺れている。
だからまっすぐにアルを見て僕は微笑み、
「僕はアルが好きです……はわわ」
そこでアルが僕を抱きしめる。
それは強く締め付けてちょっと苦しいけれど、でもそれだけ僕を思ってくれているのだろうと僕には分かったから、僕も抱きしめ返す。
そうすると更に抱きしめる腕の力が強くなる。
でもこんなふうに抱き合っていると、最後のあの時、僕はアルに嫌われていなくて、そして今までずっと好きでいてくれたんだと思って……僕も忘れられずに、好きだと思っていてよかったと思う。
そしてそうやってしばらく抱き合っているとそこで、
「さて、そろそろ愛を確認されている所悪いのですが、続きをお話してもよろしいでしょうか」
イザクが僕達に言う。
僕は真っ赤になってアルから離れようとしたが、アルが放してくれなかった。
「アル、放してよ、苦しいよ」
「ああ、すまない。これくらいでいいか?」
抱きしめる力をゆるめてもらうと苦しさがなくなるので、アルにくっついているせいか心地よくなってしまう。
そのまますりすリと、僕は甘えるように胸のあたりに顔を擦り付けてしまう。
アルの匂いと体温が近くに感じられて幸せな気持ちになってぼんやりとしてくる。
そんな僕達を見てイザクが、
「因みにユキ様がアルを萌えさせると、“ぶにぶに”や触手が大量に発生します」
「……なんで?」
そんな僕にイザクが、
「確か、この国の王子が神々の末裔だといった話はご存知でしたか」
「うん、それは知っているけれど……」
「なのでこの王子であるアルの感情の変化でこの世界その物でもあり魔力である精霊が変質して、魔物が生まれたりするのです。ようは、怒ったりするとその感情に呼応して、攻撃的な“魔物”に精霊が変質してしまうのです。なので王子達は傍に神子達がいると安定するので、それ故に神子達は、魔物達を打ち払うと言われています」
「そうなんだ、不思議な世界だね
「しかもそんな神子は王子を魅了しているので、王子の感情で生まれる魔物も神子を求めてそちらの方に現れやすいと言われています」
そういえば、あの貴族ブラストの奥さんは、魔物が一斉にいなくなって助かったと言っていて、それは神子が来ていたからなのねとも言っていた。
つまりそういうことなのだろうけれど、それって僕、とっても危険だったんじゃと思う。
そこでアルが、
「それもあって……まあ、切掛は変な奴に連れさらわれそうになったのもあるが、ユキが自分の身を守れる魔法を持っていないのかもって思ったのも、連れて行こうと決めた理由だ。ただ、ユキは攻撃魔法が使えたが」
そう言われて僕は目を瞬かせてから、期待しながら、
「じゃあ、攻撃魔法が使えなかったら、もっと一緒にいてくれたのかな?」
「……心配だから確実にここまで連れてきたな。もっとも、あまりにユキが可愛いから変なのに狙われて……事情は聞いたけれど、それでもまだ納得出来ない部分はあるが、それはおいておくとして。あの貴族のしたことも、元はといえば俺のせいで魔物狩りの人手が足りなかったのも原因だし、悪い事をしてしまった。まさか彼の息子が、重い病気にかかっていたなんて知らなかった。医者に見せたら、今はもう完全に治ったようだが」
「! そうなんだ。あの子に癒やしをかけたのは僕だけれど、上手くいっているみたいだね」
「ユキが癒したのか? そんな話も聞いた気がするが……全くあの貴族、護衛も付けずにウロウロしていると思ったら、妻が戻ってこないか、戻ってきたら少しでも早く家に戻って息子を癒せるようにという配慮だったとは思わなかった。なんでこう、誤解を招くセリフを言うんだか……いや、確かにもっともらしい話に聞こえるとはいえ、何でああなんだ?」
そこで、今の愚痴で僕を攫おうとした貴族の人とアルは話したらしいと気づく。
ぶつぶつと呟くアルに僕は、
「アルだって僕に嘘をついていたじゃん。国のお金をを盗んだとか、追われているとか?」
「全部は嘘じゃない、そして少し借りただけでもそもの時用の分だから……手はまだつけていないんだよ」
「……やっぱり嘘なんじゃないか。ここまで徹底的に避ける事なんて無いじゃないか」
「あのな……俺はもともとユキが好きだったんだ。だから手放した方が幸せだろうと思ったんだ。なのにユキは、こちらに再び来て。来ようとするときも俺の名前を呼ぶからつい答えてしまったから引き寄せられるように俺の前に来るし」
「あ、それで僕、アルの前に現れたんだ」
「ユキの悲鳴が聞こえたからな。ただ俺も追われているから、魔法を出来る限り使わないようにさせて、ユキを目立たないようにして……大変だったんだ。そもそもああやって別れたのだって、若い内に俺が手を出さないようにって配慮だし。一定の年齢まで神子であるユキが来ないようにって」
「そんな理由だったなら説明してくれればいいのに。何も言わずに泣いたままだから嫌われたかと思ってた」
そんな理由だと僕は知らなかったのだ。そんな僕にアルは、
「一応決まりで、一八歳前後になったら呼ぶことになっている。これは一般常識だったらしい。俺は、あの時は知らなかったが」
「あれ、僕、イザクさんに年齢聞かれたのですが」
「ユキがどこからどう見ても子供みたいに見えたからじゃないのか?」
そういえば子供じゃなくてよかったと、イザクは言っていた気がする。
その後誤魔化されたがまさか……そう思っていると、イザクはニッコリと微笑みそれ以上何も言わなかった。つまり、暗黙の肯定。
酷すぎると思っていると、そんな僕の頭を軽く撫ぜてからアルが、
「再会したら、以前の記憶よりは、俺が背が伸びたせいか背は小さくて女の子みたいに可愛くなっているし、そうしたら不安にもなるし、剣を渡したら振り回せない所も可愛いし、俺がお金に困っているらしいからと魔法石は差し出すし素直すぎて悪い奴に騙されるんじゃないかと心配になるけれどそんな所も可愛いし、ベッドに入ればひっついてくるし、何処まで俺を誘惑すれば気が済むんだ? 我慢する為にそういった行動を取らないといけない俺の身にもなってみろよ。大体、こんな女の子みたいな可愛い容姿をしているのも……」
「だから僕は男らしいもん。イザクさんもそう思いますよね」
そこで僕は先ほどからにこにこ笑って僕達の様子を見ていたイザクに話を振ると、イザクが微笑み、
「実は最初に男ものの服と女の子ものの服を用意したのは、ユキ様の性別が分からなかったからなんですよ」
「……」
「ほらユキ、言った通りだろう? 男らしいと思っているのは、ユキだけだ」
僕はとても酷いと思った。
思ったので僕はアルに抱きついて、顔をこすりつけてやる。
アルが凍りついたように動かなくなるのを見てザマァと僕が思っているとそこでイザクが、
「ユキ様、今のようにユキ様がアルを無意識の内に誘うだけで、“ぶにぶに”や触手が大量に発生してしまうんですよ」
「! え、こうやって抱きつくだけで?」
「ええ、沢山のぬるっとした“ぶにぶに”が今、発生しようとしているでしょうね」
「そ、そうだ、アルの声は“ぶにぶに”に届いているみたいだったよ、何度か交戦したけれど」
「……交戦したのですか。しかもユキ様の前に現れたという事はユキ様を狙って……いえ、これ以上それに関しては私も何も言いませんが、でもそうですね、確かに“ぶにぶに”はアルの欲望から生まれているので、アルの意思を認識しやすいので大人しくなったと考えられますが、その全部にアルが命じたりは出来ないでしょうね、数が多すぎると」
「そんな、僕はアルに抱きつけないの?」
「いえいえ、そういった可愛らしい行動をするだけでアルが欲情するから生まれるわけでして、それを発散させればいいわけです」
「そうなんだ、それでどうやって発散させればいいのかな? というかムラムラするとすぐにその魔物は生まれるの?」
「いえ、タイムラグが有りますので。すぐに発散させてしまえばいいんですよ。そもそも我慢なんて出来るはずがないんですよ、アルもお年頃ですしね。……これ以上はアルに直接聞いてくださいね。僕は怒られてしまいそうですから」
そこでイザクは笑いながら話すのを止める。
気づけばアルがすごく怒った顔で睨みつけていたから。けれどそこでイザクが、
「ああ、いい忘れていましたが、この街の東のほうでちょっと危険な魔物が出現する兆候が観測されたそうですよ。ユキ様がさらわれた頃の影響でしょうか」
くすくすとイザクが笑って、アルが渋そうな顔をする。
けれど僕には意味がわからずアルを見上げて、
「どういうこと?」
「……俺の感情と連動して魔物が発生するんだが、その、ユキが攫われた時に俺が怒り狂ったから、凶悪な生物が出てきたかもしれない」
「アルの意思に従ったりしないのかな、“ぶにぶに”みたいに」
「攻撃性のある危険な魔物は怒りで理性が飛んだ時に生じるから、俺に従わないので倒すしかないんだよな」
「倒しに行くの? アル。確か王子様がそうしているって聞いたし」
「それは、そうだ」
「じゃあ僕も付いて行って援護するね。一応、辺りを破壊する様な強力な魔法も使えるし……えっと」
そこで僕は、イザクに嘘をついていたのを思い出した。
あまり強力な魔法攻撃は出来ないと。
なのでそろりとイザクの様子を見ると、イザクは相変わらずの笑みを浮かべながら、
「後でその件に関しては、ゆっくりとお話しましょう。ユキ様」
「……はい」
笑顔の中で威圧を感じつつ僕は大人しくそれに頷くと、アルが、
「イザク、ユキを怖がらせるな」
「ですが、過去に痴話喧嘩で神子が敵に回ったり、攫われて敵になったり色々ありまして、それもあって警戒せざる負えないのですよ」
「……だからといって、ユキを怖がらせるな。俺は初めて会った時からずっとユキが好きで、初恋も全部ユキなくらい大切なんだ」
そう惚気られて僕は真っ赤になってしまう。
そんな僕の頭を撫ぜながらアルは更に、
「魔法は精霊に呼びかけて起るもので、俺に従うような精霊達なら俺の愛した神子は、精霊に愛されやすく強い魔法が使えてもおかしくは無いだろう?」
「……そういえば歴代神子の魔法も強いものだと読みましたね。私とした事が騙されてしまいました」
「イザクにしては珍しいな。だが、もう一度言う、ユキを怖がらせるな」
そしてそんなアルにイザクは、仕方がありませんねと苦笑したのだった。
そして僕達は、その危険そうな魔物が出てくる兆候の場所に向かう。
ここに来る前に僕はアルに言われた。
「ユキ、危険だからここに残っていた方がいいんじゃないのか?」
「でも、神子にこんな風な力があるのって、アルと言うか王子様をサポートするためなんじゃないのかな」
「……確かにそれもあるらしいと聞いた事はある。だが、俺はユキが怪我をしたら……」
「危険だと思ったら引くから。それに、アルの邪魔しないようにはするから!」
そう僕が言うと、同じ馬車に同席したイザクにアルが、
「ユキの保護を頼む」
「お任せください。……そうですね、この機会にユキ様の使える魔法について、洗いざらい全部話していただきましょうか」
そんな風に言われて僕は、ゲーム内の魔法と同じものが使えるのでその魔法について説明すると、イザクが難しい顔になる。
「……大抵一つの魔法となるのですが、そのゲームの魔法という形で、ユキ様は様々な魔法が使えると。これは今まで例を見ませんね。そんな多彩な魔法が使えるとは……」
「でもこの力のお陰で、攫われたあの貴族の息子さんも癒せたんですよ」
「……確か難病を患っていましたね。それを一瞬で治すとは……これは、悪用されないようにしないといけませんね」
イザクの瞳が、真剣な物になる。
それに僕は危険生物として隔離されてしまうのかと、ビクッとしているとそんな僕をアルが抱き寄せて、
「ユキにそんなことを俺がさせるはずがないだろう」
「アルはそうかもしれませんが、最悪事態を我々は想定しています。これだけの力を持った神子様ですから、アルはしっかり捕まえておいてくださいね」
「……当然だ。俺にとっては、傷つけたくなくてわざと会わないようにしたくらい大切な相手だからな、ユキは」
そう言って更にアルは僕の方を抱いて自分の方に引き寄せる。
何となく女の子みたいな扱いをされている気がするけれど、でも僕は性別なんて気にならないくらいアルが好きだし、何だか大事にされている気がするので嬉しいなと僕はぼんやり思う。
全部こういった行為をされるのがアルだから僕は受け入れてしまうのか。
昔とは違っているように見えて優しいアルが好きだと僕は自覚をしているから何も不安がないのかもしれない。
そう僕は思ってちらっとアルを見上げると、額に口付けされる。
その場所からすごく熱くなって真っ赤になると、
「キスだけでそんな風なのか?」
「あ、あたりまえじゃないか!」
「これから更にもっと凄いことをするかもしれないのに、キスだけでそれでそうするんだ?」
「これ以上って……」
僕は何をするんだとそれ以上聞けなくなってしまう。そこでイザクが、
「あー、お取り込み中申し訳ありませんが、目的の場所につきました。でももう、出現しちゃったみたいですね……」
イザクの気楽そうな声音とは裏腹に、獣の咆哮のような声が聞こえたのだった。
黒い靄のようなものが大きな何かを形作ろうとしている。
背中に生えるように大きな翼が見える。
それは同時に二体存在しているようだった。
とても大きくて怖い、見ているだけでそれを感じる僕にアルが、
「俺……こんなに怒っていたのか。確かこれくらいのものが出たのは、暗殺者から俺をかばってイザクが大怪我をした時くらいか。そうだったよな、リカルド」
「あー、そういえばそんなこともありましたね。たく、アルを捕まえれば後は気楽にできると思ったのに今度はこんなものとか……」
リカルドと呼ばれた男に向かってそう告げたアル。
どうやら彼も顔見知りらしいが、そこでイザクが彼に近づいていって彼にキスをする。
途端にその人はやる気が出たようだ。
なるほど、そういった関係かと僕が思っていると、
「くるぞ」
一言告げられた旬ん完にそれは姿を表した。
それは赤い竜だった。
それも背中に羽があり、首をもたげたかと思うと……僕は嫌な予感がして、選択画面で防御強化の魔法を使うと同時に、その竜が火を吐く。
眼前いっぱいに炎が広がる光景に僕はぞっとするけれど、熱くもなんともなかった。と、
「ユキ様、今何かをしましたか?」
イザクに言われて僕は防御強化の魔法ですと答えると、イザクは沈黙してから、
「このユキ様の近く周辺の人間全員にここまで防御力の高い魔法を?」
「え? そうなんですか? ……現実的な効果となるとそうなるのかな?」
ゲーム内では防御力強化としか現れていなかったけれど、実際にはこういった効果なのかもしれない。
そう答えた僕にイザクは後でもう少しゆっくりとお話しましょうね、と囁いた。
僕はその時の笑顔が怖くてぷるぶる震えていたけれど、後ろに下げられて、アル達の戦闘を見ていた。
それを見てアルって強いんだなとか、戦っている姿ってすごく真剣でかっこいいんだなとか、見入ってしまう。
その油断がまずかったらしく、流れ弾のような炎攻撃が来たけれど焦ったようなアルに助けられた。
気をつけろと怒られて謝って、足手まといなのは分かっているけれど、でも守られているのが嬉しいと思ってしまった。
どうやら僕はアルがとても好きらしい。
ちなみにアルが助けなくても僕の防御強化が聞いているのであの程度大丈夫ですよと、イザクが僕達の会話に水をさした。
そしてどうにかその二つの竜を倒す。
意外にも早く僕達はその凶悪な魔物を倒すことが出来たのだった。
街に戻ると貴族のおじさん達、ブラストが謝りに来ていて、それで少し話をしたり、病気の子が僕を撮り合ってあると喧嘩をしていたのはいいとして。
今日はゆっくりとお二人でということで僕は同じ部屋にはいる。
シャワーを浴びたり色々して、少し話をしてそれで終わりだと今日は僕が思っていたのだった。
アルと同じ部屋だったので、嬉しくなってしまった僕は、色々と油断していたのかもしれない。
気付けば僕は、アルに押し倒されていた。
見上げると、アルがじっと熱っぽく僕を見ている。
これから料理される獲物になった気がして、不安を覚えてしまう。
「アル、あの、えっと、僕……何かしたかな?」
「そうだな、したな。だから俺は我慢しない事にした」
微笑むアルが何だか怖い。
僕は何をしたのだろう、と先ほどの行為を思い出してみるけれど良く分からない。
確か、またアルに会えたと嬉しくなってしまったのと、先ほどの戦闘で戦っているアルが格好良く見えてしまったのだ。
それで惚れ直したなと思って、そしてアルにも嫌われたわけじゃないと分かって、ずっと好きだったんだなと僕は自分の気持ちを自覚したのだ。
そしてアルが僕を好きだから、僕をこの世界に呼んでくれたらしい。
そう考えて僕はベッドに腰かけていたアルの隣に座った。
座ってそのまま僕はアルに抱きついた。
「おい、ユキ……どうした?」
そう言って頭を撫ぜてくれるアル。
それが心地よくて僕は更にアルにギュッと抱きつきながら、
「名前、ユキって呼んでくれるようになったね」
「それは、まあ……名前を呼んだら別れるのが辛くなるから、ごめん」
「いいよ、でも確かユキって人がアルの初恋なんだよね。それって僕の事だって期待していいかな?」
見上げて期待をしながら僕はアルの顔を見上げると、それにアルは黙って、それから深々と溜息をついて、
「いいぞ、それで正解だからな」
「わーい」
「でも、だからその……一方的な感情の押しつけが怖かった。ユキが友達としか見ていないのに俺はこんな感情を抱いていて、そういった意味でも嫌われるのが怖かった」
「アル……でも僕、アルにまた会えてよかったよ。そういえば年齢は同じくらいなんだよね。会った時にそう聞いたもん」
そう思いだして僕はアルを見上げた。
僕よりもずっと背が高くて、男らしい体つきで、顔つきも可愛いというよりかっこ良いという感じだ。
何でこんな風なんだろう、昔は僕よりも背が小さくて可愛かったのにと僕が思っているとそこで、
「どうした? 何か言いたそうな顔になっているぞ?」
「……どうしてアルは僕よりもこんなに背が高くなっちゃったんだろう」
「俺としては、ユキがこの年までこんなに小さくて可愛くなっているとは思わなかった。……まさか、いや、何でもない」
そこで何かに気付いたようなアルが、何でもないと呟く。
でも僕が気になって、腕をくすぐって言うように仕向けると、アルが、
「……会うたびにユキに、ちいさくなーれ、ちいさくなーれ、せがのびるな~と念じていたんだ」
「……酷い、酷過ぎる。僕だってもっと大きくなりたかったのに」
「いや、でもこれ位の方が抱きしめやすくていいんじゃないのか」
「……いや、そんな風にアルが思っていたなんて……いいもん、小さい特権を利用してこうしてやる」
頭に来た僕はそう呟いて、アルに更に抱きついて胸元のすりすりと顔をこすりつけてやる。
それにアルが、おい、止めろと僕の体を、僕の肩を掴んで引きはがそうとするけれど、僕は牛とくっついたままそれを楽しんでいた。
けれどそこでアルは深々と溜息をついて、
「これは全部、俺を挑発したユキが悪いんだからな」
その意味が良く分からず僕が首をかしげている間に、アルが僕をベッドに押し倒したのだった。
そうやっていちゃいちゃしていた僕達ですが。
それから僕はアルに連れられて、アルのいるお城に連れてこられた。
お城というように、白くて幾つもの尖塔が見える城だった。
ただこのお城を見て僕が思ったのは、
「あれ、僕が初めて会った場所と違う?」
「ああ、ユキに会ったのは、別荘だったから。あの頃は、自分が人と違うと思って、怖がられていると、泣いてばかりいたから」
「そういえば初めて会った時も悲しそうだったね」
「俺のこの力が他の子供達には怖く見えるらしい。今は隠す術を覚えたけれどな」
「……寂しかったから僕を呼んでくれたのかな?」
「そうかもしれないな。もうユキと会わないと決めた時は、とても辛かった」
「でもまた会えて嬉しいよ、僕は」
そう僕が言うと、アルがぎゅっと抱きしめてくる。
そうしていると早く中に入って下さい、警備の人の立場も考えて下さいとイザクに言われてしまい、僕達は慌てて体を放した。
そして僕はアルの部屋にやってくる。
ここがアルの部屋かと思って、そのまま寝室に向かおうとした僕をアルが襟首を掴む。
「何処に行く気だ、ユキ」
「アルのベッドに飛び込んでごろごろしようかと」
「止めてくれ。ここに来てユキがベッドにいたらまた襲いたくなる」
「……そんなにこの前のが良かったの?」
「それはまあ……でもそんなにやったらユキが疲れるだろう?」
「よし、ここでアルを誘って僕だって大人だというのを見せつけてやる!」
という理由で僕がアルに抱きつくと、そこで部屋が開かれた。
現れたのは、芽衣だ。芽衣は僕がアルに抱きついているのを見て驚いたように目を大きく見開き、
「あれ、ユキ、その人とくっついちゃったんだ」
「う、うん、初恋だし」
「あー、夢であった人だっけ? でもよかったねまた会えて。僕もね、夢であった人に会えたんだよ」
そういってメイが紹介してくれたのは、銀髪の男性だった。
瞳がアルと同じ空色で、でも何となくこう……危険を感じる。
そこで芽衣が僕をじっと顔を見て、次に上から下まで僕を眺めてから悲しそうな顔になる。
「でもユキ、そこの人に食べられちゃったんだ」
「え、えっと……」
「分かるよ、何となくそんな雰囲気だし。く、その内ユキは襲っちゃおうって狙っていたのに」
えっと僕が驚いている内に僕はアルに腕を引っ張られて抱きしめられた。
そのまま睨みつける様にアルは芽衣を見て、
「ユキは渡さない。それと、リーンベール、それを捕まえておけ、俺の神子に手を出させるな」
「おやおや、神子なんていらないと逃げ出したのに、随分と大切にしているのですね」
そのリーンベールと呼ばれた人は、楽しそうに笑いながらアルをからかう。
それにアルは渋面を作り、
「……俺の一方的な都合でユキをそんな目に会わせられない。大好きだから酷い事はしたくなかったんだ」
「昔から貴方は憶病でしたね。そういった優しい所も好感は持てますが、私の場合は、手に入れて逃がすつもりなんてありませんでしたからね。というわけで、芽衣。浮気しようとしていた発言に対して、何か言いわけしたい事はありますか?」
そこで芽衣が珍しくびくっと体を震わせて顔を青くして、
「じょ、冗談だって、リーン」
「私の神子なのに他の男に目移りするようでは困りますね。芽衣が一体誰のものなのかきちんと教えておかないといけませんね。体にね」
凍りついた芽衣をリーンは楽しそうに抱きしめている。
ただいまの会話からすると、芽衣はこの人とそういった関係であるらしい。
また神子だとするとこのリーンという人は、
「隣の国の王子様?」
そう呟いた僕にアルが、
「そういえばユキには説明していなかったな。彼はリーンベール。隣の国の王子だ。魔物退治に協力する事もあって、顔見知りでよく会っている。というよりはこの城に近い場所にリーンの城もあるから」
「そうなんだ、隣の国だって言うけれど何でそんなに近いのかな?」
「原初の光と闇の神が仲が良かったせいか、俺達も年が同じなせいか代々仲が良くて交流があるんだ。だからこうやってこの世界でユキの友達でもあるそこの神子にも会えただろう?」
「そういえばそうだね、あ、でも僕達、これからずっとこの世界にいるのかな?」
ふと不安になって僕は聞いてみるとアルは首を振り、
「元の世界に戻れる。ただ召喚には応じてもらう契約をしないといけないが」
「それを破るとどうなるの?」
「体が疼いて仕方が無くなって、自分から男を求める様になる」
「……この世界って、僕にエロい事をするために作られたんじゃないかという気がしてくる」
「それは、俺達神々の末裔に神子は愛されているから仕方がない」
言い切ったアルを僕は恨めしそうに見つめる。
けれど機嫌を直せというかのようにキスされてしまえばそれ以上もう何も言えなくなって。
そしてそれから一時的に帰宅という事で、僕達は送還された。
元のゲームをしていた部屋に僕達は戻されたけれど、
「夢だったのかな」
「夢じゃないと良いね」
そんな僕と芽衣が話した次の日はお休みで。
狙いを定めたかのように僕達は召喚されて、
「ちょ、アル……」
といった目に僕はあってしまったり、他にも色々と僕の魔法関係であったけれど、僕はアルといちゃいちゃしながら過ごしていくこととなる。
「おしまい」




