↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
8/25

僕の人生

僕は幼い頃からアーティストを目指していた。

僕の人生の軸に音楽があったから。

一人になった時も、歌ってる時だけは、自分を保つことができた。

音楽がなければ、僕はきっとこの世には存在していない。

音楽は好きだ。

僕を唯一裏切らないものだったから。

歌えば歌うほど、聴けば聴くほど、僕を導いてくれる。

だから、他には何もいらなかった。

彼女に出会うまでは。

あの日、彼女に出会わなければ、僕は僕の為だけに歌うだけで終わっていたんだと思う。


オーディションを何度も受けてきて、よく言われたこと。

「もっと感情を込めて歌ってみてほしい。」

僕にはそれが出来なかった。

僕は僕の為に、歌を歌っていたから。

人の気持ちとかよく分からないし、ましてや、好きとか嫌いとか、そうゆう感情すら抱いたことがなかったから。


でも、今は違う。

今の僕には夜織が居る。

だから、もう一度だけ受けてみようと思った。

年齢的にも制限がついてきて、応募できるものが減ってきた。

自分に諦めるのも、もう疲れた。


夜織には、オーディションを受けることはもちろん、分かってるだけの審査日程と、それに伴って連絡の遅れや、会える時間が減ることは伝えた。

夜織からは一言だけ。

「やっと、夜織くんの歌が世界に届く日が来るんだね!」

と。

彼女のこの一言で、より気持ちが引き締まり、僕はオーディションにまっすぐ向かっていった。


今回のオーディションは、書類審査はなく、全員対面からのスタートだ。

そして、今までと違うこと。

それは、ソロでのデビューのオーディションではないこと。

今までの僕は、一人でやることに固執していた。

だから、グループを作るようなオーディションは避けてきていた。

でも、夜織に出会ってからは、人を信じてみるのもいいのかもしれないと思えるようになれた。

審査開場に着くと、たくさんの人が丁寧に列を作り、

案内開始まで待っていた。

その後、緊張で今にも一人一人の鼓動が聞こえそうなほど、静かな控え室に入り、説明を受け、発声練習もせず、僕はずっと座っていた。


「32番。鈴木夜織さん。中へどうぞ。」

「はい。」


中へ入ると、カメラが一台。

審査員は全部で3人。

僕は目を閉じて、深呼吸をした。

夜織を思うんだ。

今の僕には夜織が居る。

大丈夫、大丈夫。


「自己紹介となぜこのオーディションに参加したかと、なぜ別室で発声練習もせず座っていたのか、説明をお願いします。」


控え室にもカメラがあったんだ。

でも、やましいことはない。

理由があったから。


「はい。鈴木夜織、20歳です。

僕は今まで、自分一人の為に歌を歌ってきました。

ですが、大切な人に出会ってからは考え方が変わり、誰かに歌を伝えたいと思えるようになり、人を信じて、仲間と音楽を伝えたいと思うようになれたので、このオーディションに応募させていただきました。

また、発声練習をしなかった理由ですが、気持ちを作ること以外の準備は、家で済ませてきていたので、集中力はそっちに使っていました。」


静かになった。

また、ダメだったんだろうか…。


「…では、ワンコーラス歌ってみてもらっていいですか?」

「はい。」


僕の今までの生きてきた道を、声に込める。


歌い終わると、再び静寂が訪れた。

そして、審査員の方にいくつか質問をされ、僕は部屋を後にした。

一次が通れば、連絡は一週間以内に届くという。

ただし、連絡は通った人だけ。

やれるだけの事はやれたと、今回のオーディションは言える。

どんな結果だとしても、最後の挑戦を悔いなくできたことを、誇りに思おう。



それから、三日後、アルバイト終わりに携帯を見ると、一件の不在着信が入っていた。

見慣れない番号からの着信。

留守番電話が残っていたので、恐る恐る聞いてみた。


「この度は、当社のオーディションにご応募いただき、ありがとうございました。選考結果につきましてのご連絡です…。一次を通過されました。次の審査の日程等の説明をさせていただきたいので、折り返しのご連絡お待ちしております。なお_。」


しばらく放心状態だった。

声も出せず、固まっていた。

それから、対応時間外だったので、折り返しの連絡は明日の朝一と決めて、僕は帰り道夜織に電話をかけた。


「もしもし、こんばんは。突然電話してごめん。…ちょっと声聞きたくて…。」

「こんばんは!突然の電話は嬉しいので、遠慮せずいつでもどうぞ!今ね、ご飯食べてお風呂入って、髪乾かして、スキンケアして…今お布団に入るか葛藤してたけども!お布団の誘惑には勝てず、お布団に入ってます!」

「ふっ。何それ…。容易に想像つくね。可愛い。」

「…突然の電話は嬉しいけど、突然の可愛いはドキドキがすごいので、極力控えながら、多めにお願いします…。」

「うん。可愛い。夜織、可愛いね。本当に癒される…。ありがとう。」

「うう…。こちらこそ、ありがとうございます。」

「今日は他に何してたの?」

「今日はね!お母さんとパンケーキ屋さんに行って_。」


君の何気ない話。

本当に可愛かったな…。

パンケーキ屋さんに行って、パスタ美味しかったとか、ちょっと理解するまでに時間がかかる君の話は、いつ聞いても飽きない。

結局僕たちは、僕がシャワーを浴びてる間も繋げたままで、そのまま朝まで電話を繋げていた。

朝彼女の方が早く起きて、時計を見ようとしたら間違えて切ったらしい。

寝落ち電話のおかげで、いつもより落ち着いた気持ちで眠ることができたと思う。

本当にありがとう。


そして、起きた僕は、折り返しの電話をかけ、二次審査へと進むことになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。