私は
私は、あの人と会って、たくさん話せた幸せを噛み締めながら、ゆっくりと帰っていた。
でも、ふと気付いて、消し忘れたホワイトボードを見た。
行ってらっしゃい!って、何…?
だって、あの人公園で普通に歌ってたのに、それ以上どこに行くと思ったんだろ…。
私、もしかして何か忘れてるんじゃ…。
記憶障害のせいで、あの人のこと、本当は知ってるのに、私が覚えることが出来てないだけなんじゃ…。
でも、それなら日記に書いてるはずだし…。
だめだ。
一人で考えても分からない。
お母さん達に聞いた方がいい。
家に着き、朝ご飯を作るお母さんにトントンと話しかけた。
「私、大切な人のこと、もしかして忘れてる?」
お母さんは、かなり動揺した顔をして、静かに頷いた。
「その人は、歌が上手な人?」
お母さんは、また静かに頷いた。
なら、あの人が、私の大切な人…。
私は、大切な人のことまで忘れてしまってたんだ…。
なら、日記は、その人の為にわざと見えない場所に置いてもらったのか。
私ならそうする。
なら、過去の私もそうしたんだ。
どうしよう…。
どうしたら…。
すると、お母さんがホワイトボードを取り、書いた文字を私に見せた。
「過去も未来も、あなたが決めることよ。自分のしたいようにしなさい。」
私は、考えた。
部屋にこもり、ひたすら考えた。
あの人は、私と曲を作ろうと言ってくれた。
なら、私が記憶を無くせば、思ったことを書いたとしても、何度も何度も同じことを書いてしまう。
それは、迷惑をかけるだけではなく、曲の作成に時間がかかってしまうことになる。
私は、あの人のこと…大切な人のことを忘れてしまっていたんだ。
それだけで傷付け、迷惑をかけた。
これ以上は、だめだ。
でも、記憶が戻ったことをあの人が知れば、きっとまた気を遣わせ、困らせることになる…。
どうしたら…。
大切な人が苦しむより、自分が苦しむ方がずっといい。
大切な人皆が、苦しまない方法は、ただ一つ。
これしかない。
これは、私一人で背負うんだ。
私は、お母さんに携帯で連絡をして来てもらい、今まであったこと全てを説明してもらい、日記も確認した。
そして私は、日記の続きは今日から…。




