24. We almost…
「ーー”Favor me… wi…with your infinite flame! ” 」
最後のあがきとデライラが聖願魔法を唱え出したのに合わせて、ミュゼッタも力を貸した。
相手に合わせたが、魔法の発動が遅く気ばかりが焦る。魔物の腕がぬっと伸びてきて、ミュゼッタはデライラを押し退けた。
かくん、と膝から力が抜ける。
ふくらはぎを痛みが襲った。堪えて魔法の発動に集中する。光とともに魔物が分解されて、散り散りになっていく。滅するまではいかずとも、騎士が狩り残した魔物は負けを知って身を隠すために走った。
女性ふたりがくっついていれば、どちらが聖願魔法を使ったかなど判別できまい。戦闘のどさくさに紛れてのことで、そう何度も使える手ではないが、デライラは火事場の馬鹿力だと自分の手柄を疑わなかった。
「あたくしにあんな力が……!」
ありませんけど、そう思っておいてください。
ひとまず脅威は去った。騎士が点呼をとり、全員の負傷状況を確認する。
「なによ、怪我したの?」
ミュゼッタのふくらはぎは肉が割れて血が出ている。仕方ないというふうにデライラが手をかざしても、パチッと音がして皮膚に届く前に弾けただけだった。
「治癒魔法が……発動したわよね……? え? は?」
固まった姿勢のまま、聖女は混乱している。他の団員の無事を確認し終えたフォーティスがやってきた。
「力を使い果たしたのでしょう。ミュゼッタ、救護所に行くよ」
「はい」
「ごめんなさいミュゼッタ、でも……」
納得いかない、と座り込むデライラをよそにフォーティスがミュゼッタを抱える。自力で歩けたけれど、きっと彼は聞き入れてくれない。
テントの中に入っていても、外周辺はバタバタとしているのが薄い幕越しに伝わってきた。
ミュゼッタを下ろす腕はやさしいけども、薄緑の目はこちらを向いていない。疲れとも違う、不愉快さを表していた。それがどうにも不安を膨らませる。
フォーティスが治癒魔法を使えば、簡単にミュゼッタの怪我は治った。なぜか彼だけがミュゼッタの体を癒せる。
「ありがとうございます」
立ちあがろうとして下についた手の上から押さえつけられる。
「きみは他の人間を守ろうとするけれど、ミュゼッタのことは誰が守るの」
これは、つまらない怪我をして、と責めているのだ。デライラが走って逃げてくれていれば、かばわなければミュゼッタも怪我をしなかった。
「すみません……」
「違う。そこは私の名前を答えて欲しかったのだけど?」
「まさか」
この回答も気に入らなかったようだ。片眉が上がっている。
「ミュゼッタを守れなかった私を責めてもいいだろう」
「ビドジール団長さまが守るのは、わたしだけではないですよね」
一般国民をはじめ部下である騎士団員たちも対象だ。そうでなくてはならない。
「きみを一番守りたかったのに」
「いいんですよ、傷は深くなかったですし」
「よくない。ちっともよくない。きみはほんとうにぜんぜん私のことを見ないよね」
拗ねて言うのは、裏を返せば「信頼してほしい」ということなのだろう。
見ていないなんてことはない、今だってフォーティスに支配されている。じりじりと目線で焼かれる。彼の気持ちをミュゼッタの心に焦げつかせるつもりだ。
目を合わせているうちに、いつしか額どうしがぶつかって、鼻先が触れて、これは、この距離はなんだろう。
「団長ぉ〜どこっすかぁ〜?!」
大事な部下がフォーティスを求める声だ。彼の気が逸れたので、さっと体をひねりながら引く。
熱源は離れた。フォーティスはすんなりと背中を見せてしまう。一言もなくテントを出ていく。ばくばくとする心臓はすぐには落ち着きそうにない。
ーーキス、されそうだった。
しかも今度は唇に。遠慮の頬でも、お遊びのような手のひらでもない。
ぽんぽん、と叩いてくるのはストゥだ。頬ひげがひくひくとして大丈夫か、と訊いている。
大丈夫なわけない。次に彼に会うときはどんな顔をすればいいの。
近づいてくる彼にいやだと感じなかった。唇を避けようという発想すらなかったことにも驚くばかり。
騒ぎに紛れて、こっそり救護テントから自分のテントに移る。血で汚れたズボンを洗って破れを繕わなければならない。村の後片付けをほっぽってきてしまったので、ズボンはつけ置きしておくにしても着替えをしたい。
ズボンの処置をしているとデライラが女性用天幕に戻ってきた。
「足は大丈夫?」
「はい、治癒できましたので」
今夜は彼女も疲れていたのか、おしゃべりをすることなく寝た。
We almost…
(もう少しで……。)




