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19 暗闇

息を切らせて床に寝っ転がる。クララが私の手の縄をどうにか解いた後は、もうただのくすぐり合いになった。暗いところが見える分私が有利かと思ったら、クララは回復魔法を使った時の光を懐中電灯代わりにしてこちらの位置を把握してきた。一瞬とはいえ、暗闇に慣れた私の目が眩んでしまうため結構いい勝負だったと思う。後半は手以外も、脇腹や背中、足までなんでもありルール無用の大乱戦だった。


「はぁはぁ……。どうして……どうしてくすぐってきたんですか?」

「だって……ねえ……?ぜぇぜぇ。くすぐり合いっこって……定番行事だと思わない……?」


捕まっておいて何をやっているのかと思うけど、こういうちょっとあほあほな感じが緊張感をほぐしてくれた。悪くないのかもしれない。後はクララの魔法をライトがわりにして、どうにか脱出するだけかな。


「魔力……もうありません。全部使いきっちゃった……」

「あほー‼︎」


まぁ私には明かりは必要ないんだけどさ。クララ、ひょっとしていつもと違う場所だとぽんこつになるタイプの人?まったくもってヒロインらしくない。

クララの手が、私を探して動いている。私も手を出して握ってあげる。まだ十歳だもの。捕まって、暗い場所に放り込まれて不安なのかもしれない。


「クリスティナちゃん、これからどうやって脱出しましょうか?」


おおう。詰みの盤面だと思ってたけど、クララはまだ脱出の希望を捨ててないらしい。私の手を握る力が、ぎゅっと強くなる。思わず握り返すと、クララがこっちを向いた。……。だいぶ服が乱れてる。さっきのくすぐりあいのせいかな?真っ暗だから自分の格好が理解できていないようである。まあ言わないけど。


「クリスティナちゃん、今回こんな事になってしまったのは、私のせいです。だから、私はどうなってもいい、次に外に出られた時、クリスティナちゃんだけでも逃げ出してください。私が頑張れば少しは時間稼ぎになるはずです。きっと、アルバート殿下はそういう事も含めてわたしを補佐係に任命したはずです」

「それは駄目!」


思わずクララに抱きつく。震えてる。そうか、クララからしてみれば、自分の護衛対象が自分のミスで危険に晒されてる状況でもあるのか。

ちょっと頭を働かせないと。ここで何をすれば二人でハッピーエンドに辿り着けるか。


まず、今回のイベントは乙女ゲームのものではない。わたしがイレギュラーな動きをしたから発生したものだ。ヒロインだけの場合、クララは一人だけで市場には行かない。だから、ここで攻略対象と出会うとか、そういうのはない。

次に、悪役令嬢ものとしての観点。ここまでヒロインとぐずぐずになってる時点でほとんど参考にはならないかもしれないけど、ヒロインと仲良くなる作品も結構ある。

もし。もし、ヒロインがクララで無かったのなら話は単純。クララは取り巻きの一人。ここで欠けても、主人公のトラウマ設定イベントくらいにしかならない。今のところ王子とクララが好き合ってるという話も無いし、ハリーとも普通に仲のいい幼馴染って感じだからこっちが妥当?

いや、襲われてトラウマになるのは学園に来る時山賊で経験してる。同じイベント二回はなかなか考えづらい。

クララがヒロインだった場合。ここでクララは死なない。ひょっとすると、自己犠牲の精神のヒロインがうんぬんとかで、クララは友達と来る予定が代役で私になった?

あり得ない。このタイミングでクララが学園から消える意味が無い。というか、私が転生してる時点でクララが乙女ゲームの主人公を超える働きをするとは考えられない。

クララの覚醒。この世界は、戦闘系乙女ゲームか戦闘系乙女ゲームに転生した悪役令嬢の世界の二択。

どちらにせよ戦闘パートは数多くあるはず。ここまでの時点で、クララが攻撃魔法を使う気配は無い。

ただ注目したいのは、クララが聖女候補であるらしい事。どんな形であれ、おそらく覚醒したらクララは正式に聖女になるだろう。そんな重大イベントは乙女ゲームが始まってからだと思う。まさか主人公が十歳の恋愛ゲームじゃないよね?全ての前提が崩れる。


ほかの場所から助けは来ない。クララには、今以上の戦力は期待できない。ここでの誘拐は、私達でなんとかしないといけない。


…………。私?


今までいいところが無くて、この場にいて、覚醒の余地を残している人物。


私なら当てはまる。黙った私を、不思議そうに見上げるクララをぎゅっと抱きしめる。安心していいよクララ。


ふっふっふ、ここからは、主人公の時間だ。



突然、足音が聞こえたかと思うと、天井の格子の上の板が取り外された。眩しい光に、思わず顔を背ける。ギイっと音がして、天井が開いた。


「……。あれ?あんた達、縄がほどけて……。何やってんの?そういう関係?」


もちろん部屋の中に照らされ浮かび上がるのは、少し服がはだけたクララと、それを抱きしめる私。


「えーと、どうして縄がほどけてるのかは置いといて、ついて来なさい」

「いや、待ってください!違いますから!クリスティナちゃんにはちゃんとした婚約者がいますから!」

「うんうん、そうだね。そういう事にしとこうか」

「だから!違いますって!クリスティナちゃんからも何か言ってください!」

「えっ、私と遊ぶのそんなに嫌だった……?ごめんね……」

「いいえ、嫌ではないですけどでもそれとこれとは問題がまた別と言いますか」

「別に嘘をつく必要は無いんだよ?黒髪の子泣きそうになってるし」


違う。こんなの絶対違う。私の類い希なる深遠な頭脳が導き出した結論によれば、この後始まるのは主人公覚醒からのチート無双だったはずなのに。


「えっと、クリスティナちゃん、私はクリスティナちゃんの事大好きですけど関係を認めてしまうと私がアルバート殿下に殺されてしまいますし。っていうか、そろそろ抱きつくのどうにかできませんか?それが誤解を生んで、私は一秒ごとに一歩ずつ破滅へ追い込まれているんです」

「ごめんね……。私鬱陶しかったよね……。初対面からテーブルの上で歌って踊ってた狂人なんて、いくらクララが優しくても友達にしたくなかったよね……」

「あーあ、泣かしちゃった。テーブルの上で踊るのはドン引きだけど、せっかく頼ってくれてるんだから頑張りなよ」


なんで私捕まって、クララにも拒否られてるんだろう。真っ暗な時はあんなに楽しんでたじゃん。人に見られて困る事はしてないはずだ。馬鹿みたい。だいたい私がぶっ倒す予定だった上からのぞいてくる誘拐犯は、私達をここまで誘導して来た自称元メイドだった。こんな明らかな非戦闘員相手に無双したって楽しいわけない。


「ああっ、ごめんなさいクリスティナちゃん!違うんです!違うから、誤解しないでくださいっ!」

「本当?一生そばにいてくれる?」

「クリスティナちゃん⁉︎さては分かってからかってませんか⁉︎」

「一生友達でいてくれないの……?どこかで私達、友達じゃ無くなっちゃうの……?」

「うわ、ピンク髪は友達を平気で見捨てるタイプの人間なんだな」

「いいえ!そんな事ありません、クリスティナちゃん、二人で幸せになりましょう!こうなったら、諸々の壁を超えて、新しい世界へ突き進みましょう‼子供は一姫二太郎がいいですね‼︎︎」


どうして私、嘘メイドとぐるになってクララの事からかってるんだろう。こんな事してる場合じゃないはずなのに。クララにこんな事言わせて、何が楽しいのか分かんない。

だいたい私悪役令嬢だったはずじゃん。まだ子供時代なんだから、もっとやりたい放題できてもいいはずなのに。ヒロインと王子が保護者枠ってどういう事だ。おかしいよ。私手を叩いたら出てくる紅茶とか一回やってみたかったのに。なんで年に二回もさらわれないといけないの?


「うるさい!雑談が長い!黒髪はノリ良すぎ!早くそこから出て私に連行されろー‼︎」

「クリスティナちゃん!私達の子の話ですよ⁉︎ちゃんと聞いてください‼︎」

「もう嫌!限界なの!私にしたいようにさせてよ‼︎」


そこにはもはや、何も無かった。


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