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分離寄生命一蓮托生(ぶんりきせいめいいちれんたくしょう)  作者: 波麒 聖
『路地裏万華事件』
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第百話 信用得る為

「……少し遅くなりましたが、現状について説明してよろしいですか?」

 俺達は老年の男、野分 邦彦(のわき くにひこ)にしがみ付かまれそうになり、助けを求めてきた堤ちゃんを野分さんから取り、また鋭い目を向けられながらも話を進めた。

「そうだな、奈々恵ちゃんは君達をある程度信頼している様に見える。話を聞かせてもらおう。……っと、ここで立ち話もなんだ、君達、上がって行きなさい」

 そう言いながら野分さんは自身が飛び出てきた扉へと進める。俺達はそれを承諾し、靴を脱ぎながら奥へ入った。そして案内された客間らしき部屋で、堤ちゃんに緑茶出してもらい、その後話は再開された。

「端的に聞こう。君達は何者だ?」

 野分さんの言葉に場は一瞬静まるが、俺がそのあとすぐに返答した。

「俺は川蝉のメンバーです」

「川蝉!……なるほど、依頼完了ってことか。失礼だが、川蝉の証明になるものはないかい?さすがに言葉だけで信用は出来ない」

「それはそうでしょう、……これで良いでしょうか?」

 俺はそう言いながら袖を捲り、前腕部にある緑色の刺青いれずみを見せる。

「おぉ、川蝉と翡翠、そして風と斬撃のシルエット。確かにこれは川蝉の証明になる……が、これは川蝉のことをある程度知らないと見ても分からないぞ。私は依頼書を書いたのだから、控えや写しを見せてくると思ったが」

「依頼をしていたのですか……すみません、俺達はその依頼を確認していないんです。俺達は貴方達に説明した後、川蝉の所まで同行してもらう予定だったので」

「そうか……」

 話が少し食い違ってしまったことで、野分さんは少し警戒しているように見えた。そして数秒の沈黙の後、野分さんは「最後の質問だ」と前置きを言いながら聞いてきた。

「では、なんで菜々恵ちゃんを助けたんだい?」

 その言葉には、強い意思が込められており、返し方によっては、再び戦闘になることも辞さないと言った意思であった。だが、俺はどこ吹く風といった様子で、気迫に押されて冷や汗を流している彩芽を横目に見ながら返答した。

「簡単に言いますと、主の命で助けた。分かり易く言いますと、川蝉の命令とかではなく、私情で助けたってことですね」

 俺の言葉に、野分さんは少し目を見開いたが、すぐに表情を戻し、俺の目の奥を見、審議を見定めようとした。そのすぐ後、野分さんは目線を外し、彩芽、千姫、そして堤ちゃんを順に見、そしてやっと言葉を発した。

「なるほど、私情ね。つまり君は、そこの髪を結んだお嬢ちゃんの従者で、そのお嬢ちゃんの命令で、川蝉を介さず、菜々恵ちゃんを助けた訳か。だが、何かしらかで川蝉に協力してもらい、その説明やら確認やらをする為に同行してもらいたいと」

 俺の少ない説明で、伝えたかったことの大半を理解した野分さんに驚きつつも、俺は頷いた。すると、野分さんはおもむろに彩芽の方を向き、しっかりと見つめる。彩芽はそのことにビクッと驚きつつも、真剣に見つめ返す。俺も、野分さんとこう言う行動をとっていた為、野分さんが何かを感じ取っているのだろうと彩芽は理解し、俺と同じ行動を取っているようだ。そのまま数秒経つと、彩芽は冷や汗を増やしていき、野分さんの瞳は鋭くなっていった。そのため、俺は『新藤悠漸流しんどうゆうぜんりゅう動術どうじゅつ中伝ちゅうでん烈威れつい』と言う、感じ取ることの出来るほどの強い意志や赤力のこもった視線で威圧をする。すると、野分さんが驚き半分威圧による恐怖が半分といった様子でこちらを見た。そして彩芽は、凝視から解放されたことによって、ほんの少し乱れていた息を整えると同時に、「ふぅ」と息を吐いた。

「野分さん、あまり視すぎ(・・・)ないでくれるか」

 そう俺が言うと、野分さんはビクッと肩を震わせた。

「あぁ、確かにそうだ。そんな簡単に私情で人を助けられるのかと思ってね。それをよく見て見たくなってしまったんだ、すまない。お嬢ちゃんも、すまない」

 野分さんは少し言い訳を踏まえつつ俺に謝り、彩芽にも謝った。彩芽はフルフルと手を振りながら「大丈夫です、気にしていませんから」と言ったが、自身が深くまで覗かれていたと言う感覚が実際にあったのか、謝罪を受け取った。

「信用は得られたでしょうか?」

 俺の言葉に、野分さんが、「あぁ」と答える。

「少なくとも二人が言ったことには嘘を感じなかった。お嬢ちゃんも優しい心の持ち主のようだ」

「そうか」

 その言葉に俺は頷き、次の話へと移った。

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