第九十六話 眠る少女
「お帰り、遅かったね」
俺達が家の前に着き、柵を開けると、タイミング良く、と言うか分かっていたかのように扉が開く。俺はその事に少し驚きつつ(最近は少し慣れてきている)中に入る。
「その子は?」
扉を開けた彩芽の他、もう一人の同居人、刃境 千姫が、俺の背負っている少女の事を、訝しげに見つめる。
「何処で拐かして来たの?」
突然の爆弾発言である。だが、今回それを真に受けるような者は此処には居ない。彩芽も現場に居たからだ。そして彩芽は、今回の事情を簡潔に説明した。
「なるほど」
千姫はその一言返答し、リビングへ戻っていった。
「そうだ千姫、結果はどうだった?」
俺がそう言うと、蒸らしたタオルを持ってきた千姫が「特に何もなかった」と言って、俺が背負っている子の汚れを拭き取った。
「ありがとう」
俺が感謝の気持ちを伝えると、千姫は嬉しそうに微笑んだ。取り敢えず客間で少女を寝かせよう。そう思い、俺は少女を背負ったまま客間に運び、寝かせたあと、同伴していた彩芽に話しかける。
「彩芽、この子の怪我を治してくれないか?」
現在、肌が見えている部分の傷は治してあるが、服の下までは確認でいていない。触診は(彩芽が)行って骨に異常がないのは分かっているが、細かい打撲や擦り傷はあるだろう。
「分かったわ」
「何か必要なものはあるか?」
「うーん、千姫が蒸しタオルを持って来てくれたから、ミネラルウォーターを持って来てくれる?あと、千姫ちゃんは私の替え着を持って来てくれる?」
「「了解」」
俺達は、急いで諸々の物を用意する。彩芽は怪我を治すのと、体を拭く為に服を脱がしているので、俺は近くのコンビニで晩御飯などを買いに向かうことにした。その帰り道、早歩きで帰っていると、一羽の川蝉が降りて来た。
「“応答せよ。今回の件、報告を求む”」
川蝉は近くの路地に入り、パイプの上に停まる。それを追いかけて近くに行くと、川蝉から女性の声が聞こえた。俺はその声に返答をした。
「報告します。今日十八時過ぎ、西区の総合公園で階段から転げ落ちる少女を発見。その少女を追っていた黒服達と交戦。その場にいた者は全員拘束しました。交戦理由は私情を挟みました。細かい事情は、明日学校の後、織曖さんに直接報告します」
「“了解。報告、受け取りました。通信終了します”」
そう言うと、川蝉は飛び立っていった。
「さっ、急いで帰ろう!」
俺は気を取り直し、走って帰った。
「ただいま」
「お帰りなさい」
俺が玄関を開けると、扉の前で千姫が待っていた。彩芽はまだ少女の看病をしているようだ。
「千姫、これをリビングに持って行っといてくれないか?」
「分かった」
俺は千姫にコンビニで買ってきた弁当などを千姫に渡し、手洗いうがいをした後に、少女の居る客間へ向かった。
「彩芽、入って良いか?」
扉をノックすると、向こう側から「どうぞー」と聞こえた為扉を開けると、布団を被った少女が、静かに寝息を立てていた。
「どうだ?」
「一応完治したはずよ。でも私も医者じゃないからちゃんとしたことは分からないわ」
「そうか……」
やっぱり病院に連れていきたいが、少女本人が嫌がっている。単に注射が怖いからなどと言う理由ではなさそうなので、無理強いは出来ない。
「明日、織曖さんに会いに行くから、その時に診断できる人を見繕って診てもらうか」
「あっ、そうね。そうしましょう!」
俺の言葉に綾目は大きく賛成する。そして俺達は、気持ち良さそうに寝息を立てている少女から離れ、一階へ降りる。
「じゃあ今から夜ご飯をチャチャッとつく……あ、買ってきてくれたの?」
「あぁ、この家唯一の料理人が手を離せない状況だったからな」
そう言って俺は、千姫に持って行ってもらったコンビニ袋を開け、弁当を出す。
「ガーリックチキン弁当と、炭火焼き牛カルビ弁当と、和風ソースの直火焼きハンバーグ弁当、どれにする?」
「私が最初で良いの?うーん、じゃあカルビ!」
彩芽は少し思案した後に、弁当を手にする。
「千姫、ハンバーグとガーリックチキンどっちが良い?」
「ハンバーグ」
千姫の即答を聞き、俺は千姫の場所に弁当を持っていく。
「じゃ、いただきます」
俺の声で彩芽と千姫は食事を始めた。食事は二十分ほどで、談笑しているとすぐに終わった。
「意外とおいしかったわ!ご馳走様。たまにはコンビニ弁当も良いわね」
彩芽は、そう言いながらお腹を摩った。俺はそんな姿を見ながら、弁当箱の箱を片付けていると、千姫が眠そうに欠伸をした。
「そろそろ風呂入って寝るか?」
俺がそう言うと、彩芽が微笑みながら言った。
「私は、まだもうちょっとあの子の様子を見ておくわ」
彩芽の言葉に、俺は少し罪悪感を覚えながら言う。
「俺も、起きてるから、何かあったら呼んでくれ」
「りょーかーい」
俺の言葉に、彩芽は明るく返答し、「先お風呂入ってくるね」と言って風呂場に向かっていった。俺はさすがに知らない女性が眠っている所を見続けるのはさすがに悪いので、俺は自室で、待つことにした。そして俺たちは順番にお風呂に入り、各自それぞれの部屋に戻った。彩芽から呼び出しがあったのは、次の日の四時ぐらいだった。




