総帥、人類の夢(ベーシック・インカム)を配給する~不労所得は退廃のジャムです~
公式グッズの争奪戦によって、世界各地のハミルトン直営店(旧・王宮)が包囲される中。
佐伯悠馬は、高級ボールペンを回しながら、世界の「徳・中央銀行」のシステムをハッキングしていた。
「……お母さん。英国紳士は、暴動を鎮圧するのに銃や剣を使いません。……代わりに、彼らの『欲望の価値』をゼロにするのです。……ノア、クラリス。これより全人類のハミルトン口座に、毎月一律で『3万ハミルトン・ポイント』を無条件で支給します」
「兄さん!? それって、僕が毎日スクワットして稼いでたポイントが、何もしないニート共にも配られるってことっすか!? 資本主義の崩壊っす!(野太い声での咆哮・懸垂をしながら)」
「……悠馬様、素晴らしいですわ! これで世界中の人々が、働くのをやめて悠馬様を拝む時間を作れますのね!」
「……クラリス、拝まなくていいから寝なさい。……ハミルトン・ショップ、全徳ポイントを流動資産に変換。システム、承認。……全人類よ、もう争う必要はありません。豊かさを享受しなさい」
悠馬が「執行」ボタンを押した瞬間、全人類の脳内ポップアップに「残高:30,000」の文字が輝いた。
暴動を起こしていた群衆は一瞬で静まり返り、武器を捨て、その場にへたり込んで歓喜の涙を流した。
ピコン!
【徳:+500,000!】
【理由:全人類から「貧困」と「飢え」の概念を一時的に消滅させ、究極の福祉を完成させたため】
「……っ! +50万! ついに……ついに累計徳ポイントが『帰還ゲート』の基準値(100万)に達しました! お母さん、私は今夜、ロンドン行きの切符を発注します……!」
悠馬が、ついに掴み取った「自由」に咽び泣いた、その瞬間。
『あはは! 悠馬くん、ついにやっちゃったね!☆』
女神が、今度は「ひまわりマークのヒッピー」の格好をして、マリファナっぽいお香を焚きながら現れた。
『人類の夢、大成功!☆ でもね、全員が働かなくても生きていけるようになっちゃったせいで、翌朝、パン屋も、農家も、王様も、誰もベッドから起き上がらなくなっちゃった☆ 世界の稼働率が「0%」の、完全なハミルトン・ニート帝国の完成だよん☆彡』
「……ただの最低限保障を、人類の総ニート化に悪用しないでください」
さらに最悪なのは、悠馬の「垂れ流し魅了」が、ニート化した人類の暇すぎる脳内にダイレクトアタックしたことだ。
人々は、働く必要がなくなった結果、24時間ベッドの上で「悠馬様……ハミルトン……最高……」と呟き続ける、廃人のような桃源郷を形成し始めていた。
ピコン!
【警告:『人類の家畜化』により、一秒ごとに徳が「-10,000」されるウルトラ・ペナルティが発生しました】
【帰還ゲートの注文:残高不足により、強制キャンセルされました】
「…………なぜ、こうなった」
視界の端で、せっかく貯めた100万徳が、砂時計のようにサラサラと崩れ落ちていく。
【読者満足度:測定不能(ベーシックインカム導入したら、世界が3秒で滅びかけててワロタwww)】
【称号:『人類をダメにするソファのような男』『ニートの神(笑)』が追加されました】
「……女神。一つだけ。……私は、ロンドンの……。……あの、みんなが生きるために死に物狂いで満員電車に揺られている、あの『地獄の日常』が……。……今、宇宙で一番愛おしいんです…………」
『ダメ~☆ 明日は「動かなくなった世界を、古代兵器で無理やりマッサージして歩かせるツアー」だよ♡ 頑張って、ニートたちを介護してね!☆彡』
悠馬は、完全にゼロに向かってカウントダウンを始めた「徳」の残高を見つめながら、静かに九錠目の胃薬(を塗るための、すでに感覚のなくなった皮膚)を摩った。
ハミルトン総帥、異世界(実質)十一日目。
彼の「ベーシック・インカム」は、人類を救った代わりに、世界中を「快適な怠惰」で溺死させ、帰還の切符を一瞬でシュレッダーにかけてしまっていた。
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