総帥、思考を停止する~賢者タイムはBtoB(バック・トゥ・ベーシック)の境地です~
古代兵器『プロト・ハミルトン』の玉座。
世界中の王たちが拝謁を求め、一秒間に数万通の決済依頼メールが届き、空からは「ハミルトン万歳!」の合唱が響き渡る中。
佐伯悠馬は、電卓を床に置き、そっと目を閉じた。
「……お母さん。英国紳士は、どんな窮地でも解決策を見出します。……ですが、解決策を見出すたびに領土が増え、神格化され、帰還が遠のくのであれば……。……私は、もう、考えないことにしました」
「兄さん!? 兄さん、しっかりするっす! 虚空を見つめたまま、微動だにしないっす! まるで僕がプロテインを忘れた時のような顔っすよ!(野太い声での咆哮)」
「……悠馬様! 何も考えなくていいのですわ! さあ、このまま私の膝の上で、美しい置物になりましょう!」
悠馬は、聖女クラリスの誘惑も、弟ノアの叫びも、すべてを「環境音」として処理し始めた。
彼の脳内からは、ハミルトン・グループの株価も、徳の残高も、ロンドンの曇り空も消え去り――ただ、一輪の「タンポポ」の映像だけが流れている。
『ピコーン☆ 悠馬くん、ついに「悟り」を開いちゃった?☆彡』
女神が、今度は「ヒッピー」のような格好をして、花冠を被りながら現れた。
『何も考えない、何も望まない、ただそこに存在するだけ……。それって究極の「スローライフ」だよね♡ でもね、悠馬くんが思考を止めると、世界の運営が止まっちゃうんだよん☆彡』
だが、悠馬は答えない。
彼から漏れ出す「魅了粒子」は、思考停止によって「純度100%の虚無」へと変化し、周囲の人々をさらに深い恍惚へと叩き込んでいく。
ピコン!
【徳:+0】
【理由:本人が何もしていない(善行も経営も放棄した)ため、ポイントの変動が停止しました】
「(………………)」
悠馬が「無」になったことで、逆に世界は「悠馬様は深淵なる瞑想に入られた」「我々の未熟な願いが、主の御心を疲れさせてしまったのだ」と勝手に解釈。
世界中のハミルトン社員(全人類)が、彼の静寂を邪魔しないよう、一斉に抜き足差し足で生活し始め、世界はかつてないほどの「静謐」に包まれた。
ピコン!
【称号:『考えるのをやめた王』『静寂の神(笑)』が追加されました】
【現在の状況:ノアが『兄さんの静寂を破る奴は筋肉で潰す』と宣言し、世界の「騒音規制」が異常なレベルで強化されています】
「……女神。……私は、今……。……何も、見えません……。……あのアールグレイの……香りも……。……ただ、この……無音の異世界が……快適で…………」
『あはは! 悠馬くん、このまま「地蔵」になっちゃうのかな?☆』
ハミルトン総帥、異世界(実質)九日目。
彼の「思考停止」は、一瞬にして世界を静まり返らせ、彼を「生ける御神体」として永遠の静寂の中に閉じ込めようとしていた。
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