総帥、低速モードで奇跡を「一括発注」する~不自由さはイノベーションの母です~
多分読んでる人はいないと思うけどとりあえず進めてみる。
異世界二日目の午前9時00分。
佐伯悠馬は、静寂に包まれた森の中で、空中に浮かぶショップスキルの「更新」ボタンを、震える指先でクリックした。
「……お母さん。一日のパケット上限に縛られる生活は、私に『資源の有限性』を再認識させました。……本日の一手、これは単なる物品の注文ではありません。ハミルトン・グループの未来を賭けた『戦略的投資』です」
「兄さん! 早く、僕のつなぎを! このフリフリ、寝返り打つたびに首に刺さるんすよ!(野太い声での切実な訴え)」
「……ノア。目先の利便性に惑わされてはいけません。……ショップスキル、限定解除。注文:『ハミルトン製・超広帯域・魔力中継アンテナ内蔵型・全自動公衆便所』、一点」
「……は? 兄さん、何買ってるんすか!?(野太い声)」
『ピコーン☆ 悠馬くん、貴重な一日一回の注文を「トイレ」に使っちゃうの!? ウケるんだけど!☆彡』
女神が、今度は「公衆電話」の格好をして現れた。
『それ、ただの豪華なトイレだよ? ギガの無駄遣いじゃない?♡』
「……いいえ、女神。これは『インフラによる支配』の第一歩です」
ドォォォォン!! と森の真ん中に、不自然なほど清潔で、近未来的なデザインの「多機能トイレ」が出現した。
悠馬が狙ったのは、その「排泄」機能ではない。アンテナによる『独自ネットワークの構築』だ。
ショップから直接「モノ」を出すのは時間がかかる(低速モード)。ならば、この世界に存在する魔力を「パケット」として変換し、ショップを通さず「現地調達」するためのサーバーとして、このトイレを機能させたのだ。
「……通信環境、改善。……ショップとの同期率、15%から40%へ上昇。……ノア、今なら『読み込み中』を待たずに、君のつなぎ(Lサイズ)を、ショップではなく『このトイレの備品』として無料配布できます」
「兄さん……! 何かよく分からんっすけど、トイレからつなぎが出てきたっす! 快適っす! さすが兄さん、天才っす!(野太い声での歓喜)」
ピコン!
【徳:+5,000】
【理由:不毛の森に「衛生」と「通信」という文明の光をもたらし、人類のQOL(排泄の質)を劇的に向上させたため】
「……っ、見えました。……一日の注文上限という『不自由』を、インフラの『拠点』を置くことでハックする。……これこそがハミルトン流の起死回生です」
悠馬が、トイレのウォシュレットの温かいお湯の音を聞きながら、勝利の確信(と胃痛)に震えた、その瞬間。
『あはは! 悠馬くん、やるじゃん!☆』
女神が、今度は「清掃員」の格好で現れた。
『でもね、そのトイレが放つ「爆速の魔力電波」に吸い寄せられて、森中の魔物たちが「何これ、超気持ちいいんだけど!」って、トイレの順番待ちで大行列を作ってるよん☆彡』
「……魔物の、公衆道徳の改善ですか」
ピコン!
【状況:『魔物のトイレ利用による定住化』が発生】
【称号:『聖なる便所の管理人』『Wi-Fiを運ぶ王子』が追加されました】
【現在の状況:行列に並ぶドラゴンが、順番を抜かしたオークに対し『ハミルトンの利用規約を守れ!』と、マナーを説く事態になっています】
「……女神。一つだけ。……私は、ロンドンの……。……いえ、もう、何も言いません。……ただ、このトイレの個室の中だけが、今の私にとって唯一の『聖域』なんです…………」
ハミルトン総帥、異世界(実質)二日目。
彼の「起死回生」は、森を「世界で最もマナーの良い魔物のたまり場」へと変え、自らを「トイレ掃除兼、通信事業の最高責任者」へと押し上げていた。
すっかり存在を忘れかけていたのは内緒




