④ 操り人形
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さっき少し宙に浮いたときに見えたあの黒い鯨のようなものが怪しいという事で、向かってみることになった。近づいてみると、それには塔のようなものがついていることが判った。
……艦橋、セイル。潜水艦だろうか。……アダムスさん。いや、まさか……。
「あれは潜水艦と言って、海に潜ることのできる船です」
あまりにもそのままの説明にオーディン神は呆れたようだった。
『……では、これは?』
「それは拳銃です。引き金を引けば弾丸が発射されます」
詳しくはないけれど、多分オートマチック式だろう。ていうか見たままか。
『蛇の尾には弾かれておったな。首魁のとどめには使えんだろうな。……弾は何でできている?』
「鉛のはずです」『そうか……銀ではないか』
試しだ、と岩に向けて片手で引き金を引いた。身構えたけれど、想像していたよりもずっと反動が小さかった。音の方に驚くくらいで。弾は岩に弾かれどこともなく跳弾していった。
『……よく判らんな。亡者には有効か』
音に反応してこちらへ向かってきた人に銃口を向ける。彼もまたこちらに拳銃を向けていた。まるで鏡写しのようで……。人差し指が引き金に触れる。
……え?
「や、止めてください!」
『なぜだ?』
僕の制止も聞かず、引き金が引かれ3回ほど音がして、向かってきた人は崩れるように倒れた。
……動かない、え?
「……え……? な、何故」
死んでしまった。……自分が殺した? なんでこうなった? 止めてって言ったのに。なんで……。
『小僧、お前はあの蛇が亡者を殺すのを黙認してあったであろう。今の行為はそれと何が違う?』
僕が殺したのか? 人を……。
『遺跡を守ることに異論はないのであろう。であるならば戦うのは当然であろう。あの街の連中のように殺す気がないのであれば、手心も加えようが。今、こいつはこちらに銃を向けていた。この肉体は頑丈ではあるが、部分的に強い力を加えられた場合や、繊細な部位を破壊された場合の検証は済んでおらん』
でも、もっとなにか方法があったんじゃ……。
『が、まあ駄目であろうな。そもそも儂の左目をあてがう必要があったという事はそういうことであろう。……少し遅れていたら死んでいたのはお前かもしれぬ。他にどうしたらよかった? お前ならどうできたと? 経でも読めるのか』
理屈は正しい、のか。むしろ助けてもらったんじゃないのか? でも……。
嫌な予感はしてたんだ。今更こんなこと言っても仕方ないけど。何かうまい解決方法が、あって……。結局なんだかんだ誰も死ななくて、そんな感じの、なんかいい方法が……あるわないよな。
これだったら、やっぱり俺は、人を殺すくらいなら……。
『それとも何か。つまりこういうことか。自分だけは手を汚さずに、成果だけは得たいと? それは卑怯者の考え方だ。臆病者ではないか。殺されかけたが自分は殺すのが嫌だ、そうかそうか、で、お前はただ殺されるのか』
そんな理由で? そう訊かれる。
やっぱり、もっと前で死んでおけば良かったんじゃないのか。こんなことになるなら。右目だけから涙が流れだす。砂浜に水滴が落ちる。拭おうとしても体が動かない。……自分の体なのに。
『……それは美徳か。自己憐憫か。……仕方がない。……右の瞼は閉じておいてもよいぞ』
(……僕の、体じゃないか。なんであなたの指図を受けないといけないんだ。瞼を閉じていてそれでどうなるって言うんだ。何が変わるって言うんだ。変わらないだろ、なにも)
僕は逆らうように右目を大きく見開いた。
『……ではよく見ておけ。奴らの最期、見届けることで供養としてやれ』
【続きます】




