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80.新モンスターは人型でゴツくて

誤字報告オブリガード

「ラ、ランドォ――ッ!」

「いやぁああああっ!?」


 反射的に動き出そうとするステインとルーナの首根っこを、引っ掴んで止める。

 仲間のあんな姿を見れば無理もねえが、今こいつらまであそこに飛び込んじまったら本気でどうしようもなくなる!


「下がってろ!」


「きゃあっ?」


「ぐ、な、何をする! 早くランドを助けないと……!」


「あいつが何にやられたと思ってんだ! 壁の奥を見ろ!」


 本来は通じているはずのところに何故か出現していた壁。ランドの腹に刺さった何かはあそこから伸びてきたんだ。その攻撃で壁の一部が崩れて奥が覗けるようになったが……そこには俺たち同様、こちらをじっと覗く生き物の目があった。


「クイーンラット……! あの壁の向こうで息を殺していたんですね!」


「ああ、ランドは奴の尻尾でやられたみてえだ」


 クイーンラットが狙撃・・し、崩したところをネズミたちに襲わせる。単純だが面倒な戦法だ。ここでステインやルーナが被弾覚悟でランドを連れ戻そうとしてもミイラ取りがミイラになるだけってのがオチだ。


 だから――。


「俺が行く! お前たちはランドを治す準備をしてろ!」


 言うまでもなくサラは祈りを始めているようだった。俺も【活性】を発動させる……SPの消費は6ポイントに留める。どのみち長い時間はかけられねえ、最短であそこから救い出す!


「行くぜ!」


「はい! ステインさんとルーナさんはこっちに来るネズミを除去してください!」


 大慌ててで杖とスローイングナイフを構える両者を信用して、俺はすれ違うネズミたちを無視して本丸へ一直線に向かった。通路の端からランドに群がるネズミたちの真上へ跳躍。


 ――そこへ案の定、クイーンラットの鋭利な尻尾が発射されて襲いかかってきた。


「んなのわかってんだよ! 【召喚】、『コープスゴーレム』!」


 空中で呼び出した新モンスターは人型でゴツくて、そんで全体が薄ピンク色をしていた。ピンクと言っても、ファンシーな色合いでは決してない。剥き出しの人の肉がいくつも重なって出来上がったボディはグロテスクとしか表現のしようがねえ……だが、その密集によってミチミチとそこに並々ならぬ力が宿っていることが見て取れる。


 見るからに肉体派なやつだな……頼もしいことこの上ねえぜ!


「ゴァア!」


 俺の盾となってコープスゴーレムが尻尾攻撃を受けてくれた。ぶしゅりと胸に刺さったそれを痛がる様子もなく両手で掴もうとするが、握られるより早くクイーンラットは尻尾を引っ込めた。しゅる! と戻ってくその様はまるで掃除機のコードみてぇだ。


 狙撃を封じることはできなかったが、とにかく俺の被弾は防げたんだから上出来だ。俺とゴーレムは同時に着水する。


「その位置で思い切り暴れろコープスゴーレム……いや、モルグ!」


「ゴァァアアアアアアアッ!!」


 下水道中へ響かせるような咆哮で死体のゴーレム改めモルグが応える。そして太い腕を振り回して周辺のネズミを何匹も薙ぎ払う。見た目通りのパワーだ、こいつは期待以上の新人が来たな!


「おらおらおらァ!」


 クイーンラットの死角で俺も負けじと、ランドに食いつくネズミたちをぶっ飛ばす。本当は『不浄の大鎌』でまとめて始末したいところだが、あれだとランドまで汚染しちまいかねん。しょうがないんで素手で殴り飛ばしてるんだが、【活性】とStrの伸びのおかげか、ただ殴るだけでもネズミたちは面白ぇように潰れて動かなくなる。


 これでもう少し派手に血が飛び散ってくれれば【血の喝采】も使えたんだが……いや、ここで興奮は禁物か。人を救出しようってんだから、なるべくクールなままでいねえとな。


「よし、あとは頼むぞモルグ!」

「ゴアッ!」


 払い切れないネズミたちに足を齧られ、奥から飛んでくる尻尾で削られ、モルグは普通の人間だったらとうに死んでるくらいの傷を負ってるはずだが……元から全身継ぎ接ぎの傷だらけみたいな外見をしてるんで、どれくらいダメージを負ってるのかがわかりづらい。


 が、少なくとも本人の返事はまだ元気そうだった。


「すまん、だけど助かった!」


 初呼び出しが身代わり役ってのが申し訳ねえ。


 偵察以外では囮としてしか呼んでねえキョロが一番不遇だと思ってたんだが、モルグが初回でそれを上回った。まさかネズミを引き付けるチーズ役をやらされるとはモルグだって思ってなかったはずだが、それでも文句ひとつなしに引き受けている。


 その頑張りのおかげで、俺はランドを担いでサラたちのところへ戻ることができた。帰り道にいるネズミを掃討してくれていたステインとルーナにも感謝だな。


「う、ランド……!」

「こ、これじゃポーションを使ってもとても助からない! 早く街医者に診せないと……いや街医者じゃ無理だ、教会に頼らないと!」


 腹のデカい傷を筆頭に体中がネズミたちの牙や爪で抉られほじくり返された今のランドは、虫の息ってやつだった。


 冒険者故のタフネスかまだギリギリ心臓を動かしちゃいるが、これじゃ確かに治療の暇もなく死んじまうか……!


「消毒薬をあるだけ使ってください。そのあとでポーションも一滴残らずかけて」


「だがそれじゃ僅かな時間しか……」


「僅かでも稼げれば私が『ヒール』で治せます! いいから早く!」


「わ、わかった!」


 ステインは慌てて自分とルーナのポーチから消毒薬とポーションの入った小瓶を取り出したが、そこでルーナが。


「あぁっ! ま、またネズミが来る! さっきよりもたくさん!」


「ちっ、まだまだそこら辺に待機させてやがったか!」


 モルグも少なくねえ数を相手してるってのに、それが少数に見えるくらいにわらわらとあちこちの通路からネズミが湧いて出てきた。


 そしてモルグを襲うネズミたちへの加勢ではなく、こっちのほうに押し寄せてくる!


 くそ、これもクイーンラットの指示だな!? あいつは射程内に俺とモルグが入っても近づいてこようとはしなかった。部下のネズミをけしかけて自分は狙撃だけに徹するってのは、明らかに俺らを警戒してのことだ。もっと言えばその戦い方が最もローリスクだと理解しているんだ。


 ……考えるほどにただの巨大ネズミとは思えねえほど頭がいい。とすると、奴の指揮下のネズミは厄介なんてもんじゃねえな!


 こうなったら噛まれても菌にやられねえ俺が壁役になるしかねえ、と前に出ようとしたとき。


 バリン、バリン!


 俺たちの最後尾でメモリが、下水道に点在する灯り用のマジックランプを弓矢で撃ち抜いていた。


 こんなときに何をしてんだと不可解に思った俺だが、メモリのいるところだけが真っ暗になったことでハッとする。


 そうだ確か、メモリの召喚術には暗闇が必要不可欠だと言ってたっけか――。


「行って、わたしの埋葬虫シデムシ


 ざわざわざわ! と俺たちの足元を小さな虫の大群が通り抜けていく。それはあたかも暗闇そのものが移動しているかのようだった。そして群れと群れが激突し、血みどろの戦いを繰り広げだす。ネズミ軍VS虫軍の戦争は人から見るとかなり悍ましいぜ……。


「……戦況はあちらが有利。長くは持たない」


 暗い場所からぼそりと呟かれたメモリの言葉にはなんの誇張もなかった。

 数の優位性でネズミの進軍を押し留めちゃいるが、一匹一匹は向こうのほうが強い。

 ネズミたちは纏わりつく虫にも怯まず、むしろ餌として認識しているようだ。


「『いと高き者よ、哀れむ者よ。嘆き、喘ぎ、君命に身捧ぐ我らへ慈悲の心を与えよ』――『ヒール』!」


 だが虫たちが作った安全な時間で、ランドがピンチから脱した。サラの『ヒール』が間に合ったんだ。消毒薬とポーションでどうにか繋ぎ止めてた容態が見るからに安定した。悲惨なことになっていた全身の傷も塞がっている……意識は戻ってねえが、これで小康状態ってところかね。


「ふー……どうにかなりましたね。念のため『クリーン』もかけておきましょう」


「ありがとう、ありがとうアンダーテイカー……! ランドを助けてくれて本当にありがとう……!」


 ステインは友が死ななかったことに男泣きで喜んでいる。けれどまだ気を抜いていい場面ではないことをルーナのほうはわかっているようだった。


「だけど、ここからどうやって逃げれば……?」


 そうだ。動けねえランドを守りながら、この怒涛の勢いで迫ってくるネズミたちから逃げおおせるってのはかなり無理ゲー臭い。


 ネズミのほうが足が速いし、クイーンラットが部隊を分けて先回りさせて進路を封じてくる可能性もある。


 つーかそもそもクイーンラットに背中を見せる行為自体が危ないというか、怖いしな。


「ゴァァアアア……ッ!」


「ひいっ!」


 一人で奮闘していたモルグが、とうとう倒れた。クイーンラットに撃ち抜かれ、ネズミにたかられた状態で上げた断末魔にルーナが恐怖する。


 絶叫に怯えているんじゃなく、モルグの姿が自分に重なって見えたんだろう。己ももうすぐああなる。そしてネズミに食われて終わる……そんな想像をしちまったなら、いかに冒険者といえど怖くて身震いもすらぁな。


 だから俺も逃げることはすっぱりと諦めたところだ。


「――ぶっ倒してやるよ、クイーンラット!」


 逃げるんじゃなく、正面切って戦うことを選んだんだからなぁ!


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