揺れる星条旗
真珠湾攻撃の報は米国の対日政策を後押しする、はずだった。
ジャーナリストや政治の重要ポストにいるユダヤ人が声を大にして”対日和睦””大統領乱心”
と国内外に向けて発信していったのだ。
それはユダヤ人難民達が個々の情報網を駆使して米国の同志に日本での暮らし、政治、
平和主義などといったことを送っていたのだ。
そして、世界においても日本が≪ファシズム≫という言葉が似合うのか、
戦争を始めたかったのは日本ではなく米国だったのではないか、という意見が連合国内でも
飛び交うようになり始めた。
そして今回の真珠湾攻撃と同時に陸軍の上原勇作元帥がジャーナリストを相手に重大な発表をした。
「我々のこの真珠湾攻撃はアジアの植民地解放の一環であり、また有色人種であっても
白人に劣ることはないという意思の体現でもあります。
そして、我々の活躍を国民に知らせるためにも記者諸君には絶大な信頼を寄せたい。
ここに、”検閲の撤廃”を宣言致します。」
一斉にカメラのフラッシュが上原に浴びせられる。
記者からは歓声が上がった。
「我々日本政府と陸海軍の真意を誤解なきように世界に発信していただきたい。
我が日本は侵略国家ではない、我々は聖戦を始めたことを悔やんではいない。
その為に、我々はこの世の悪と戦い続ける。」
上原が記者の質問攻めに遭っている頃、米国では講和派と続戦派に分かれて議論が行われていた。
「海軍は真珠湾で戦艦を失ったものの、空母は失っていない!
聞くところ彼らの電探は飾りと言うではないか。
今時時代遅れの大艦巨砲主義など我々の前では恐れるに足りない」
国務長官のコーデル・ハルは日本にハルノートを突き付けた張本人であり
続戦派の中核であった。
机を挟んで同じく国防長官のエドワード・ステティニアスは講和派であった。
「何を聞いたか知らないが君の脳内は5年前から更新が止まっているようだな。
今回の真珠湾攻撃は日本軍のパイロットの腕もあるがあの正確な誘導と
無航跡の魚雷、技術力では5年のハンデがあるだろうな。
それだけではない、日本はユダヤと支那を味方につけ石油においても尽きることが無いぐらい
湧き出ているというではないか。
この戦争の成否はともかく、君は独房に入れられるべき人間だ!」
「貴様、言わせておけば!」
「いくらでも言わせてもらう。
物量主義は今の日本には通用しない。
日本は少なくともファシズムではない。
それならば、強大化するナチス・ドイツを抑えることに集中したらどうだね。
噂に聞けばドイツに連戦連敗していると言うではないか。
太平洋両面戦争は無理無茶無謀だ!」
しかし、続戦派は聞き入れることがなかった。
その情報はユダヤ人協力者、東機関を通じて日本政府に届いた。
東条内閣を結成した東条はこの情報を海軍情報部にも送った。
部屋には山本、東郷、有馬がこの情報を聞きつけ海軍情報部応接室に集まった。
「先ほど、東条総理から電文が届いた。
どうやら続戦派の心の拠り所は太平洋に展開中の二隻の空母のようだ。」
山本は口元を歪ませる。
川村機動部隊の空母は六隻、戦力差は歴然であった。
歴史書では電探の馬鹿さと慢心により空母を失ったが今は違う。
東郷は「敵は我々の正確な位置を把握していません。
索敵機は彩雲改が位置を知らせ零龍が全て落としています。
敵は頻繁に上空直掩機を飛ばし、攻撃に備えているとの事です。」
山本は被害を最小限に抑え、なおかつ空母を撃沈する方法を考えた。
有馬が口を開く。
「零龍を最大速度で敵空母上空3000mを通過させ、敵を釘付けにしつつ
電探への電波妨害と、低空で迫っていた攻撃機で空母を攻撃する。
また、イ型潜7隻を展開し空母を挟撃する。
零龍の速度と攻撃能力、空中格闘能力はどの国にも勝っており損害皆無もあり得るかと。」
「私も同じ要領ですが、零龍に裂弾を装備して艦船の対空火器を使用不能にしつつ
雷撃を加えるという手は如何でしょうか。」
東郷より階級が一つ上である有馬は
「私も東郷の意見に賛同です。ですが裂弾は秘匿兵器ですが、、」
有馬は一瞬次に出る言葉を抑えた。
だが、
「裂弾の使用許可をお願い致します、山本指令長官!」
頭を下げる有馬に一瞬驚きを見せた東郷だったが同じように「お願いします」
と頭を下げた。
裂弾の秘匿クラスは一等級でありそれは大将以上の位の物しか使用許可をすることが
できないのだった。
「はは、参ったなぁ。
こうも頭を下げられては仕方ないだろう。
私も優秀な人材を今ここで失うわけにはいかないと思っている。
私自身でもこの作戦以上のものは思いつかなかっただろう。」
翌日、この作戦名は”龍の狩り作戦”として赤城に送られた。
こうして太平洋の戦局は更に大きく動くことになった。
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