進水式#1
時はガトゥン湖での決着より少し溯りカンバト海軍基地に停泊中の奉天艦内に移る。
艦の丁度中央部に配置された提督室。
部屋の間取りはかなり大きく取られており
また内装は西洋風と欧米を意識した作りであった。
細かい細工が施された椅子に深く腰掛ける。
東郷はかなり早めに来てしまったのか衛兵以外部屋には
誰も来ていなかった。
20分ぐらい物思いにふける。
ドイツの未確認機動部隊、新鋭戦車。
そして、本国での長野県の国有地化。
この長野県の国有地化は風呂から上がった際に大村副艦長
直属の無線員の部下からの話であった。
衛兵が銃剣の先を空に向ける。
『おや、かなり早めに来て下さったのですか。』
東王季は肩にタオルをかけている。
髪も少し濡れており今さっきまで風呂に
入っていたことが伺える。
『衛兵、少し話をするから外に出てもらえるか。』
衛兵は銃剣を下げ素早く外に出る。
東郷は質問されるであろうことに目星は付いていた。
「“長野県の国有地化”のことですね。」
黙ってうなずく王季。
「私も一部しか分かりませんが国有地化は事実のようです。」
『国有地化に口を挟むことはしませんが、まさかと思いますが
“核兵器”の実験のためではないですよね?』
「核兵器の実験などは東条総理と山本司令長官が見過ごすことは無いでしょう。それに、核兵器はメリットよりデメリットの
方がよくよく考えると大きい。」
『それを聞ければ安心です。
二つ目、この奉天は非原子力機関だ。
では黒姫のあの速力を支える物はなんですか。』
東郷はあごに手を当て考える。
これに関しては名倉造船長がよく知っている。
「よくわからない、だがこの黒姫も非原子力機関。
航続距離は九千海里。大和とは違う。」
『大和、聞いてはいたがあれは化け物だな。
なんせ航続距離が“不明”、奉天も大和の飽和攻撃と
56㎝砲には耐えられない。まさに海の王と呼ぶべき存在かな。』
戦艦大和はアジア連合の高級士官の中で有名であった。
『それと空母日本、羽田空港の第四滑走路拡張工事と
しつつ空母を作る。
ずいぶんと面白い偽装じゃないですか。』
「あれを考えた山本司令ですがね。
私もあまりの奇想天外さに目を丸くしましたよ。」
羽田空港第四滑走路拡張工事、拡張長さ512メートル。
全幅77メートル、アングルドデッキを塗装とプレハブで
隠している。
『お待たせしてすいません。』
クルードと将王勇が席に着く。
4人はこれからの世界政情について話し合った。
その頃横須賀では前線空母“信濃”“紀伊”の観艦式が
行われていた。
戦艦長門の水上偵察機で早めに横須賀に帰っていた山本は
この艦の完成に胸を高鳴らせた。
現在、本国防衛の艦隊はシアトルから帰投した
山下、柴山連合艦隊が当たっていた。
戦艦 伊勢 日向の礼砲。
空母 飛龍 蒼龍の航空隊が進水式を祝う。
そして、飛龍、蒼龍はこれが最期の任務であった。
アングルドデッキに改装し、全長も伸ばしたが
全長287メートル、大型化していく航空機と兵装に対応
出来なくなっていた。
これからは練習空母として第二の人生も国のために
働くのである。
『山本司令長官、信濃と紀伊の全長は411メートル。
ですが搭載機数54機というのはどういうことですか。』
信濃を不思議そうな目で見る山下。
柴山も山本の解答を待つ。
「君たちの艦隊に配属される量産型空母葛城型9隻。
この空母は搭載機が97機とかなり多い。
それは装甲を薄くしているからだ。そこでこの空母だ。
この空母は強固な装甲と多数の対空、対潜兵装で
前線まで赴き、攻撃の終了した航空隊を収容、再補給し
再度攻撃をかけさせる為の空母だ。
そのために、第一格納庫丸ごとを補給庫にし第二格納庫に
大型戦闘機“鵬龍”を搭載し最低限の制空権を確保する。
一種の洋上基地だ。」
『つまり、装甲の薄い葛城型の位置が知れると不味い為
信濃、紀伊に攻撃を集中させるということですが。』
「その通りだ。
飛行甲板は複合装甲180㎜、爆弾の格納庫到達はあり得ない。
しかし、油断は禁物だ。沈まない船など無いのだからな。」
テープを切り、艦内に足を踏み入れる3人。
乗組員の居住区画はかなり広く、居住性は格段に向上している。
また、プールや真水の風呂、売店などが完備されており
長期の任務でもストレスを感じさせない作りである。
『豪華客船、みたいですね……』
柴山は目を丸くする。
広い食堂が眼前に広がる。
山本は設計段階から知っていたため柴山の反応に笑った。
「艦内容積が広いからな。何よりもこの空母は最前線まで赴く。
その緊張感は後方待機の空母とは格段に違うだろう。
その為に豪華な設備にして、士気を下げない工夫をしたまで。」
そこまで考えが至らなかった事を詫びる二人。
山本は微笑すると第二格納庫に案内する。
長官自らの案内は始めてである。
山本はこの空母への期待と重要性を語らずとも二人に
教えたのである。
「これが、第二格納庫だ。」
だだっ広い格納庫。
テニスコート8個は入るだろうか。
これが本当に艦内の格納庫なのだろうかと
脳内が麻痺した。
天井から給油ロープが降りてきている。
給油においてもかなりの効率化が進んでいるようだ。
「弾薬庫は中央に一カ所集中させて弱点を減らしている。
弾薬の供給は中央の溝部分のベルトコンベアから行う。」
そう言うと山本は床に備え付けられているレバーを
押し出すようにする。
ベルトコンベアが稼動を始め、ガコン、ガコン、と
リズムのいい物音がする。
二十秒後、すぐ横のベルトコンベアに擬似爆弾が並ぶように
運ばれてきた。
これには思わず柴山と山下は目を見合わせた。




