96発の弾丸
戦艦ラインハントは進路をアデン湾へ変えると
戦場を去ろうとした。
その撤退を援護するかのようにザイドリッツは
煙幕を焚いた。
『艦首兵器回天、攻撃開始!!』
黒姫艦首から途轍もない煙が上がる。
そして、重厚感のある物が飛び出したかと思えば
物凄い早さでラインハントを食い破りに
向かった。
弾頭部がラインハントの右舷後部の機関部に突き刺さる。
突き刺さった回天は超高熱を放つ。
ラインハントの第一装甲、機関部の電気系統を焼き尽くした。
『機関出力低下!!』
「ええい、エンジンを焼き尽くしてもいい!!」
『し、しかし使用可能ボイラー16基中5基。
馬力は6万4000までが限界です!!」』
「……………ッッ!!」
このままでは作戦位置に着く前に撃沈される、
応戦しようにも三番砲塔は使用不能。
黒姫はラインハントの一、二番砲塔の射撃不可能な位置に
回っていた。
現在ラインハントは13ノット、黒姫は命中精度と射程距離を
少々犠牲にするが徹底破壊を目指すため大重量弾を
装填していた。
46㎝砲弾並の破壊力を持った大重量弾は通常弾より
縦に長くその分火薬が増加されていた。
「ええい、このクソ戦艦め!!!命中精度も装填もゴミだ!!!」
遂にロルフは声を大にして艦をけなした。
これは、船員の士気を一気に下げた。
「流石です、東郷司令長官。
敵は回避すら出来ないぐらい損傷しています。」
東郷は顔色を変えない。
「十字雷撃を行って撃沈するまでが勝負だ。」
しかし、東郷はの脳裏には何か言いしれぬ影が落ちていた。
そしてそれは無情にも的中する。
現在正午一時間前、対空電探に凄まじい数の機影が写った。
“二度あることは三度ある”
航空機の前では如何に高性能な戦艦でも通用しない。
戦艦大和が最も良い例である。
ヒトラーは知っていた、航空機の有用性を。
独裁者であるからこそ、簡単に航空機第一主義を通すことが
出来たのである。
『敵航空機多数接近!!位置東北東!!機種はMe300-a、艦載機型。
時速740㎞で接近中!!』
Me300-aは機首に二基のジェットエンジンを搭載し、
1基につき25000馬力、計50000馬力という超大出力
エンジンである。
最大速度は時速860キロ、しかし運動性能と武装において
零龍に劣っていた。
しかし、現在黒姫を守る戦闘機など存在しない。
航空機の傘を持たねば戦艦はただの標的でしかない。
東郷は歯軋りする。
誤算だった、ヒトラーがまさか機動艦隊を設立していたとは。
今まさに迫り来る、96機の攻撃機になすすべもなく
攻撃される黒姫の姿が東郷の脳裏に浮かんだ。




