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カイロスの覚醒  作者: レオン


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10/12

第10章 — 恐怖の神(後編)

街は崩壊し、人々の悲鳴が空を埋め尽くす。カイロスの放つ絶望の幻影に翻弄され、リーは心身ともに限界を迎えていた。しかし、その時、組織の宇宙船が地獄と化した街へと舞い降りる。ララとリウの到着。ついに再会した兄弟の前に、翼を広げた神の如き存在が降臨する。「ゲームの始まり」を告げる、絶望の第10章。

街は死に絶えようとしていた。

街中に響き渡るサイレン。鳴り止まない赤色の警告灯。ビルは燃え上がり、窓は爆発する。逃げ惑う人々。そして、その全ての上空から……

聞こえてくるのは、いつもの音。

ドクン。ドクン。ドクン。ドクン。

巨大な心臓が刻む鼓動。惑星そのものが生きているかのように、全てを観察し、待ちわびているのだ。

瓦礫の中からリーが立ち上がる。全身が悲鳴を上げ、顔は血に染まっている。視界は霞んでいるが、彼はまだ倒れない。

上空では……

カイロスが悠然と見下ろしている。巨大な黒い翼が雲の半分を覆い、黄色い瞳が呪われた月のように輝く。そして、あの笑み。何よりも恐ろしい、あの笑みだ。

「もう一度立て」

街中に響き渡る声。「貴様はいつも立ち上がる」

リーは口元に付いた血を拭った。「何度でも立ち上がるさ」

カイロスが笑う。「知っている」

ドォォォォォン!!

爆発が数ブロックを粉砕する。リーは即座に駆け出した。しかし、現場に到着して凍りつく。

ラウラが、地面に倒れていた。血にまみれ、動かない。心臓が止まる。

「嘘だろ……」

膝から力が抜ける。「そんな……」

駆け寄り、その体を抱きしめる。「母さん……!」

女性が目を開ける。その瞳は――黄色に輝いていた。

「捕まえたわ」

ドォォォォォォン!!

幻影が爆発し、リーはビルの一角へと吹き飛ばされた。カイロスが哄笑する。窓が震えるほどの高笑いだ。

「貴様はいつも同じ罠にはまるな」

リーが憤怒と共に立ち上がる。紅蓮のオーラが爆発し、地面が裂ける。

「もう十分だ!!」

リーが消失した。カイロスの目前に出現する。

「喰らえ!!」

渾身の拳が突き刺さる。初めての直撃。カイロスは吹き飛び、二つのビルを貫通した。街全体が揺れる。

一瞬の静寂。

そして……あの笑い声が戻ってきた。それも、以前より大きく。

「これだ! これだよ! これを求めていたんだ!」

瓦礫が爆散し、カイロスが歩み出てくる。傷一つない。「数世紀の間、これほど純粋な一撃を食らったことはなかったな」

再び翼が広げられ、街を闇が飲み込む。全ての明かりが消えた。

一秒。二秒。三秒。

そして、足音が響いた。

コンッ。コンッ。コンッ。コンッ。

至る所から。家の中から、屋根から、路地裏から、廊下から。数千もの足音が。

人々が悲鳴を上げる。誰もいないはずなのに、足音だけが止まらない。

コンッ。コンッ。コンッ。

リーは周囲を見回すが、気配を察知することさえできない。そして、影が現れた。一人、十人、百人。人型の何かが、窓越しにこちらをじっと見つめている。

ある子供が泣き出し、母親がカーテンを閉める。しかし、開けたときには――その影は部屋の中にいた。街中の区画から絶叫が響き渡る。

カイロスは笑う。「懐かしいな、この絶望は」

リーが踏み込むが、世界が消失した。底も空もない暗黒の異次元へ。そこには無数の声だけが響いている。

「お前は失敗した……」

「失敗した……」

「失敗した……」

リーは目を閉じる。「これは現実じゃない」

声が激しさを増す。「お前はララを失った。母を失った。レオンを失った」

目の前に、剣に貫かれ、うつろな瞳で死んでいるレオンの幻影が浮かぶ。胸が締め付けられる。その隙を突き、カイロスが背後から迫る。

「失敗の結果はこうだ」

ドォォォン!!

リーは幻影ごと突き抜ける。全てが消え、現実の街に戻った。だが状況は絶望的だ。死者たちが歩き出していた。何百、何千という屍が影から現れ、ビルを這い上がり、通りを走り、ドアを叩き始める。

バンッ! バンッ! バンッ!

人々が泣き叫び、祈り、隠れる。

カイロスは崩れ落ちた高層ビルの頂上に座り、王のように自らの王国を見下ろす。

「見たか、リー? 恐怖とは死ではない。恐怖とは、死を待ち続けることなのだ」

リーは再び飛び出すが、カイロスに背後を取られる。蹴り飛ばされ、ビルを一つ、二つ、三つと突き破る。全壊した都市は、もはや黙示録そのものだった。火と灰と叫びと影。

だが、上空に響くのはあの高笑いだけだ。

「ここ数世紀で、これほど生きている実感がしたことはない」

リーは膝をつく。疲労困憊し、傷ついている。だが、まだ息はしている。

「レオン……耐えてくれ。必ず連れ戻す」

カイロスの瞳が変わる。一瞬だけ、レオンの意識が届いたかのように。しかし、すぐにかき消され、再び悪魔の笑みが浮かぶ。

そのとき――。

地平線に光が現れた。宇宙船だ。リーは即座に理解する。組織の船だ。

カイロスがゆっくりと首を回し、微笑む。

「ああ……来たか」

船が着陸し、扉が開く。最初に降りてきたのはリウだった。しかし、彼は立ち尽くした。信じがたい光景を前にして。荒廃した街、散乱する死体、焼け落ちたビル。そして、血に塗れ、倒れ伏すリーの姿を。

続いてララが現れた。彼女は兄のもとへ駆け寄る。

「リー!」

傍らに膝をつき、瞳を涙で濡らす。「ここで何があったの?」

リーは答えることもままならず、ただ空を指差す。ララが顔を上げ、凍りついた。

燃え盛る炎と黒雲、そして稲妻の間。そこにレオンがいた。……あるいは、彼の肉体を纏った何かが。

巨大な翼を広げ、黄色い瞳を輝かせ、不可能なほどの笑みを浮かべている。

カイロスは三人を見下ろす。捕食者のように、災厄のように、そして神のように。

「ようやく……」

声が街全体に響き渡る。

「さて、ゲームを始めようか」

第10章 終わり。

ついにララとリウが地獄と化した街に到着しました。リーの絶望的な闘いと、カイロスという圧倒的な神の降臨。ララが現れたことで、物語はいよいよ核心へと向かいます。レオンの肉体を人質に、カイロスはどのような「ゲーム」を仕掛けてくるのでしょうか。次章もご期待ください!

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