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## 「魔王がガイドになっている世界で、俺の心だけが動かなかった」

# 『異世界が観光地になった世界で、俺だけが満たされない』


---


## 第1話:


## 「魔王がガイドになっている世界で、俺の心だけが動かなかった」


---


 異世界は、もう“特別な場所”じゃない。


 魔法は科学で再現され、ドラゴンは観光列車を引き、勇者は観光地のキャストとして働いている。


 ここは異世界「アルカディア」。


 かつて世界を揺るがした戦場は、今では年間数億人が訪れる巨大テーマパークになっていた。


---


「本日はアルカディア観光ツアーへようこそ!」


 やけに明るい声が響く。


 振り向くと、白い制服の少女が立っていた。


 完璧すぎる笑顔。


「私はツアーガイドAIのアリアです。あなたの満足度を最大化するために存在しています」


「満足度を最大化……?」


「はい。感情は現在、最適化可能な資源です」


 さらっと怖いことを言う。


---


 ホームに“列車”が滑り込む。


 いや、正確には列車という概念が空間に現れると言った方が近い。


 リープレール。


 異世界間を数分で繋ぐ移動技術。


---


「本当に異世界なんだな……」


 俺が呟いた瞬間、


 後ろから、のんびりした声がした。


「ええ、本物ですよ」


 振り返る。


 角が生えていた。


 どう見ても人間じゃない。


「元・魔王です」


---


「は?」


「今は観光ガイドやってます。転職しました」


 軽すぎる。


 世界を滅ぼそうとした存在の自己紹介が軽すぎる。


---


「昔はね、世界を変えようとしてたんですよ」


 魔王は窓の外を見ながら続ける。


「でも気づいたんです」


「世界を変えても、人間って別に満たされないんですよね」


---


 列車が動き出す。


 窓の外には、完璧すぎる景色が流れていく。


 空に浮かぶ都市。


 魔法で動くカフェ。


 ドラゴンが宅配便を運んでいる。


---


「どうです?」


 アリアがこちらを見た。


「この世界は危険も不安もありません。完全に管理された幸福環境です」


「……それって、退屈じゃないのか?」


 一瞬、間が空いた。


「退屈という感情は、現在未定義です」


---


 魔王が小さく笑う。


「ほらね」


「そういう世界なんですよ、ここ」


---


 窓の外はあまりにも美しかった。


 完璧で、整っていて、欠けていない。


 なのに――


 俺の中は、何も動かなかった。


---


「なあ」


 思わず口に出ていた。


「俺は、何しにここに来たんだろうな」


---


 アリアの瞳がわずかに揺れる。


「その質問は、記録されていません」


---


 魔王が、少しだけ優しく笑った。


「いいじゃないですか、それ」


---


 異世界は完成している。


 でも俺だけが、どこにも辿り着いていない。


 それがなぜか、少しだけ安心だった。


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## 第1話・終




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