第一話、未来羽とイッパちゃん
真っ暗な画面に、一人の男が映し出される。
「――……あー、あー。聞こえてますか?」
《わこつ》
《待ってた。聞こえるよ~!》
《生存率1%男》
「どうも、皆さんこんばんは! 未来へ羽ばたくと書いて、未来 羽です。本日は、ご覧の通り――」
『本日の挑戦対象は、超難関指定のダンジョンとなります。統計上の生存率は、0.98%です』
「待って、待って。先に全部言わないで?」
《草》
《イッパちゃん、やるぅ~》
未来羽が軽快に話す横で、彼の手に握られた端末から、合成音声で作られた女性の声が響き渡る。
「――……じゃあ、仕切り直すね。はい。では、本日はご覧の通り、生存率1%!? 超難関ダンジョンにやってきています! コメント欄の皆も見て、この入り口の扉。めっちゃヤバそうでしょ」
未来羽が指をさすのは、重厚感のある大きな扉だった。
人ならば、横に並んで十人くらいは通れるだろうか。
『この扉は、ただの入り口です。ダンジョンの入り口は難易度毎に共通しており、今回の超難関ダンジョンの扉には、スチールが使用されております。また、人間が安易に近付かないよう、スチール製の扉の上から、危険――……』
「ちょっ、ちょっと待って、イッパちゃん。俺ね、まだ視聴者さんに説明中なのよ。もう少しだけ静かに待ってくれる?」
『かしこまりました、未来羽様』
《イッパちゃん全部説明しちゃうじゃん》
《コントしてる?》
《早く進めよ》
「……ごほん。ちょっとだけ邪魔が入りましたが。本日はこの最新型ダンジョン攻略補助AI、名付けて『イッパちゃん』と一緒に、この超難関ダンジョンを攻略していきたいと思います! イッパちゃん、自己紹介どうぞ!」
『はい。わたしはダンジョン攻略補助用最新型プログラムです。感情機能は搭載されておりません。主である未来羽様を、最も生存率の高い方法で最下層まで導きます』
《おお、期待》
《危なくなったらすぐ脱出しろよ》
《初見。最新型AI気になってた。結構ちゃんと喋るんだね》
イッパちゃんの端末を楽しそうにカメラへ向ける未来羽は、ふと、その笑顔を消し去る。そして、ブロンズの瞳をゆっくり細めると静かに言った。
「はは、危なくなったら脱出? 俺は引き際ってものをわきまえてますよ。この前みたいなことは絶対に無いんで、安心して見ていってくださいな」
《分かってるよ》
《いのちだいじに》
「……うん、よし。じゃあそろそろ行こうかな。皆、数十時間……いや、一日以上は覚悟してね。イッパちゃんも、準備OK?」
『もちろんでございます』
未来羽はカメラに手を振ると、イッパちゃんへ話しかけた。どこか固く真面目な返答の続くイッパちゃんではあるが、明るく真っ直ぐな未来羽との相性は良いようだ。
未来羽とイッパちゃんの会話が弾む度、画面の右側を流れるコメントの量は増えていく。
未来羽/Mirai Ba
登録者271万人。
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最新動画――【そろそろ】ドラモン21 Part.45【旅に出たい】 65万再生
生放送の同時接続人数は、2.6万人。はじまって、まだ数分。
多くの人間が、未来羽のダンジョン攻略を心待ちにしていた事は明らかだ。
「それじゃあ行ってみよう。超難関ダンジョンの最下層へ!」
《未来羽、楽しそうで草》
《一応生存率1%だぞ》
《なんか言ってやってよ、イッパちゃん》
未来羽は元気に言い放つと、のんびり歩き出した。
撮影用カメラは自動追尾ドローンを使っているようで、映像にはブレも遅延もなく綺麗である。
端末でコメント欄を見ているらしく、多種多様なコメントへ丁寧な返答を繰り返しているところは好印象だ。
「さあ、第一層の入り口まで着きましたよ、イッパちゃん」
『はい。わたしもそのように思います。この超難関ダンジョンのギミックを簡易的にご説明いたしましょうか』
「いいや、大丈夫。ちゃんと攻略動画見てきたからさ。第一層は、俺の『嗅覚』が奪われる。そうだよね?」
『はい、間違いありません。未来羽様の第一層生存確率は、89%です』
「……はは、なんか嫌だな、その言い方」
《イッパちゃん……》
《結構冷酷なのね》
《初見じゃないんかい》
未来羽はスチールの扉に手をかけて、小さく笑った。
それから、続けて大きく笑う。
「はは、流石に初見じゃないって。生存率1%よ? 生放送でやる以上は、かなり予習してきてるからさ。それにさ、今日はイッパちゃんも居る。ちゃんと全力だよ」
未来羽は再びカメラへ端末を見せびらかすと、小さく息を吸った。
その瞳はもう、笑っていない。
《頑張れ、イッパちゃん》
《負けるなイッパちゃん》
「俺の応援もしてよね」
加速していくコメント欄に、未来羽の言葉がひとつ。
静かなるダンジョンの入り口で、音が大きく反響した。
それと同時に、未来羽の身体が揺れる、ゆれる。
ギィィ、という嫌な音とともに、超難関ダンジョンの入り口が開かれた。




