神の力を持つ者が思うこと
「何も箒で行く必要はないだろうに」
宙に浮かぶ箒に横座りで乗っているミアに向けてミラーナは呆れた声で言う。
「何を言っている、耳長。魔女は箒と昔から決まっているのだ」
ミアの前で箒にちょこんと跨った抹茶がミラーナにそう反論した。
何が……そう決まっているのか分からないし、そもそもミアは魔女ではないぞ。
そう思ったミラーナだったが、面倒なので反論しなかった。そして、変わりに別のことを口にする。
「ぬいぐるみ、ミアのことは頼んだぞ。ひと時も目を離すな。箒に乗っている間は、周囲への目くらましも忘れるでないぞ」
「何度も同じことをうるさいのだぞ、耳長。そんなことは当たり前だ。任せておけ。ミアを守るために、おいらは生まれたのだからな。それと耳長、おいらのことは抹茶と呼べ。何度言えば分かるのだ」
ミラーナは軽く溜息をついた。
だがこのぬいぐるみ、口は悪いが己の役目だけはしっかりと心得ているようだった。
次いでミラーナはミアに視線を向けた。
「食事は三度、ちゃんと食べて、夜は早く寝るように。そして何よりも、危険なことをするでないぞ。ぬいぐるみの言うことをよくきくようにな。あと、歯もちゃんと磨くのだぞ」
その言葉にミアは笑顔を浮かべる。
「うふふ、何だかミラーナ様は母上のようですね」
その言葉に当たり前だとミラーナは思う。ミアに言ったことはないが、これまで母親の代わりとなって、そのつもりで彼女を育ててきたのだから。
「そうだ、ミア。帰って来たら、一緒に私の故郷に行こう」
「ミラーナ様の故郷にですか? 人族の私などが、行ってもよいものなのでしょうか」
急で意外な申し出だったのだろう。ミアが驚いたような顔をしている。
「何、そんなに大層な連中ではない。神の力を持ち、その力の行使を是としていない連中がいるだけだ。時が止まった場所なのさ」
自虐的だと捉えたのかもしれなかった。ミアが不思議そうな顔をしている。
ミアが思っているほど、自虐的になっているつもりはなかった。ただ、故郷の者たちの考えも分からなくはないとミラーナは思っている。
自分たちの力を行使しても、この世は望んだ結果にならないことが大半なのだ。もし望んだ結果にするとするのならば、自分たちは永遠にその力を行使しつづける他にないのかもしれない。
いや例え行使しつづけたとしても、望んだ結果とは徐々に離れていってしまうのではないだろうか。神にでもなろうというのであれば、それでいいのかもしれない。自分たちの力を行使しつづけて影響を与え続ける。きっと、それも一つのやり方なのだろうとも思う。
だが、自分たちは神の力を持っているだけで、神になるつもりはないのだ
ならば、最初から自分たちが持つ神の力は行使しないほうがいい。人族も含めて外部の者とは極力その関係を断って切り離してしまう。故郷の者たちがそう結論づけてしまったのも当然なのかもしれないとミラーナ自身も思っていた。
「ミア、私が関わったゆえに、お主の父親には酷な運命をもたらしてしまった。いつかそれをお主の父親と、お主にも謝らなければと思っていた。すまなかったな」
その言葉にミアは明るい茶色の頭をゆっくりと左右に振った。その様子を見て、そういえばこの茶色の髪の毛は父親ゆずりだったのだなとミラーナはぼんやりと思う。
「ミラーナ様が謝る必要は、きっとないのですよ。あのことは、父上も納得して受け入れていたはずです。あの時のこと……その全てを覚えているわけではないですが、父上はそれまでのことも含めて、あの運命を納得して受け入れていたのだと私は今でも思っています」
そう言ってミアは少しだけ笑ってみせた。その笑顔を見てミラーナは小さく頷いて口を開く。
「そうか……では、気をつけて行け。私がここで何かを言うよりも、ミアが外で見聞きし、感じることの方が、きっと幾倍も正しいのかもしれない。私はお前たちをここで、今と何も変わらずに待っている。だから、必ずここに帰って来い」
「はい。ミラーナ様こそ、朝は私がいなくてもちゃんと起きて下さいね。特に朝ご飯は一日の基本なのですから」
ミアはそう言うと、ミラーナには眩しく見える笑顔を浮かべながら飛び立っていった。
別れの時はあっけなかった。そして、ミアが別れ際に浮かべていたその笑顔は、どこまでも期待で満ちていたようにミラーナには思えるのだった。
透き通るような青空の中で、小さくなっていってしまうミアたちを見ながらミラーナはふと考える。
例え慈愛を施したところで、施された者の望む結果に全てがなるわけではない。それと同じように、それを施した者の望む結果にも全てがなるわけではない。それらが望む結果になることの方が、きっと遥かに少ないのだろう。
しかし、そうだからと言って慈愛を施すこと。それ自体を否定することは間違いなのかもしれない。
人族の世界はそれが人族全体の罪であるかのように、多くの悲しみで満ちている。それらを俯瞰で見ていると、悲しみの多さに人族の全てを否定したくなるほどだ。でも、そんな悲しみの中にも希望というものも、また必ずあるものなのだ。
それはミアを見ていてミラーナが改めて気づかされたことでもあった。悲しみで満ちているからといって人族の全てを否定し、切り離してしまうのは間違っていることなのかもしれない。
何、結論を急ぐことはないとミラーナは思う。
我々の時間は永久に近いのだから。
青空の中に溶け込んでいってしまったミアたちを見ながら、ミラーナはそう思うのだった。
最終話までお読み頂きまして、誠にありがとうございました。
誤字や脱字、表記のゆれや文法上の間違いなども散見されたかと思います。未熟な小説技法も含めて、読みがたい部分もあったかと思います。それらも含めて、最後にお詫びさせて頂きます。
誠に申し訳ございませんでした。
主人公を他者の視点で語る。そして、それらを少しだけダークな雰囲気で包み、それを連作短編にて……。
そんな思いで書き始めたこの作品でした。ですが、書きたかったのは三章までだったようで、三章を書き終えた後は書く意欲が大きく下がってしまい、文字を起こすことに難儀しました。
また、他の作品も反響が多いわけではないのですが、それらと比較しても更に反響の少ない作品となりました。某サイトなどは反響が少ない以前に、誰にも読まれていないので……。
このことも意欲が下がった大きな要因だったのだと思います。もっとも、誰も救われないこんな暗い話、誰が好んで読むのだといった思いもあります。少なくとも、通勤・通学・帰宅の電車で積極的に読みたい内容ではないですよね。
反響が少ないということに関しては私の文才の問題もありますので、ある意味では仕方がないと割り切れる部分ではあります。ですが、それに付随した問題。読まれない、あるいは大して読まれもしない小説に書く意味があるのか。書き続ける意味があるのか。この疑問が生まれてしまい、常にその疑問が私を悩ませました。
今でもその疑問に対して、自分を納得させられるような明確な答えを出せないままでいます。明確な答えがないままで、大前提の「書きたいから書く」ということを自分の中で全面に押し出して、辛うじて完結を目指して書き続けたというのが実情です。
早いもので来年の秋で小説を書き始めて丸四年になります。最初に決意した、五年は書くことを続ける。来年の秋を過ぎれば、決意した五年目に突入です。
これまでいくつかの小説を書いてきてその反応を見る限りでは、物語を紡ぐ才能を自分は大して有していないのでしょう。
となると、書き終える頃には五年目に突入しているだろう次作の長編が、よい潮時なのかもしれませんね。まあ、ショートショートに近いような短編は、たまに書くかもしれませんが……。
どこかで気が変わるかもしれないので、何かを明確に断言するつもりもないのですがね。
最後の長編となるのかもしれない次作は、ファンタジーでもSFでも青春でもない、ノワール的な物をゆっくりと書こうかと思っています。一度は書いてみたいと思っていたジャンルの長編です。機会があれば目を通して頂けると幸いです。
……何だか反響が更になくなりそうですね。果たして通しで読んで頂ける方は存在するのでしょうか……。
個人的でどうでもいいような決意や愚痴はさておき、他の作品にも目を通して頂けると、それはとても有難いことだと思っております。
またこの作品に限らず、各サイトで一部の方々からは大変お世話になりました。拙い文章にイラストや感想等々を頂き、物語を書き連ねる際には大いに励まされました。この場を借りて改めてお礼申し上げます。ありがとうございました。
最後に最終話までお読み頂いた方のご健勝と更なるご活躍を心よりお祈り申し上げます。
このような決意や愚痴も含めまして最後まで読んで頂きまして、本当にありがとうございました。




