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第44話

ヴェルト各地で反乱を起こした獣人を聖女率いる聖騎士隊が制圧にあたっていたが、その行く末は芳しくない。

市民に紛れて攻撃してくる謎の勢力に横槍を入れられてしまい、聖騎士隊の犠牲者も着実に数を増やしていた。

だからといって、謎の勢力にばかり気を張っていると当の獣人に遅れを取ってしまう。


そんな現状に、ヴェルトの大通りで臨時の拠点を築いた聖女はあからさまに苛立った様子を醸し出していた。

先程まで静かだった大通りも、何故か急に人々が逃げ出し、騒がしくなったことも聖女の苛立ちを募らせている。


「………騒がしい。エーメリ、畜生共は近くまで来ているの?」


「いえ、そんなはずは…漏れ聞こえる話を聞く限りは別件の騒動かと。テロリストがどうのこうの聞こえますし」


「テロリスト…状況がわからない」


「はい。そのため、アーメリを急ぎ呼び戻しています。…噂をすれば。聖女様、アーメリが到着したみたいです」


エーメリがそう言って見た先を聖女も続いて見ると、そこには聖騎士隊に連れられてアーメリが不満気な顔をしながら近づいてくる姿があった。


「せっかくの休みに…聖女様も人使い荒いよ」


「やっと来た。それで、アーメリ。君はこの状況をどう見る?」


「いきなり呼びつけて、説明もなし?」


「アーメリ…いい加減に聖女様への口を聞き方を改めなさい…」


「いい、エーメリ。そんなことより今はアーメリにはこの街がどう見えているかの方が重要。アーメリなら敵が何者かわかるし、獣人に反乱を起こさせたのが誰なのかもわかるはずでしょ」


「わかるはずでしょって………私は自分の魔法で得た情報以上のことは知らないし、私が話す情報が事実であることも証明できないんだけど」


「アーメリが話す情報は全て真実で、隠し事はしていない。この私が信用を置いているんだ。そこに疑いの余地はない」


「……………わかった、わかった。ちょっと休暇を仕事で潰されて苛ついてたみたい。意地悪が過ぎたよ」


アーメリは今の状況では考えられないようなヘラヘラとした笑顔を浮かべていたかと思うと、急に真剣な表情を浮かべて辺りを見渡す。

少ししてアーメリは所々に悩む仕草を見せながらもゆっくりと語りだした。


「まず…明確にはっきりしているのは獣人駆除をする聖騎士隊を邪魔しているのは帝国軍のヴェルト駐在兵」


「帝国軍!帝国軍が攻撃してるの!?」


エーメリが驚きの声を上げるが、それも無理はない。

聖騎士隊に攻撃するといことは、この世界で唯一信仰されている統一宗教への反抗を意味するのだ。

それは世界中の国を敵に回すといっても過言ではなく、いくら帝国の軍事力が優れていても自殺行為としか考えられない。


「市民のふりをして攻撃しているらしいから、一応は帝国兵であることは隠しているんでしょうね。ムダだけど。そして、これはあくまで私の憶測になるけど、ヴェルトは獣人預かり所が経済の要だからね。逃げ出した獣人を皆殺しにされると、ヴェルトは経済的には終わりになる。だから、私達を邪魔して獣人を殺されないようにしているとか」


「でも、アーメリ。そんなことをしても反乱した獣人に街を物理的に破壊されるだけじゃ…」


「まぁ、帝国兵に私達を攻撃させてる時点でヴェルト市長は冷静な判断はできてないのは確定。もうヴェルト市長本人に聞くしかないでしょうね。

で、次なんだけど…脱走して反乱を起こしている獣人だけど、恐らくマルク公爵が裏で手を引いてる」


「公爵…帝国でも重鎮になる貴族が自ら民を?」


「こっちは何が目的かわからないけど…獣人預かり所から獣人が反乱する直前にマルク公爵家の部下と私兵が獣人預かり所を訪れている。私が観測した中では例外はなし。そして、獣人預かり所の職員が次々と死んでいき、マルク公爵の部下と私兵が立ち去ると獣人達が反乱を開始する。立ち去った一団が次に向かうのは別の獣人預かり所。これが、ヴェルトの各地で行われている。どう考えても獣人の反乱を仕組んだのはマルク公爵でしょ」


「マルク公爵は使用人に獣人を雇っているって話を聞いたことあるし、獣人の解放が目的?」


「マルク公爵はヴェルトに私達が着ていることは知っているはず。解放が目的ならこのタイミングはおかしい。まぁ、これも本人に聞かない限りは真相はわかりようがないから保留。

そして、最後にオマケにギルドも何か厄介なことになってるね」


「ギルドも?」


「こっちはただの被害者かもしれないけど。ギルド支部がヴェルト駐屯軍に包囲、攻撃を受けてる。こっちはかなりの部隊で動いているから多分見た目も騎士でしょうね」


「帝国軍がギルドを?なぜ?」


「さぁ?これは本当によくわかんない。それで、私がわかるのはこれで全部だけど」


「全部?テロリストがどうのこうのって市民が話していたけど」


「テロリスト?さぁ?それらしい反応はないけど…あれじゃない?指名手配犯。どさくさでなんかしたとか?

で、聖女様?どうするの、これから?」


アーメリの話を黙って聞いていた聖女に声をかけると、聖女ははぁと疲れたようなため息を吐く。


「全ての元凶はマルク公爵。私とアーメリ、エーメリでマルク公爵の屋敷に向かう」


「帝国兵はどうするの?」


「公爵と帝国軍が表立って敵対行動をとった。こちらもそれなりの犠牲者も出ている。これはもう帝国と戦争状態になったと判断する。民間人に対する配慮も不要。他の聖騎士隊をもってヴェルトを攻略する」


「帝国と戦争状態…ガチな感じ?」


「最終的な判断は本国がするが、今現段階ではガチだ。ヴェルトを攻略したら2度も戦い続きだったし、一度キルヒェン公国に戻る。戻ったら本国と相談し、帝国に使者を出す」


「戦争…やだねぇ」


アーメリは本当にそう思ってるのかおちゃらけた口調でそう言い、聖女はアーメリの言葉を無視し伝令兵に命令を出す。

伝令兵が敬礼してから立ち去るのを見届けてから聖女が重い腰を上げた。


「アーメリ、エーメリ。行くぞ」


「はいは〜い」


「はい、聖女様」


人類最強と言われる聖女が側近2人のみを連れてマルク公爵邸に歩み出す。

聖女率いる聖騎士隊がヴェルトの公爵と市長に対して本気で攻撃を開始したのだった。

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