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第42話

ケーキ屋でアーメリとリック達が会合する数時間前。

ヴェルトの街中にある獣人預かり所の1つに数人の来訪者があった。


「………それは…本当ですか?」


来訪者が獣人預かり所の責任者に向けて放った発言に、責任者は驚愕と焦りを感じていた。

一方の来訪者は落ち着いた態度で自分の身分を証明する書状を前に掲げながら口を開く。


「本当です。聖女率いる聖騎士隊がヴェルトに抜き打ちの調査隊を遣わせました。聖女は本格的に獣人根絶に動き出し、手始めにヴェルト内の獣人を根絶やしにするつもりです。

帝国はこれを容認、つまり市長と軍に助けを求めても逆効果ということ。だが、マルク公爵はこれをよしと思っていません。ヴェルトの経済の要である預かり所を手放すという手はない。マルク公爵の屋敷地下に獣人を一時的に退避させるスペースを用意しました。聖女にも市長にも知られてない。預かっている獣人を生かしたいならマルク公爵を頼る以外ないですよ」


「………確かに書状にある印とサインはマルク公爵のもの。聖女が街に入ったという噂もある」


「早くしないと今日にも聖女が来るはずです」


目の前のマルク公爵の配下が言った言葉は信憑性を高くする要素は数多くあり、それが責任者の焦りに繋がっていた。

マルク公爵は偉そうな貴族というイメージであり、助けを借りるのは抵抗があるが、今の状況ではそんなことも言っていられないだろう。


責任者は手近な部下を呼びつけると、手早く指示を出す。


「お客さんから預かった商品を殺されるわけにはいかない。急いで獣人の移送する準備をしろ。付加魔法のついた首輪はいくつある?」


「ほとんどの獣人分はありますが、全員分はないです」


「仕方ない…子供や力のない者は首輪なしで移送する。獣人だから油断するな。首輪なしは身動きをとれなくして、馬車でまとめて移送する。馬車には腕っ節の強い奴を複数人つけろ。それと…誰か牢の鍵をもってこい」


「あっ、自分が行きますよ」


「頼んだ」


責任者の部下は駆け足でその場を去り、責任者はその場で的確に他の部下に支持を出していく。

急なことに獣人預かり所の職員は焦っており、だからこそ気づかなかった。

マルク公爵の遣いの一人が人知れず、鍵をとりに行った部下の後を着いて行ったことに。





































マルク公爵邸の執事長であるヘンリーは獣人預かり所の前で部下が出て来るのを待っており、その足は地面を軽く何度も叩き、誰が見てもイライラとした様子だった。

自分の仕事を済ませたマルク公爵が雇った私兵の1人がゆったりとした動きで獣人預かり所から出てくると、ヘンリーは苛立ちのまま怒鳴る。


「遅い!」


いきなり怒鳴られた私兵はビクリと肩を揺らしてから不服そうに顔を歪める。


「バレないように鍵を奪って獣人を開放した。ちゃんと言われた仕事はやったんだから怒らんでいいだろ」


「だったらとっとと次に行くぞ。ここの獣人はすぐに預かり所の職員に対して牙を向ける。急がないと巻き込まれる」


そう言うとヘンリーはさっさと踵を返してその場から移動し始める。

私兵や部下がその後に付いて行き、徐々に離れていく獣人預かり所からは悲鳴と何かが暴れる音などが微かに聞くことができた。


「どうせ預かり所の連中は獣人に殺される。さっきみたいに鍵をとりに行った奴を尾行なんかしなくていい。最初から皆殺して獣人を開放するぞ」


「いや、ヘンリーさん。そうすると、獣人達を捕らえてる鍵の場所がわからないですよ」


「適当な職員を痛めつけて吐かせろ。いいか、どんな手を使ってもいいし、後のことを考えるな。1秒でも早く仕事を終わらせることに集中しろ」


「はぁ…何を焦ってるんですか?」


「むしろ、なぜ焦らない?ヴェルトは終わりだ。すぐに獣人の反乱が始まり、聖騎士隊とぶつかる。戦場になるんだよ。命がいくつあっても足りない。さっさと持ち場を回ってマルク公爵と一緒に帝都に逃げるぞ」


「………ここを戦場にしようとしているのは俺達じゃないですか?」


「そうだな。あのデブ公爵から報酬をたっぷり頂かないと割に合わん。幸いにもあいつは金払いだけはいい」

































ヘンリー達、マルク公爵の息のかかった者達によりヴェルト中の獣人が解き放たれるのと同時刻。

ギルドのヴェルト支部は通常通りの営業をしていた。


だが、ギルド職員の心中は通常通りとはいかない。同僚が聖女の側近であるアーメリ相手に諜報活動をしているのだ。

同僚の身を案じたり、バレたらヤバイなどの様々な思いが職員の中に入り混じりながらも表向きはいつも通り仕事の斡旋をしていた。


「今は傭兵としての依頼はないな。帝都近くに凶暴な魔獣退治依頼ならあるが」


「兵だ!兵がこっちに向かってくる!」


諜報結果を気にしつつもいつも通り客と相対していた受付だったが、それを邪魔するかのように見張りをしていたギルド職員が慌てながら入ってくる。

その様子に受付はどこかうんざりとしながら声をかけた。


「巡回の時間じゃないが、今は聖女の訪問や指名手配犯が潜伏していたりと、警備を強化していてもおかしくないだろ。とりあえず騎士に見つかりたくない奴は隠れろ。騎士の相手はまた俺がしておく」


「ち、違う!前みたいなのじゃなくてガチガチに武装した部隊が編隊を組んでこっちに向かってくるんだ!あいつら戦うつもりだ!」


「………それは本当か?」


「マジだ!あれはヤバい!俺達を殺すきだ!」


見張りの言葉にギルド職員と客が一斉にざわめき始める。

この辺りに軍が部隊を出すような勢力はない。だが、相手がギルドとなると話は変わる。ギルドは傭兵ともツテがある国際的な非合法組織だ。

帝国では比較的少ないとはいえ、世界各地ではギルドと国が衝突することは珍しくなく、それにギルドは独自の戦力を保有することで対抗していた。

つまり、この地域に軍が部隊を送り込むことなど、ギルドを軍事的に潰しに来た時ぐらいしかないのだ。


「じょ、冗談じゃねぇ!俺は逃げるぞ!」


「いや、逃げたら死ぬぞ」


客の1人がそう言うが、受付がそれを制する。


「こいつは見張りの中でもひときわ臆病なやつだ。軍の行進にいち早く気が付き、戻ってきたんだろう。だが、他の方角を見張ってた奴は交代の時間なのにほとんど戻ってきてない」


「………どういうことだよ」


「既にかなり大きな範囲で包囲されているということだ。逃げるという選択肢はない。職員はもちろん、一部の客もだ」


その言葉にギルドの空気が凍る。軍と戦うにはあまりにも戦力が足りなすぎるのだ。


「だが、事前に襲撃を知れたのは大きい。籠城戦だ。バリケードで出入口を封鎖しろ。だか、完全には閉じるなよ。小さな筒が通るぐらいの穴を至る所にあけておけ」


「ろ、籠城戦って…勝てるわけないだろ!一点突破で包囲を崩す方が現実的だ!」


「いや、今の戦力で向かっていっても返り討ちだ。迎え撃つ方が戦いやすい。それに勝つ必要はない。時間を稼げればいい」


「………何か考えがあるのか?」


「恐らく軍はリックとミアをギルドが匿っていると思っている。少なくともギルドに重犯罪者が来たことまでは掴んでいるはずだ。本当に2人を捕らえに来たのか、口実にギルドを潰そうとしているかはわからないがな。強いて言えば両方か。

どちらにせよこれはリック達がギルドに匿われている可能性があるという前提のもと動いている作戦だ。その前提を崩れれば、奴らはギルドを攻撃することができなくなる」


「だが、いくら待ってても意味ないだろ」


「いや、ちょうど包囲網の外でリックとミアの居場所を把握できてるギルド職員が何人かいるだろ。あいつらが、いずれこの前提を崩す。それを籠城して待つしかない。

話は終わりだ。急げ!軍が攻撃を仕掛けてくる前にできるだけ防御を固めろ!」

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