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第41話

「………そのあたりにしてやってくれないか?恐らく、ここにいるギルド職員は恐らく何も知らない」


考え事をしながらも剣を抉る手を止めないアーメリの手を掴み止めたのは、意外にもリックだった。

そのことにアーメリは少しだけ目を丸くしてから、面白そうにクスっと笑う。


「どうやら、そうみたいだね。ごめんね、私もいじわるが過ぎた」


そう言うとアーメリは剣を引き抜き、肩を刺された女ギルド職員はその場に肩を抑えてうずくまる。

そんなギルド職員を同僚が心配してか、店の外にいたギルド職員を含めて駆け寄ってくる。


「さて、こんなことをしている間にも一般市民と聖騎士隊員がどんどん犠牲になっている。ほら、行くよ」


「えっ、あっ、待ってください!アーメリ様!」


事を少し離れた位置から静観していたアーメリを迎えに来た聖騎士隊員が慌てて店を出ようとするアーメリを追う。


「さて、私達はもう行くよ。それと、ギルド職員…君達にとって私達が邪魔なのはわからなくもないけど、お互い不干渉といこうじゃないか。ギルドが荒くれ者を管理してくれれば、聖騎士隊としても活動しやすい。でも、もし聖女様の反感を買ったら聖女様の行く先行く先でギルド支部とその職員が滅ぶことになる」


「………お互い不干渉だと…!お前ら教会はいつもそうだ!世界を宗教で洗脳し、歯向かう者は武力で黙らせる!一方的な干渉をしておいて、よくそんなことを言えるな!」


肩を抑えている女ギルド職員が思わず声を荒げると、周囲のギルド職員は黙らせようとなだめる。

その女ギルド職員の物言いに聖騎士隊員が剣を抜こうとするが、アーメリがそれを制した。


「威勢いいね、嫌いじゃないよ。私としてはギルドと対立したらこの退屈な旅も少しは面白くなりそうだし。そして、君達の敵は私達だけじゃない。この街のギルド支部、ヴェルト駐屯軍から包囲されて攻撃されてるよ。

各所で暴れる獣人に、それを放置しよくわからない行動をする軍。コソコソ場を荒らすマルク公爵に後手に回る聖騎士隊。混沌としてきたけど、長い旅の間でこんなにワクワクしたのは初めて。じゃあ、行こう。流石にそろそろ場を締めないと」


アーメリはそれだけ言うと聖騎士隊員を引き連れて、店を出た。

アーメリが店から出たことを確認したギルド職員はしばらく呆然とした後にいそいそと1人のギルド職員がリックとミアの元に歩み寄って来る。


「リック殿とミア殿ですね」


「………そうだけど、ギルド職員でいいんだな?」


「はい。この場を取り仕切っているステファンと申します。まずは盗み聞きしていたことを謝罪する」


そう言うとステファンと名乗った男のギルド職員は深く頭を下げる。

リックはミアを庇いつつもステファンに警戒した眼差しを向けた。


「アーメリが何やらよからぬ動きをしているという話でしたので見逃すことができず、このような形をとりました。あなた方2人を害するつもりも軍に突き出すつもりも一切ありません」


「………それで、ギルドはこの後どうするつもりだ?」


「あなたに対してなら何も。アーメリと協力関係を結んだとしてもギルドにはあまり害はなさそうです。

そして、この街で起きていることに対して聞いているのなら…どうしましょう?」


「いや、聞かれても困る」


「支部に戻って体勢の立て直しと指示をあおいだりしたいですが、軍に包囲されてるそうだし…本当にどうしましょう?」


「逃げるのは?支部に戻っても街にいても軍か獣人と戦うことになるし、死にたくないならヴェルトから出るのが1番だろ」


「………逃げる…そういえば、アーメリはこの辺りは静かだが、ヴェルトの街各所では獣人が反乱を起こして市民にも犠牲が出ているって言ってましたよね?それにしては大通りの住民は普段通りで、まるで異変には気づいていない様子。どういうことでしょう?」


「本来なら避難を呼びかけるのは軍の仕事のはず。軍が機能していないか、市民の避難勧告より別のことを優先しているかなんかじゃないか?」


リックの発言はただの思いつきに過ぎない。だが、それを聞いたステファンは何かを決意したような顔になる。


「………今後の方針を決めました。すみませんが、リック殿。協力いただけませんか?」


「支部の軍を引かせるために出頭してくれなら断るぞ」


「いえ、ここにいる我々で市民を避難させます」





























ヴェルトの大通りでは普段通りの日常が流れていた。

走る子供に注意する親。世間話をする主婦に仕事に追われる夫。

そんないつもと変わらぬ風景が流れるヴェルトの大通りで突然の爆音が響きわたった。


大通りに面するケーキ屋が突然爆発して煙と炎に包まれたのだ。

道行く人は立ち止まり、ケーキ屋に視線を向けると煙の中から1人の青年が獣人の少女と肩を怪我した女性を従えてゆっくりと姿を現した。


顔を覆い隠せるようなフードつきの服を着ているが、顔を隠そうとせず堂々とボロボロの店から出てくる姿に住民は何者かと注目する。

獣人の少女はともかく、肩を怪我した女性は青年にどこか怯えている様子で、青年も無理やり女性を歩かせており、とても普通の人とは思えなかった。


そんな中、大通りにいた1人の男性が大声で、通りにいる人にアピールするかのように大袈裟な身振りと声音で叫んだ。


「あ、あれは!帝都で国家反逆罪で指名手配されていたテロリストだ!」


同時に数人の人々が裏通りから大通りに必死の形相で走りこみながら叫びながら飛び込んでくる。


「大変だ!獣人預かり所にいた獣人が集団脱走して暴れている!死にたくなければ逃げろ!」


「獣人の反乱だと!あの男の仕業だ!あの男は帝都を獣人で乗っ取るつもりだったのが失敗したんだ!だから、隣のヴェルトをターゲットにしたんだ!」


「人間は殺されるぞ!早く逃げろ!」


「逃げるって何処に!?」


「獣人は獣人預かり所から来ている!つまり大通りまで来るには時間がかかる!大通り沿いに街の外まで逃げて、帝都に避難するんだ!」


「逃げろ!まだ街の人はこのことを知らない!できるだけ多くの人に声をかけながら逃げるんだ!」


平穏だったヴェルトの大通りは一瞬のうちに混乱に飲み込まれる。

1人のテロリストの登場に人々は怯えて逃げ惑い、すぐに多くいた通行人の姿はなくなった。

だが、遠くから悲鳴が今も聞こえ、どうやら大通り沿いに街の外に向かっているのだろう。


発端となったケーキ屋周辺に残されたのはテロリストの青年と獣人の少女。そして最初に叫んでいた住人達のみとなった。

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