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第40話

「………あ〜、本当に失礼だね。それで、どうした?何か緊急事態?」


アーメリがいつの間にかやってきていた聖騎士隊員に不服そうにしながらもきちんと耳を傾けていた。

一方の聖騎士隊員はアーメリと一緒の席についている顔を隠した2人のことを気にしつつもしっかりと敬礼をする。


「緊急です。聖女様から招集がありました。案内しますので、ついてきてください」


「ついていくはいくけど…何があったの?」


「………ヴェルトの街各所にて獣人が反乱を起こしています。ここの大通りはまだ静かなようですが、いずりここも獣人が押し寄せくるはずかと」


聖騎士隊の報告にアーメリは自分の魔法に集中し、ヴェルトの街全域の様子を確認する。

聖騎士隊の言う通り、ヴェルトの各地で獣人の集団が無差別に人間を襲いながら街中に散らばっていた。


「………反乱というよりかは暴走じゃない?」


「聖騎士隊が鎮圧にあたっていますが、獣人は街中の至る所に散り散りにおり、対処が間に合っていません。聖女様もアーメリ様なしでは目に見える範囲のみにしか対応できず、苦戦しています」


「って言ってもこの前の殲滅戦と違い、今回は人間と獣人がかなり入り乱れてる。私がいても獣人のみを攻撃するのは難しい。悪いけど、地道に掃討するしかないんじゃない?」


「………聖女様も同じ考えです。ですが、1つ問題が」


「何?」


「獣人鎮圧に動く聖騎士隊に攻撃をする人間がいます。1人や2人でなく、何らかの組織的な集団かと」


「………聖騎士隊を攻撃する人間組織?そりゃまた…度胸があるのかバカなのか」


アーメリがそう言いながら、再び魔法に集中する。

確かに、聖騎士隊員が獣人と戦っている所に横槍を入れるように聖騎士隊に攻撃する者がいた。

聖騎士隊を攻撃することは実質的に世界を支配する教会に喧嘩を売ることを意味する。

まともな判断をできる人間ならそんなことをしないだろう。

よっぽど素性がバレない自信があるのか、切羽詰っているのかなのだろうが、アーメリには襲撃者のある程度なら素性を簡単に知ることができるので、素性を隠すのは無理な話だ。


「………それで、聖騎士隊を襲ってる連中のことはわかっているの?」


「いえ。市民と同じ格好をして、隠し持った武器で襲ってきます。目につく市民を皆殺しにするか、殺されるかしか今のところ選択肢がありません。アーメリ様がいれば、敵の素性がわかるかもしれないので聖女様が我々にアーメリ様を探すよう命令されました。すでに聖騎士隊にも犠牲者が出ており、市民への被害は甚大です。事は一刻を争います」


「………確かに、緊急事態みたいだね。二人とも、ごめんね。話の途中だけど。落ち着いたらって言いたいけど、街の中は物騒っぽいから、逃げれそうなら逃げたほうがいいんじゃないかな?私でよければ君達にいつでも協力するから」


黙って様子を眺めていたリックとミアは、突然話題を振られて戸惑いながらも、リックは静かに頷いた。

アーメリを迎えに来た聖騎士隊員はチラリと横目に2人を見るが、特に言及することなく、アーメリを先導するために踵を返す。

聖騎士隊員が背中を向けたことを確認すると、アーメリがリックに顔を寄せて小声で呟いた。


「私の考えが正しければ、聖騎士隊はこの後はキルヒェン公国を目指して、東へ進む。君達も行く宛がないなら、キルヒェン公国を目指せばいいんじゃないかな?そうすれば、私は君達の位置を把握できるから協力しやすい。どうするかは任せるよ」


「アーメリ様!ご友人との別れの挨拶はすみましたか?申し訳ありませんが、急いでもらえると」


「ごめんごめん、行くよ。でも、その前にちょっとだけいい?」


「まだ、何かあるんですか?」


「すぐ終わるから。えっと、隣の席の女の人と、奥の2人組。テラス席のカップルと店の前のベンチにいる男。私達を案内した店員」


唐突にアーメリに名指しされた数人の人々は目に見えて狼狽える。

今までアーメリ達のやり取りを他の客と店員は遠巻きに聞きつつも関わらないように徹していたのに、急な指名に戸惑うなという方が無理な話だ。

そして、それは当事者である聖騎士隊員やリックとミアも同じで、なぜ急にアーメリが無関係な人々を名指ししたのかわからずにきょとんとしていた。


「君達ギルド職員だよね?」


「ギ、ギルドの人間!?なぜここにギルドの人間が!?」


聖騎士隊員がギルド職員と思わしき人物達を睨みつけるが、睨まれた当人は何のことがわからないといった風にオロオロしている。

だが、アーメリの魔法を知っている聖騎士隊員からしたら、その演技は無駄でしかない。


「な、何の事かわからな」


名指された代表として隣の席の女性客が声を上げるが、アーメリが黙らせるように女性客の首元に鞘から抜き取った剣を突き付けた。

女性客はもちろん、他の客や店員も息を呑み、店の外のベンチに座っていた男性も驚きから腰を浮かせている。

ベンチに座っていた男性は店内の会話が聞こえておらず、店とは全く違う方向を見ていたはずなのにアーメリの行動に即座に反応した。

どうやら横目で店内の様子を伺っていたようで、それがアーメリの言葉により信憑性をもたせている。


「私の魔法を前にしらばっくれてもムダ。正直に答えて。あなた達はなぜここにいて、今の状況をなにか知ってるの?」


剣を突き付けられた女性客は言い逃れはできないと思ったのか、先程までの戸惑った雰囲気を払拭し、鋭い目でアーメリを睨みつける。


「調子に乗るなよ、教会風情が。平等を謳いつつも圧政」


「あぁ〜、そういうのいいから」


聖騎士隊への悪態をつき始めた女性客に、アーメリは慣れてるのかうんざりとした表情をしながら首元に当てていた剣で女性客の肩を突き刺した。

「イッギィ」とうめき声をあげる女性客と他の客が慌てて店外へと逃げ去っていくのを尻目にアーメリは突き刺した剣で傷口をグリグリと抉る。


「ギルド職員。あんたらはもう私の魔法で捉えたから逃げたら地獄の果てでも聖女様の攻撃が飛んでくるよ」


混乱に紛れて逃げようとする店内にいたギルド職員にアーメリはそう声をかけると、ギルド職員は顔をしかめながら逃げようとした足を止める。

実際のアーメリの魔法はおおよその素性と人間か獣人かぐらいの種族がわかるだけなので、24時間常に魔法で監視をするか、ミアのような特殊な者以外は個人の特定はできない。

つまり、もしギルド職員に逃げられてしまったら、アーメリはその人物を再び見つけるにはギルド職員を片っ端から調べるしかなく、先程のアーメリの発言ははったりだ。

だが、アーメリの魔法を知らず、自分達の素性を当てられたギルド職員にそのことがわかるわけがなく、結果として店内にはギルド職員とアーメリと聖騎士隊員、リックとミアのみとなった。


「わ、私達はあなたが何かよからぬ動きをしているから探るよう言われただけ。ほ、本当に今起きてることは何も知らない!」


「これだけのギルド職員があらかじめ店内に配置させといて、それを信じろと?」


「本当、本当!もしかしたらギルドは何か企んでいるかもしれないけど、私達は知らない!」


そう叫ぶ女性客と訝しげな反応を示すアーメリ。

だが、アーメリはギルド職員がこの場にいることをむしろ自然だと考えていた。

この日、この場所で会談する約束をした時にギルド職員がおり、探りに来ないほうがおかしい。

アーメリは何かしらの情報が掴めるかもと、ダメ元でギルド職員を脅迫したのだ。


(むしろ怪しいのはこの会談の存在を知りながらこの場にいないマルク公爵の関係者。何か人員を避けない事があるのか、別の策があるのか)


アーメリはそんなことを考えながらも、いまだに傷口を広げるように剣を動かしていた。

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