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第28話

森の中に見つかった獣人の村を襲撃するために編成された帝国軍の部隊。

その部隊の隊長を任された者は村の外に臨時的に設置された本部に1人の兵が慌ててやって来た。


「ほ、報告します!敵獣人が結託して包囲網の一箇所に集中攻撃を開始しました!」


襲撃を開始してから順調に進んできた作戦に水を差した凶報に隊長は苛立った様子で舌打ちをする。


「周辺から応援を寄越せ!包囲網を破らせるな!」


「………申し訳ありません。兵力が少なく、他所から応援を出すと包囲網の維持が…」


「クソッ…応援に魔術部隊を出せ。魔術部隊の空いた穴は周辺から交代させろ」


「申し訳ありません。魔術部隊は敵攻撃箇所から反対側を担当しています。最短で応援を出すためには村の真ん中を通るしかないのですが…貴重な魔術部隊を安全の確保が済んでいない中心部を通すわけには…」


「チッ…獣人に逃げられるのだけはダメだ。この際、包囲網に穴を空けてでも………待て。魔術部隊の反対側と言ったな?」


「え?あっはっ!敵攻撃箇所は現在魔術部隊が配属されている所とちょうど反対側です」


「………なら、何も問題はない。あそこにはあのお方がいる」


「あのお方、ですか?」


報告にきた兵士が頭の上にクエスチョンマークを浮かべて呆けていたが、隊長は1人で安心しきっていた。

さっきまでの慌てぶりが嘘のように落ち着いており、椅子に深く腰掛けてリラックスしている。

その様子にもう指示を出す気がないことを如実に表しており、兵士は訳が分からなかったが、どうすることもできずに立ち尽くしていた。





























「き、聞いてねぇぞ!獣人は弱くて愚かな下等生物なんじゃねぇか!」


「殺されるぞ、逃げろ!」


「何なんだよ!よりにもよって!」


「おい、待て!逃げるな!包囲網を維持しろ!」


急に統制のとれた動きで帝国軍に一矢報いた獣人達に実戦経験に乏しい帝都の軍人は士気を失い、各々が勝手に敗走し始めていた。

勇敢な軍人は立ち向かっていくが、身体能力の高い獣人を数の暴力によって有利な立ち位置にいたのに、その数の利を奪われては勝ち目はなく、無惨に散っていく。


逆に獣人は支配者であった人間達が情けない悲鳴を上げながら背中を向けて逃げていく様は愉快で士気が上がっていた。

もはや包囲網は維持できておらず、このままだと獣人達はさほど時間をかけずに包囲網を突破するだろう。


「突き進め!勝利は目前だ!」


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおお!」


「情けない人間共が!」


そんな獣人達の声に帝国軍はまた情けない声を出す。

もはや立ち向かう勇気ある軍人はおらず、ひたすら村の外側へと走り続ける。


そんな人の流れに逆らうように1人の若い女性がゆっくりと歩いていた。

女性は周りの騎士とは違い、戦闘に使うとは思えない装飾品をふんだんにあしらわれた鎧を着ており、その中でも目を引くのは背中につけられた鳥の羽を模した巨大な装飾品だ。

戦闘に役に立つところがむしろ邪魔になるとしか思えないその羽は天使の羽根と呼ばれており、彼女の象徴として扱われていた。


そんな彼女は混沌と化した戦場の中でも凛として歩き、人の流れに逆らってるにも関わらず誰ともぶつかることなく前へと進み続ける。

彼女が避けてるわけではない。逃げる帝国軍が無意識に彼女を避けているのだ。

神聖な存在たる彼女の歩みを邪魔してはいけない。人間達は彼女を一目見るなりそう考えてしまうのだ。


彼女の誰にも邪魔をされない神聖な歩みは、信念が溢れている。悪を滅するという正義が彼女をその神聖さたらしめていた。


一方の逃げる人間を追う獣人は向かってくる人間に容赦はしない。


「死ねぇ!人間!」


意気揚々と人間を追い回し、戦闘を進んでいた獣人は真っ先に彼女に飛びかかり、持っている剣を振り下ろした。

一方の若い女性はその剣に一切の反応を示さない。そのまま歩み続けていた。


「………は?」


そのまま女性を切り裂くと思われた剣は何故か彼女に触れる前に折れてしまい、剣を振るった獣人は思わず間抜けな声が漏れた。

理解できるわけがない。彼女は何もしてないに剣が折れた。そんな光景が獣人の目の前にあったのだ。


「………穢らわしい獣が。誰に剣を振り下ろしているかわかっているのか?」


「!天使の羽根を模した鎧!こいつせ」


「誰がその汚い口を開く許可をした?獣の分際でこの私の聖なる歩みに立ち入るとは…滅べ」


若い女性が目の前でたち呆ける獣人に手をかざすと、獣人が爆発した。

文字通り獣人は内側からいきなり肉と血を周囲に撒き散らし離散したのだ。

獣人1人の体が幾多の肉片となり、大きい物でさえなんとか手の平に乗るサイズだった。


突然の出来事に逃げ惑う人間も追う獣人も目を丸くして固まり、周囲に降り注ぐ血と肉片を浴びている。

だが、何故か一番近くにいた女性には一切の血と肉片が振りかかることはなかった。

まるで、神の加護があるかのように。


「天使の羽根。神に愛された存在。間違いない聖女様だ!」


「聖女様!聖女様が来てくれたぞ!」


「あぁ、聖女様!我等に救いを!」


その女性が聖女であることを確認した人間が一斉に歓声をあげる。

さきほどとは逆だ。1人の女性が登場しただけで形勢が完全に入れ替わった。

聖女とはそういう存在なのだ。

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