第27話
「………騒がしい」
村長宅の地下にある牢屋に入れられている1人の獣人は地上から漏れ聞こえてくる喧騒にそう呟いた。
といっても、地下牢であるが故に何が起きているか確認する手立てはなく彼にはどうすることもできない。
男はどうすることもできずに、牢屋の真ん中に座り、ただただ時間だけが流れていく。
このままこの牢屋に入れられたことすら忘れて死んでいくのだろうか。男がそんなことを考えていると、牢屋の前に誰かがやってくる気配がし、男が顔を上げ鉄格子の先を見ると、そこには村長夫人が立っていた。
「………ここから出たい?」
村長夫人はそう男に語りかけるが、そもそも男がここに入るきっかけを作ったのが目の前の人物なのだ。
男は村長夫人を訝しげに見ながら、警戒しつつ重い口を開いた。
「なんのつもりだ?」
「今は少しでも戦力がほしいの。仮にもうちで最強の執事を殺したんだから、実力は本物でしょ?」
「殺したといっても門番3人がかりでだ。しかも2人が死んで、俺も気を失って倒れてたんだぞ。それでも実力があると言う気か?」
「だから少しでもって言ったでしょ。いないよりかはマシ」
「俺はもうあんたらを信用していない。忠誠を誓うと思うか?」
「ならここで野垂れ死ぬだけよ」
「………チッ、わかったよ。だけど、約束しろ。上の騒ぎに関することは手を貸すが、その後の俺はこの村を出て自由に生きる。いいな?」
「約束する。といっても、どっちにしろ村はでることになるわよ」
「?」
「帝国軍がこの村に攻撃をしかけてきた。すでにこの村は包囲され、その包囲をどんどんと狭められている。だから、一箇所を集中攻撃してそこから脱出するわよ」
「そんなんで抜けられるのかよ?」
「理由はわからないけど、包囲網自体はかなり薄い。全戦力を特定箇所にぶつければ不可能ではない」
「………しかし、あんたのことをよく知らんが、村人を見捨てて1人で逃げようとは思わなかったのか?」
「あんたと一緒。私だって人間は嫌い。このまま成すがままというのは癪に触る」
「………あっそう」
帝国軍により開始された第5獣人村攻略作戦は順調に進んでいた。
順調といっても最初の方はそこら中にいた獣人が包囲網を縮めれば縮めるほど遭遇しなくなったのだ。
逃げたとも考えられるが、完全に包囲しているのだからどこかしらは交戦するはずなのにそのような報告はない。
「この家は?」
「さっき見たけどもぬけの殻」
「………ここもか」
兵に与えられた命令は殲滅。1人残らず獣人を殺し尽くせという命令であるため、帝国兵は隠れられそうな所は全て捜索しながらの進行をしている。
そのため、包囲網を縮める速度はかなり遅い。
獣人とはいえこの村はただの村で、住んでいるのは一般人。
このような場合の一般人の反応は逃げ惑うか、どこかに隠れてやり過ごすか、待ち伏せするかだ。
だが、今回の場合は忽然と姿を消した。一般人にしてはかなり統制がとれた行動であり、どこかに指揮をとっている者がいることは間違いない。
「………どう思う?」
「は?何が?」
「村人の動きに何らかの意志を感じる。何か企んでいるんじゃないか?」
「だとしてもこの戦力差ならどうしようもないだろ」
「それにおかしいと思わないか?この地図。偶然見つけた村にしては地図が精巧すぎる」
「確か先行部隊が潜入したんじゃ」
「それにしては精巧すぎるだろ。家の一軒一軒に隠し通路まで完璧だ」
「………なぁ?もしかして上が何か隠してるって言いたいのか?や、やめてくれよ。そりゃ上に立つものとして何らかの極秘事項はあると思う。だけど、お前が何を疑ってるかはわからないが、それは疑ってはならないことだ」
「………別に今の帝都に不満があるわけではない。ただ、ちょっと違和感があ………静かに」
「は?」
「いいから静かにしろ。何か聞こえる」
耳をすませば微かにだが、確かに遠くから何か音が聞こえてきた。
動物や自然の音ではない。人の雄叫びのような音で、1人や2人ではなくかなりの大勢のようだ。
「ち、近付いて来る」
「それに早い。あいつら全戦力で一箇所に特攻しかけてきやがった。まずいな、ここは包囲網で一番薄いところ。包囲網を破られる可能性がある。一旦下がって報告だ。他のところから応援をよッ」
その時、兵士の近くにあった家の陰から獣人が雄叫びを上げながら飛び出してきた。
獣人は持っていた剣を振るい、兵士は咄嗟に自分の剣で防ぐことができたが、次々と飛び出して来る獣人に一緒にいた兵士はあっけなく斬り伏せられる。
「早ッ、すぎだろ!さっきまであんなに遠くに!」
「貴様が遅いだけだ、人間」
「この剣、重いな!クソ!」
兵士は獣人と切り結びながら相手の剣の重さに驚きを隠せない。
仮にも訓練を積んだ兵士が足を踏ん張り、剣を持つ両腕の筋肉が悲鳴をあげるほどだ。
対する獣人は剣を片手で持っており、余裕そうな表情だった。
そして、片手で剣を持っているということはもう一方の手は空いているということだ。
獣人は空いている方の手で兵士の首を掴み、そのまま喉を引き千切った。
兵士は首元から溢れでる血を認識すると同時に地に倒れ込む。
その兵士を手にかけた張本人である獣人は、死体となった兵士を見下ろしながら、片腕を空に掲げた。
「見ろ!我々を見下し、貶してきた人間など数が多いだけだ!一人一人は弱く脆い!全員突撃!包囲網を打ち破れ!」
その声に周囲の獣人が呼応し、雄叫びを上げながらが士気を高めていく。
そのまま獣人達は前進する。策など何もない、ただの力押しで、獣人達は人間を蹂躙すべく突き進んでいく。




