表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/45

第23話

「………リック?」


「ごめんな、待たせて。でも、安心してほしい。もう二度とミアを見捨てたりしない」


「うん…こっちこそごめん。また見捨てられると思っちゃった」


「ほら、立てるか」


リックがジルベールの死体を挟むような位置に倒れてるミアに手を差し伸べ、ミアは涙を拭ってからその手をとった。

立ち上がったミアはジルベールを跨ぎ、リックの所まで近寄ると、ギュッと抱き着く。

リックはそんなミアを安心させるために頭をポンポンと叩いた。


そしてそれを遠巻きに見ている村長夫妻にとって、その光景は許容できるようなものではない。


「キッ貴様ら!な、なな何をしたかわかってるのか!あいつどこいった!この人間を見張るよう命じてただろ!誰か来い!人間を殺してミアを捕らえろ!」


「よりにもよってこのクソ科学者を殺すなんて!その意味がわかってるの!?あんたはどこまで私達を苦しめれば気がすむの!」


冷静さを失い喚き散らす2人にリックは呆れずにはいられなかった。

この2人は仮にもミアを育ててきてここまで情は沸かないものなのか。そう思わずにはいられなかった。


「おい、おま」


「黙れ!」


あまりにも無様な2人にリックは咎めようと口を開くが、すぐ隣から響いた怒声に遮られてしまう。

リックが声がした方を見れば、どんな目にあっても怒らなかったミアが怒りの表情をしながら、自分の育ての親を睨んでいた。

村長夫妻は一瞬だけキョトンとしてからすぐに憤怒の表情でどなり声をあげる。


「こ、小娘が!親に向かってなんて口聞いてやがる!」


「うるさい黙れ!本当の親でもないくせに!」


「その本当の親は目の前でくたばっているのに泣き言の1つないだろ!親じゃないくせになんてよく言えたな!それにその理屈なら本当の母親の言う事は聞くってことか!」


「なら私の言うとおり帝都でモルモットになりなさい!」


「黙れ黙れ黙れ黙れ!あんたらとくだらない問答をするつもりはない!」


「こ、この親不孝者が!お前は何のために産まれたと思ってるんだ!」


「親も産まれた理由も私には関係ない!私はただのミア。人間でも獣人でもモルモットでもなく…親もいない。そんなただのミアだよ」


それは娘から突き付けられた実質の絶縁宣言であった。

村長はギリッと奥歯を噛みしめて、自分を裏切った娘を睨みつける。


「生きて、この村から出れると思うなよ」


村長はそう宣言する。ジルベールが死んだことによりこの村の立場をかなり危ういものになっているのに関わらずの殺す宣言だ。

今の村長は全てを感情的に判断している。仮にもこれだけの規模の村を統治する者が冷静さを失うなどあってはならない。


(帝都の近くでこれだけの規模の村を秘匿していたというからさぞ凄い奴だろうと思ったが…結局は帝都に利用されてるだけの考えなしか。

俺は獣人に何の夢を見ていたのか………人間も獣人も大差ない。卑しい存在だ)


獣人を理由もなくさぞ当然のように差別する人間達に馴染むことができず、森で暮らすことにしたリック。

獣人達と接すれば何かわかると考えていたが、実際にわかったことは獣人と人間の違いは本当に魔法と身体能力だけということだ。

死んだジルベールの言う事を信じるのならば身体構造的にも違いはない。

そして、人間も獣人も等しく卑しく身勝手な種族だ。


(どちらかといえば俺も人間としては例外でなく同じような存在だ。

そして、ミアはまだ子供だし、モルモットであることを悟らせないように育てられてきたから純粋さを残してはいる。だが、それはミア自身が例外というわけでなく、そういう環境にいたからだ。

もしミアがごく普通の獣人として過ごしていたら、一般的な獣人になっていたのだろう)


憎しみを込めた視線を両親に送るミアを横目に眺めながらリックはそんなことを考える。

人間と獣人は魔法と身体能力と僅かな外見以外に差はない、そう結論づけた。


耳と尻尾を除いた外見と身体構造、そして種族としての有り様にも差はない。

なら、なぜ差別があるのか。それは両者共に卑しいからだ。

卑しいからこそ、数で劣る獣人を迫害し、人間の優位性を保っている。

それに意味はなく、ただ見下し悦にひたるためだけの迫害。そして、人間という種族はその状況を満悦しているからこそ疑問を抱かない。


もし人間と獣人の立場が逆だったとしても現状は何も変わらない、迫害されるのが人間側になるだけだ。


人間社会で生きづらく感じていたリックだが、獣人側も本質は何も変わらない。

結局リックは人間社会も獣人社会にも居場所がないのだ。


「………ミア、行こう」


今は睨み合うだけだが、どちらが飛び付いてもおかしくない現状から逃げるためにもリックはミアにこの場から去るよう促した。

ミアは先程とは打って変わって笑顔でリックの方を見るとうんと頷く。


「に、逃げるつもりか!待て、卑怯者!おい、誰かいないのか!?こいつらを殺せ!」


「ジルベールを殺してミアまでいなくなったらこの村はどうなるかわかってるの!?見捨てるつもり!」


後ろで村長夫妻が何やら喚き散らしているが、リックはそれを無視してミアと共に部屋から出ていく。

人間と半獣人の子供であるミアの2人を相手に獣人である村長達がなぜ自ら攻撃してこなかったか。

恐らく、あの2人は碌に戦ったこともなければ重労働もしたことがないのだろう。

人間に飼われながらも村長という甘い汁を吸い、何の苦労もなくここまで来ておきながら、自分のためには他人を犠牲にすることは厭わない。


(………本当に俺は獣人に何を期待してたんだろうな)


リックは人間と獣人に見切りを付ける。

横を一緒に歩くミアと共に、この世界のどこかにある平穏を求め、旅に出よう。そう決心しながらリックとミアの2人は部屋を出た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ