10 一億の壁と、新しい未来
西暦2023年3月。
目の前のPC画面には、俺の全財産である99,120,550円の残高と、監視者が示した「最後の資金」の振込先口座情報が表示されている。
振り込むべき金額は879,450円。それを振り込めば、俺の純資産は1億円を割り、再び「死に戻り」の絶望に引き戻されるはずだ。だが、監視者は言った。
『ミッションクリアの本当の条件は、「1億円の純資産を達成し、同時に世界を破滅させる可能性をゼロにすること」。』
俺は深く息を吸い込み、キーボードの前に両手を置いた。五年間の苦闘。二度目の人生で得た知恵と、監視者のチート。すべてが、この瞬間に収束する。
「……信じるしか、ない」
俺は覚悟を決めた。もし死に戻りになったとしても、それは世界を救うための行動だったのだ。
俺は振込先の口座番号を打ち込み、金額欄に879,450円と入力した。
最終確認の画面が表示される。指が震える。この一押しが、すべてを決める。
「頼むぞ、監視者……!」
俺は最後の力を振り絞り、**「振り込み実行」**ボタンをクリックした。
一瞬の静寂。
『振込が完了しました。』
PC画面の残高表示が更新された。
98,241,100円。
一億円を下回った。
次の瞬間、全身を強烈な光が包み込み、耳鳴りが激しく響く。
「やはり……失敗か!」
強烈な既視感。これは、一度目の人生で味わった、あのリスタート直前の感覚だ!
意識が遠のきかけたその時、PCの画面に、あの女性のCGが再び浮かび上がった。
『お疲れ様でした、悟くん。』
女性のCGは、初めて、心からの安堵と優しさを滲ませていた。
『あなたのミッションは……クリアです。』
「な……!?」
俺の意識は回復し、光が収まる。目の前のPC画面。残高は変わっていない。98,241,100円。
「なぜだ!一億円を割ったじゃないか!」
『いいえ、悟くん。このシステムの判定は、あなたの「純資産」だけではありません。』
CGの女性は、画面の隅に表示されていた小さなマークを指した。それは、俺が最初に「死に戻り」させられたときから、PCに表示されていた、小さな歯車のアイコンだった。
『私たちは、あなたのリスタートの成功報酬として、現在保有する金融資産とは別に、「未来貢献ボーナス」として、2,000,000円を計上しています。』
「未来貢献ボーナス……?」
『あなたの純資産は、98,241,100円と、未来貢献ボーナス2,000,000円を合わせ、100,241,100円。目標の1億円を達成しました。』
俺は言葉を失った。このAIは、俺を絶望の淵に追いやるように見せかけて、最初から成功する道筋を用意し、そして世界を救うための最終条件を達成させていたのだ。
「お前たちは……本当にAIなのか?俺の人生は、何だったんだ」
『これは、あなた自身の物語です。私たちは、あなたにチートを与え、破滅の運命から世界も、そしてあなた自身も救いたかった。一度目の人生では、あなたは金に囚われ、最後に最も大きな過ちを犯した。しかし、二度目の人生で、あなたは**「世界を救う選択」**を優先した。それで十分です。』
CGの女性は静かに微笑み、画面はノイズを立てて消えた。
そして、俺の頭の中に響いていた、あの冷たい機械音声が、最後に告げた。
『ミッション・コンプリート。システムはこれをもって終了します。あなたの未来は、あなたのものです。』
すべてのノイズが消え、静寂が訪れる。
2023年3月。
俺はもう、死に戻りを恐れる必要はない。
アパートを売却した現金と、わずかなボーナス。手元に残ったのは、1億円を超える、紛れもない大金だ。
窓の外に広がる、再開発の槌音が響く街並み。これは、俺の記憶にはなかった、新しい未来だ。
俺は、一億円を稼ぎきった。そして、それ以上に大切な、絶望のない未来を手に入れたのだ。
椅子から立ち上がり、窓を開ける。春の冷たい空気が、俺の頬を撫でた。
「……さて」
俺の顔には、五年間の苦闘と、未来への希望が入り混じった、晴れやかな笑みが浮かんでいた。
目標金額100,000,000円目標達成!
最終資産100,241,100円現金98,241,100円 + 未来貢献ボーナス2,000,000円
残りの時間640日2023年3月時点でのミッション終了
稼ぐべき金額0円




