12 天涯孤独
そうしてアリエスが湯に浸かっていると、入口が開いて、髪をまとめた母親が入ってくる。気付いたシャンディーがお母さんも入るのーと声を上げ、アリエスも声を漏らす。
「ドロナさん?」
「さっきシャンディーを抱きしめたときに、私も濡れてしまいましたから」
「ああ……」
「それにアリエスさんに聞きたいこともありましたからね」
「え……?」
身体を簡単に洗った母親が、アリエスの隣に入浴してくる。アリエスは少しだけどきどきしていた。さすがに転生したことはバレていないはずだが、いったい何を聞きたいのだろうか。
「アリエスさんて、貴族の家柄のかたなんですか?」
「へ?」
開口一番、母親が聞いてきたのがそれだった。彼女は世間話をするように。
「いえね、一般のかたが我が家を見た場合、まず驚かれるのですよ。とても大きくて広いお屋敷ですねとか、素晴らしい芸術品がたくさんありますねとか。けれどアリエスさんは芸術品のことを褒めてはいましたけれど、驚いた様子が全くありませんでしたもので」
「あ……」
だから、もしかしたら貴族の家柄の者なのではないか、と……ドロナはそう推測したらしい。
事実、アリエスはこの屋敷や芸術品のコレクションに対しては驚いてはいなかった。転生前の自分の家も同じように広かったし、芸術品のコレクションもあって見慣れていたからだ。
驚いたことがあるとすれば、助けたシャンディーが実は貴族の家柄だったことや、シャンディーに対するドロナの態度だろう。自分の娘を甘やかすのではなく、厳しくも優しく接する態度に目を丸くした、あるいは見開いたのだ。
「だから、貴族のかたなのかしらと思いまして。違ったかしら?」
「いえ、その……」
どう答えたら良いものかと、アリエスはとっさに頭を回転させる。本当のことを言ったところで、にわかには信じてもらえないだろう。とりあえずアリエスは誤魔化せる部分は誤魔化すことにした。
「実はわたしはいま天涯孤独の身でして……」
「……まあ……」
ドロナは自分の口に手を当てる。しまったと思っている顔つきだった。
「家族はずっと前に亡くなってしまったのですけど、家族がいたときは確かに貴族と同じような生活を送っていました。ですが家族が亡くなった際に借金の形として財産を全て没収されてしまって……」
「…………」
「だから、このような広いお屋敷も芸術品の数々も、見慣れてしまっていて、それで他のかたと同じような反応をしなかったのかと……」
「……そう……だったのですか……」
二人は口を閉ざして沈黙してしまう。少し離れたところではシャンディーが気持ち良さそうにぷかぷかと湯に浮いていた。




