13 屋敷の主
「ごめんなさいね、変なこと聞いたりして……」
ややあって母親が口を開いた。アリエスの身の上を不用意に尋ねてしまったことに、気まずさや後悔の思いを抱いているようだった。
「いえ……もう折り合いをつけたことですから……」
だが、気まずさを感じているのはアリエスも同じだった。自分は一度死んで、転生した……たとえ信じられないようなことだとしても、真実を伝えずに嘘をついていることに少なからず罪悪感を抱いているのだ。
「私、先に出ていますね。着替えの下着は新品ですのでご心配なく。私はお料理の準備の手伝いと、今日は休日ですから夫にも声をかけておきます」
「メイドや執事に任せているのではないのですか?」
「忙しいときはそうしていますけれど、手が空いているときはなるべく自分でもやるようにしているのですよ。メイド達との交流にもなりますしね。まあ、彼らは緊張してしまうようですが」
ドロナが微笑み、アリエスもまたつられて苦笑する。一家の奥方であり、自分達の雇い主が一緒に家事をするとなれば、確かにメイドや執事達は緊張もしてしまうだろう。
「シャンディー、アリエスさんに迷惑をかけてはいけませんよ!」
「はーい、分かってまーす」
ぷかぷかと浮かびながらシャンディーが手を上げる。母親はやれやれとしながら、
「アリエスさん、こんな娘ですがよろしくお願いします」
「さすがにいまはもう溺れないとは思いますけど」
「それだけでなく……いえ、なんでもありません」
何かを言いかけたドロナだったが、言うのをやめて風呂から上がると脱衣所まで向かっていった。
何を言おうとしたのか気になったアリエスだったが、
「お姉さん見て見てー、シンクロナイズドスイミングー」
手を上げてそれっぽいポーズを取るシャンディー。
「いまはアーティスティックスイミングって呼ばれているらしいわよ」
「そうなのー?」
ドロナの言葉について、アリエスはシャンディーがお風呂場で怪我をしないように見ていてほしい……そのような意味だと解釈していた。まだ初等部の高学年か、あるいは中等部くらいに見えるシャンディーだから、元気があり余りすぎたり無茶をして怪我をする危険性があるかもしれないからと。
ドロナの言葉の真意や、言いかけたことが何だったのか、それを知るのはアリエス達が風呂から出てダイニングに向かったときだった。
ダイニングはとても広かった。今朝アリエスが目を覚ましたアパートの一室など簡単に収まってしまうくらいの広さで、下手をすればアパートの全室を合わせたよりも広いかもしれなかった。
天井には豪華で大きな魔法具のシャンデリアが下がり、壁には廊下などと同じく絵画や彫刻のレプリカが飾ってある。また長すぎるテーブルのそばにはメイドや執事が控えていた。
その長テーブルの先端の席に、一人の男が座っていた。おそらくはこの屋敷の主だと思われたが……アリエスが戸惑ってしまったのは、その男はパジャマ姿で、髪もぼさぼさだったからだ。




