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その二十四 夏祭り

こちらのエピソードは、私の手違い(ポカ)により、掲載もれしていました。

申し訳ございません。本日はその26の掲載に替えて、その24を先に掲載させていただきました。


明日は「その二十五 スミソニアン博物館」の再掲載と、「その二十六 見送り・告白3」を掲載させていただきます。

 そうだ、来週はこの地方でも有名な夏祭りが開催される。誘うには丁度良い理由じゃないか。

 たしか、祭りの由来となる郷土の伝説があったはず。それを詳しく調べて捺稀さんとの話題にしよう。彼女だったら、とうに知ってる伝説かも知れないけど、でも共通の話題にできれば祭りの楽しみだけじゃなく楽しい時間が過ごせるよね。


 メッセージを送ると返事はすぐに返ってきた。


〔ごめん。その日はどうしても外せない用事があって会えないの。お祭り誘ってくれたのは嬉しかったよ。真仁くんは上部くんとか友達を誘って楽しんで〕


 だめだ、断られた。返事のメッセージには一所懸命謝っている可愛いキャラが付いていて、本当に用事がある事が伝わり、それだけは安心できた。と言って失望感が失せる訳じゃない。残念だ、用事があるんじゃしょうがないか。

 折角思いついたんだから、祭りの伝説は調べておこう。



 お祭りの当日、友達を誘う気になれなくてひとりで出掛けた。本当は捺稀さんとのデートのつもりだったから。

 ちょっとした事でかかわるようになって、変わった子なので興味を持った、興味から付き合って、いろいろあって、好きになった。告白して、振られて、取り消して、彼女のお情けで今も親友として付き合っている。本当のところ彼女が何を考えているかよく判らない。


 彼女は賢い人だ。好きになるという気持ちが判らないと言っていたけど、本当は判っているんじゃないか。僕は好きになってもらう価値がないから友人のままなんじゃないかと不安になる。


 彼女の見ている世界を共に見たい。それしか振り向いてもらえることは無いんじゃないかと焦りに捕らわれる。特に夏休みに入り会う機会が減って尚更不安が高まっている。夏休みは出会いの季節でもある。捺稀さんが僕の知らない誰かと出会って、好きになってしまったらと、不安でたまらない。


 彼女と並ぶ…… 彼我の距離はいったいどれだけあるのだろう。どうすればいいだろう。知識も才能も環境も全く違う、僕は平凡な人間だ。何といってもあの自宅の書庫には圧倒される。子供の頃からあれに触れていたのなら、スタートからして僕は何週遅れているんだろう。


 中学時代は何も考えず、学校と自宅を往復していた。特に打ち込む趣味もなく、みんなと話を合わせるためにゲームをやって、漫画を読んで、テレビアニメを見ていた。

 いや、僕だって彼女に勉強の仕方を教わって、成績が伸びた。可能性がない訳じゃない(はず)まだ高校一年なんだ。


 好きな子と一緒にいたいから進路を決めると云うのもありだよね。


 そんな事を考えていたら祭りの会場に着いてしまった。

 会場には氏子うじこの各村から練り歩いてきた神輿が本殿入り待ちの壮麗な列を作っていた。それぞれの神輿は提灯や電球でライトアップされ飾りが浮き上がってとても綺麗だ。この神輿の入り待ち列も祭りの見どころだ。近隣の県からも見物客が集まる結構有名な祭りなんだ。


 神輿の列の両側には5メータほど離れて屋台が並んでいる。

 見物客は神輿を眺めながらも屋台の出し物に見入っている。うん、カップルが多い。本当なら僕も捺稀さんを誘ってくる筈だったのにと気分が盛り下がりながら本殿を目指す。


 この祭りの謂れは簡単には知っていたけど、調べてみたらとても悲しい伝説があった。

 江戸時代の昔、この辺りは度々の水害に悩まされていた。治水のための堤はどんなに頑丈につくっても直ぐに壊れ川の氾濫は治まらなかった。

 そこで、近隣の庄屋達が話しあい人柱を立てる事になった。人柱とは生け贄を捧げる事で水神の怒りを和らげ、もって堤の安全を願うものである。

 問題は誰を捧げるか、もちろん簡単には決められない。人柱を立てた庄屋は近隣で大きな力を持てる事も判っていたが、誰かに犠牲になれと命令できるものでもない。信心の無い生け贄は却って水神の怒りを買う恐れがあった。

 そろそろ工事を始めないとその年の増水に間に合わない時期まで来てしまっていた。


 その時、ある娘が人柱になる事をみずから買って出た。その娘は歳は十五で身寄りがなく、生後間もない頃からとある庄屋の世話になっていた。長年の恩に報いるため身を捧げる事を名乗り出たのだ。

 その娘は隠していたが、小さい頃から共に育った庄屋の息子に心を寄せていた。しかし、身分が違い添い遂げる事は望めない。自分が身を捧げる事で庄屋には恩を息子には自分が生きた証として心の中で生き続ける事を望んだのだった。


 そして堤はそれ以後壊れる事なく、近隣の村を水害から守り続けた。この祭りはその娘を奉り讃える事が始まりだとの事だ。

 娘の望みは叶い、恋い慕う相手の心、だけでなく数百年の時を越えて語り継がれ、僕の心も震わせた。


 この話を郷土史の史料のなかで知った時、僕はこの娘の静かな激情と、身を捨て尽くす心に胸を打たれた。それと同時に捺稀さんだったらどう思うのだろうと疑問が浮かんだのだ。もちろん彼女に伝説の娘の心を望む訳じゃない。誰かに身を挺して恋する気持ちについて聞きたかった。


 この祭りの中でなら聞けると思っていたのに、機会を逃してしまった。こんな機会でなければとても聞けない。僕にはそんなコミュ力はとてもない。


 祭りの人ごみに揉まれて本殿に向けて歩いていたら花火の轟音が響いてきた。全ての神輿が揃い、本殿入りが始まったのだ。それに合わせ花火が上がる。

 晴れた夏の夜空に大輪の華が次々に咲く。音が響き、光に風景が浮き上がる。瞬間の光で切り取られるように景色が、人々の姿が浮き上がり、消え去る。僕は立ち止まり大空の火輪を眺めていた。轟音は腹の底に響き心も身体も震わせる。落ち込んでいた心が徐々に浮き上がってくる。


 光に浮き上がる人々のシルエットの中に見つけてしまった。

 捺稀さんの姿に間違いない。いつも通りにポニテに結った髪に黒縁眼鏡。艶やかな浴衣を装い柔やかに笑っている。離れていても僕が見間違う事はない。

 用事があるって言ってたのに、きっと用事は終わったんだ。そう思い駆け出そうとした僕の足が止まる。


 捺稀さんの隣に見た事のない男性が立っていた。腕を捺稀さんの腰に回し親しげに話しかけている。彼女の横顔にも親しさが浮かんでおり、柔やかに話をしているのが判る。


 隣に立つ男性は捺稀さんより頭二つ分ぐらい背が高い。一八〇センチ以上ありそうで、捺稀さんがまるで子供のように見える。凝視している内に光が消える。すぐに、仕掛け花火の光を背景にシルエットが浮かび上がる。腰の腕が肩に回り耳元に顔を寄せるのが、花火の光に照らされ目に入った。


 心臓の鼓動が跳ね上がり、背中を嫌な汗が流れ落ちる。的中した不安に鳩尾が締め付けられ嘔吐えづきそうになった。

 それを必死に抑え顔を上げると捺稀さんの姿が消えていた。

 あわてて、さっきまで捺稀さんが立っていた場所に駆け寄ろうとするが押し流される。


 神輿が大鳥居を越えて次々と境内に消えていく、それを追いかけるように人が流れていく。

 流れに逆らい人々に揉まれ、ぶつかり、文句を言われ必死に探す。

 全く見つけられない。かなり離れた場所に姿を見かける。


「あ、いた!」


 思わず叫ぶ。

 身長差のあるふたり連れは目立つ。見間違いな訳がない。後ろ姿を追いかけた。

 連続した轟音と、花火のフラッシュの連射。最後の花火群が打ち上げられ周りは真昼のように明るくなる。それを機に辺りに静寂と暗闇が戻る。


 人々のざわめきの音は花火の轟音からすれば囁きのようなものだ。


 人の流れが変わる。


 帰宅しようとする人々に押し流され、捺稀さんを追いかけられない。

 見失った姿を必死に探してやっと見つけた。黒い乗用車セダンに乗り込もうとしていた。必死に走るが間に合わない、僕が駆け寄る前に車は発車してしまった。


 呆然と立ち尽くし車の後ろを僕は見えなくなるまで見つめる事しかできなかった。


本エピソードは主人公の心理状態を追った重要なエピソードでした。

本エピソードの読後に「その二十五 スミソニアン博物館」を既に読まれた方も再度読んでいただけましたら幸せです。

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