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女物




あいつ、マジで最低な奴だった。


あれ?私、寝てた?


気がつくと、ベッドに寝ていた。今までのは…………全部夢?


カーテンの隙間から、強い光が射していた。もう朝なんだ。今日はもう一度交番に行って…………


そういえば、隼人は?あちこち探しても、隼人の姿がどこにも無かった。シャワーを借りよう。あと、何か適当な着替え。


おもむろにクローゼットの中を見ると…………そこには…………


思わず、慌ててすぐにクローゼットを閉めた。


見てはいけないものを見てしまった気がする…………!!


あれ…………女物だよね?


え?ここってもしかして、隼人の女の部屋?

「待って?女物だからって女の物とも限らないよ?」

「えぇ!?じゃ、隼人の物!?」


いやいや!あり得ない!確かに、隼人なら似合うけど……女に見えなくもないけど……


「まぁ、あの女顔じゃあり得なくはないかもね。」

「うわぁ!幽子!」


さっきから誰かに話かけられてると思ったら、幽子がソファーでゴロゴロしていた。


隼人の部屋には、幽子がまだいた。


「ちょっと!驚かさないでよ!」

いつの間にか、幽子に怖いという気持ちを抱く事はなくなっていた。むしろそこにいるのが自然。普通になった。今では隼人とルームシェアしてる友達みたいな感覚になった。


「都内在住のLさん20、最近彼氏のクローゼットの中に見知らぬ女物の服を発見。浮気なのか、趣味なのか、果たしてどちらなのか、正直不安です。」

「やめて!まとめないで!」

幽子は置いてあった雑誌を読むふりをして、私の現状を記事風に読み上げた。


「そんな事より、まだ成仏してないの?」

「驚いたのはこっちだよ~!あの彼氏にこんな趣味がねぇ……。」

何でそうなるの?


「違うから!普通に考えて、妹とか…………あ!妹!!そっか、真理ちゃんのか!」

隼人には12も年の離れた妹がいる。忍者の猫、ニャニャンのキーホルダーをくれた隼人の妹。本当の妹より、本物の妹みたいだった。


いつだったか、真理ちゃんとは将来本当のお姉さんになると約束した。その約束は果たせるのか、正直今は自信がない。


もう一度クローゼットを開けて、少し考えた。思いきって、サイズを確認してみた。


これ…………私より大きいサイズ……。


あ…………アウトぉ~!!


あ、あれ?しかも真理ちゃん、まだ8歳とかじゃない?真理ちゃんの服にしては…………かなり…………大きいような…………


じゃ…………これ、誰の?


いやいや、そんな事考えちゃいけない。これは真理ちゃんの。真理ちゃんのやつ!!


何だか複雑な気もするけど…………


でも…………借りよう。


着替えはこれしかないし、隼人が買って用意してくれたのかも。そう都合よく考えて、その服を着る事にした。だって、ちょうど自分好みの服が、ちょうど良く隼人のクローゼットにあったら…………着るよね?


着てみたら、ピッタリだった。え?太った?ヤバい……。こんなサイズがピッタリだと、かなり痩せなきゃ。


さ、早く支度してでかけよう!


「今日って何曜日かな?」

「さぁ?」


隼人の部屋には、物が1つしかない。今流行りのミニマリストってやつかな?でもそれは、意外にも不便に感じた事はない。だけど、カレンダーもなければテレビもない。それが余計に生活感を感じさせない。今は携帯もタブレットもない私には、不便で仕方がない。やっぱ不便に感じてた。


昨日は日曜だったから、今日は月曜かな?まだ火曜じゃないから管理人さんはいないか……。


財布も携帯も無いのは痛い。とりあえず、もう一度交番へ行って、大学にも鞄を探しに行こう。あと、瑠璃にしばらくの着替えを借りて…………瑠璃?


隼人、きっと瑠璃の服借りてきたのかも!!そうだ!瑠璃の所に行こう!


あちこち探したら、なんと、服のポケットの中に交通ICカードが入っていた。やった!これで電車に乗れる!


私は電車に乗って、練馬の実家まで帰った。道行く人が少し不思議な顔をしていた。そんなに太ったかな?


駅からしばらく歩くと、いつものように、実家の赤茶色の屋根が見えて来た。私は迷わずインターホンを押した。お母さんいないのかな?実家は留守で入れなかった。非常用の植木鉢の下の鍵も、そこには置いて無かった。


なーんだ。


仕方なく肩を落として駅へ向かって歩いていたら、ばったり瑠璃に会った。

「あ!瑠璃~!久しぶり~!」

「え?は?」


え?久しぶりに会ったからってそんなに驚く?瑠璃は、私の事をあり得ないものを見るような目で見ていた。


「どうしたの?私、何かおかしい?」

今日の格好、そんなにあり得ないかな?ワンピースにカーディガン、特にいつもと変わらない普通のコーデだと思うんだけど?


「る…………」

「何考えてるんですか?」

「え?」


瑠璃に話をしようとした瞬間、瑠璃に怒鳴られた。


「何考えてるって……どうしたの?久しぶり会ったからって、その態度はないんじゃない?」

「…………そうですね。すみません。」


どうしたの?瑠璃?今日はやけに素直…………それより、私に敬語?いつもと瑠璃の様子がおかしい。


瑠璃はそう言って私の前から立ち去ろうとした。

「ちょっと待って!」

「まだ何か?」

「いや、あの…………」


とてもじゃないけど、この雰囲気で、服を貸して欲しいとは言えなかった。

「あれ?瑠璃、制服は?どうしてスーツなの?まさか高校辞めて働いてるとか!?」

「はぁ?」

瑠璃は長い髪をかきあげて耳にかけて言った。


「あの、ハッキリ言わせてもらいますけど、梨理がいなければ、私達はただの他人ですから。」

「梨理がいなければ…………?」


それ、どうゆう意味?


「何言ってるの?私ならここに……瑠璃、悪い冗談は止めてよ。」

「…………!?」


驚愕という言葉が、今の瑠璃には正にそれだ。瑠璃は思わず後退りしていた。


「そっちこそ!悪い冗談は止めてよ!気持ち悪い!!」

「気持ち悪い…………?」


気持ち…………悪い?


そう言われた瞬間、ふと花屋のガラス張りの自動ドアを見た。


そこに映っていたのは、ピンクベージュのワンピースに、白いカーディガン。


明らかに女物の服を着た…………


隼人だった。


…………どうゆう事?


気持ち…………悪い。


急に、世界がぐにゃぐにゃになって、意識を失った。


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