礼於
9
隼人の部屋は何も無くて、殺風景だけど、あいつの部屋は真逆だった。
ぱっと見は全部ガラクタ。部屋の中には訳のわからない物で溢れていた。民族のお面や埴輪、ぬいぐるみにギター、スノーボード、ボーリングのピン、どれも古くてゴミの山に見えた。
「あはははは。警戒し過ぎ。」
緊張しながら恐る恐る中に入る私に、あいつは笑っていた。
ここで警戒しない女がいる?
初めて、1人暮らしの男の人の部屋に入った。
中に入ってドアを閉めた瞬間、突然ドアの前でバーン!と大きな音を立てて、勢い良く顔の横に手を置かれた。
怖いっっっ!!
ち、近い…………!!唇が耳につくんじゃないかってくらい近くで耳打ちされた。
「そうゆうつもりで入ったんだよね?」
「違っ!!」
…………心臓が、止まるかと思った。
「ぶー!!あはははははは!冗談!!ビビった?あはははははは!!」
男は私を見て1人で爆笑していた。
もう…………帰りたい。
驚き過ぎて、腰の力が抜けてその場に座り込んでしまった。
そのうち、心臓がバクバク音を立てて喚き出した。
「…………。」
「え…………何で泣いてるの?」
「…………へ?」
気がつくと、涙が出ていた。頬に、一筋の涙が流れ落ちていた。
「あ、ごめんごめん!驚かせ過ぎちゃった?悪い。強がってる女の子見るとつい、いじめたくなるんだよね~」
そう言って男は、座り込んでいた私に手を差し出した。差し出した手を取りたくはなかったし、手を取った所で立つ事はできなかった。
「腰…………抜けた。」
「え?マジ?」
すると、男は私を抱き抱えて、ベッドに座らせた。
ちょっとちょっとちょっと!!
そのベッドは、座り心地が何だか変だった。ふにゃふにゃしてる。何だか落ち着かない。
「う…………」
ひぃっ!!声!?声がした!!
「く、苦しい……。」
下に寝てる人がいるんだ!!私は慌ててベッドからすべり降りた。
私が降りると、少し小太りのオジサンが布団から出て来た。
「ヨシタカ、俺を殺す気か?」
「ぶー!!あはははははは!悪い!お前の事忘れてた!」
「ごめんなさい。あの、お父さんが寝てるとは知らなくて…………」
この男、ヨシタカって言うんだ……。
私の言葉を聞いて、男はまた爆笑した。
「あはははははは!お父さんだって!こいつ、老けて見えるけど俺の後輩。」
このお父さんが……後輩!?私は思わずじろじろ見てしまった。丸々としたお腹と、目の周りのクマがなんだか…………パンダみたい。
「あ、こいつの腹触らない方がいいよ。」
「え?」
「触ると、癒される~とか言ってそのまま押し倒されるから。」
小太りのオジサンは男に不機嫌そうに言った。
「え?この子食ったらダメなの?」
「ヤメロ。そうゆう女じゃない。」
そうゆう女ってどうゆう女?
「ただのお客さん。パンダ、起きろ。」
男がそう言うと、パンダと呼ばれたオジサンは頭をかきながら、のそのそと立ち上がった。そして、そのままソファーの方へ移動した。
すると、男は黙って私を抱えようとした。
「いい!もう、自分で歩ける!」
「あ、そ。じゃ、あっち。」
私がどこに座るか迷って立ったままでいると、パンダさんがクッションを置いてくれた。
「パンダ、そこは普通ソファーに座らせるだろ?あ、アルコール入ってない飲み物、ノンアルビールしかなかった。」
「どうぞ、お構い無く。」
そう言ったのに、目の前にビールの缶が乱雑に置かれた。
私は男がビールを開けて飲む姿をずっと見ていた。隼人とは違う、骨ばった手。隼人とは違う、笑い声、仕草やクセ。
全然違う。
「ねぇ、名前、聞いてない。」
年も名前も知らない、素性もわからない人達と、何故かこうしてテーブルを囲んでいた。
「吉高 礼於…………だけど?」
ヨシタカが名前じゃないんだ。
「レオ……。」
確かに、このモシャモシャの髪がライオンのたてがみみたい。そう思うと少し笑えた。
「今、頭がライオンみたいって思っただろ?」
「別に?高校の時、大西ってやつが、ライオンって呼ばれてたな~って思い出しただけ。」
「心配ないさ~!ってやつ?」
そうそう、そうやってよくいじられてた。
「あんたの名前は?友達がリリーって呼んでたよね?」
「リリーじゃない。梨理。水野梨理。」
「リリ……」
礼於は私の名前を呟くと、突然立ち上がって大きな声を出した。
「リー!リー!リー!バック~!」
すると、パンダさんも叫んだ。
「アウトぉ~!!スリーアウト!チェンジ!!」
その後二人で何故か缶ビールで乾杯していた。
何?全然わからない!私の友達とはノリが全然違う!!
あの後、部屋に他の友達もやって来て、大騒ぎの飲み会になった。
結局その夜、どうして鍵を持ち逃げしたのか…………理由を聞かせてはもらえなかった。




