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十年


10



気がつくと、また朝だった。気がつくとまた、隼人の部屋のベッドに寝ていた。


二日酔いみたいに、頭が痛い。


服…………隼人の服に変わってる。着替えた記憶がない。隼人が着替えさせてくれたのかな?


え?嘘!?隼人に着替えさせてもらった!?全然記憶がない!思い出せ!!既成事実を思い出せ!!


事実と言えば…………花屋のガラスに映ったあれ、あれは…………何だったんだろう?


「梨理?」

そこへ隼人が来た。

「隼人、あのね、昨日瑠璃に会ったんだけど……」

「うん……。」


瑠璃の態度に、やっぱり涙が出た。やっぱり、隼人は優しく抱き締めてくれる。


でも、何かが違う。


「隼人、後ろ向いて。」

私は隼人の背中に抱きついた。

「…………何?」


やっぱり…………何かが違う。


私は隼人から離れて、1つしかない椅子に座った。

「昨日は交番にも行けなかったし、大学にも行けてない。明日は管理人さんが来るから部屋を開けてもらって…………」

「梨理、やっぱりちゃんと話すよ。」


隼人は心を決めたように、私の前に立った。

「何を?瑠璃と?心配しなくても大丈夫だよ。瑠璃が変なのはいつもの事だし。」

「そうじゃないよ。」

「もう全部思い出したし、明日にはここを出てくね……。」


私は隼人の前から逃げ出して、ソファーの幽子の隣に座った。本当は、隼人の話が怖くてたまらなかった。私はひじ掛けに肘をついてベッドの方を見ていた。正直、怖くて隼人の方を向けなかった。


真実が…………怖い。


隼人はため息をついて、空いた椅子に座った。

「…………梨理は何も思い出して無いよ。」

「え…………?」


ため息というよりは、深呼吸なのかもしれない。

「僕達、今はもう30歳なんだ。大学はとっくに卒業してる。」


え…………えぇええええ~!?


いつの間にか10年も歳くってる!!


「ちょっと待って?急にアラサーになった地獄に、精神的ダメージが…………」

隼人から、かいしんのいちげきをくらった気分。


ちょっと…………いやかなり、気持ちが追い付いて行かない。


「いやいや、たかが10年くらい。急におばあちゃんになった訳じゃないんだから。」

隣に座っていた幽子が、他人事のようにヘラヘラして言った。


「女の10年は貴重なの!!」

「そんな事言ったら、隼人に10年返せって言った方がいいんじゃないの?」

「隼人との10年は青春なの!宝物なの!」


そりゃ浦島太郎な気分にもなる訳だ!


私の無くした空白の10年間は…………大した出来事もなく、普通に大学卒業して、普通に就職して、30を目前に婚約をしていた。


婚約ぅ?!いやいや、全然大した事なくないよね?婚約って…………結婚の約束だよね?


誰と?


「吉高 礼於。」


隼人の口から、初めてあいつの名前が出た。嘘でしょ!?あいつと?


じゃあ、婚約してるなら…………何故探しに来ない?あいつはどこで何をしてるの?


隼人の話を疑ってるわけじゃない。だけど、私の周りには、少しもあいつの存在を感じられる物が無い。婚約指輪は?


少しづつ、記憶を取り戻していくと、何故か不安になる。恐ろしくなる。私の向かっている未来は…………全然明るい予感がしない。


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