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金色の瞳の剣姫は今日も世界を奔走する  作者: 世良きょう
第三章 水と大地の国 ベアストマン帝国
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第2話  繋がる縁

※今回は長文になります。どうかご容赦ください。

見上げる空に羽ばたく其れは徐々に姿が鮮明に映り出し、私達は見覚えのある其の姿に驚愕するのと同時に血の気が引いて行く。

その生き物の瞳が私達を捉え、ゆっくりと速度を落とし、すっかり人がはけた私達の前に着地する。

一頭は灰色に黒味がかり、もう一頭は白い頭に茶色の体。それは猛禽類の上半身に馬の下半身を持ち合わせた魔獣、首には国章が彫られた金属の飾りが輝いていた。

「ア・・・アルスヴィズ?」

「マジか・・・」

私達の声に応えるかのように「ピィーイ」と声が返って来る。

渡航してから暫く留守をしたとはいえ、人を一人乗せられる程に成長した二頭のヒッポグリフに戸惑いながらも、その姿を隅々まで眺めると二匹は嬉しそうに羽根を羽ばたかせる。

「すっ・・すみませーん」

その声に空を見上げると、ヒッポグリフに跨った男性の姿が。男性は手綱を強く引き、徐々に高度を落とし甲板へと着地する。

これは・・・ギルドの雇った調教師(テイマー)さんかな?

「事情を話して貰おうか・・・」

騒ぎを起こしたことに苛立ってかダリルは不機嫌そうに男性を睨みつけた。

「あのー、私達がこの子達の(オーナー)なんですけど調教師の方ですか?」

「はい・・。ではクロックウェル様とヴィンセント様でしょうか?!申し訳ございません!飛行訓練の最中に私の不注意で・・・」

(しっか)りしてくれよ・・・」

調教師さんは申し訳なさそうに何度も頭を下げる。

「このまま乗船させておくわけにもいきませんし、私達でこの子達に宥めますから、ランドルさんのお屋敷まで二頭をお願いできますか?」

「はっ・・・畏まりました!」

その後、寂しそうにする二頭を調教師さんに任せ見送るものの、周囲から容赦ない言葉が浴びせかけられている事に気が付いた。

辺りを見回すとフェリクスさんの姿は無い。どうやら早々に退避したもよう。

そして、ケレブリエルさんは積み荷の箱に背を持たれ、本を片手に優雅に読書中。私達の視線に気が付き目を逸らすと、周囲に浮遊する妖精に何かを話しかけている。

暫くすると私達の前にパタパタと(はね)を羽ばたかせ妖精が飛んできた。

その妖精は私達に愛らしい笑顔を見せ、のんびりとした口調で喋り出す。

「エルフさんから言伝だよ~。「お馬鹿さん!ペットの粗相は飼い主の責任よ」だってぇ」

「は・・・・」

ケレブリエルさんの白状者ぉ!

「まあ・・・甘えんなって事だろ?腹括って大人しくお詫び行脚するぞ」

ダリルは頭をかきながら溜息をついた。



***********************************



船が着港するのと同時に懐かしい香りが鼻腔(びくう)を掠める。

「あ~、この香りだよ~」

私は甲板の隅から港を眺め、帰国した事を実感した。帰って来たぞカーライル!

目の前には見慣れた風景、普段と異なるところと言えば船を出迎える様に見える複数の妖精達。

「お前、帰って来た途端にソレかよ・・・」

「ソレって何よ失礼ね!故郷の空気よ!空気!」

「あー、はいはい食う気な」

ダリルはニヤニヤ笑いを浮かべた。

「二人とも、静かにした方が良さそうよ」

そう言うとケレブリエルさんは人払いがされ静まり返った甲板へと視線を移す。

つられて視線を向けると、船から広めの舷梯(げんてい)が降ろされ、数十人の兵士が王子殿下を囲み下船していく様子がみえる。

殿下の姿は祝福の儀(ブレッシング)の時にもみたが、その銀の瞳は不思議な光を(たたえ)えている。

「確か名前は・・・」

「アレクシス・ローレンス・カーライル殿下だよ」

「フェ・・・フェリクスさん!」

何時の間に近付いたのか、フェリクスさんが背後に立っていた。

「驚かせてごめんね。愛らしい蝶達にそっとお近づきになる為のオレの特技なんだ」

フェリクスさんはパチンと私とケレブリエルさんに向かってウィンクをする。

気配なく近付くなんてそれ、普通に怖いよフェリクスさん。

「へっ・・・へぇ」

「そう、なら・・・其処の女性はその特技の成果かしら?」

ケレブリエルさんは開いていた本を閉じると、フェリクスさんの背後を指さす。

「んっ?」

驚くフェリクスさんにつられて私もケレブリエルさんが指さす方向を見ると、黄金(こがね)色の髪の狐の半獣人の女性騎士の姿があった。

「主に申し付けられて来てみれば・・・。状況を説明して頂けますか?シーラン殿?」

「げ・・ヴェアトリクスちゃん!どうして・・・」

さっきまでの軽薄な態度はなりを潜め、フェリクスさんは顔を真っ青にし硬直している。

ヴェアトリクス・・・?知り合いに名前と容姿が似ている気がするけれど彼女は私達と一つ違い、他人の空似かな?

「どうして此処にいるのか?よくお解りでしょう?」

「分かったよ・・・」

観念したのかフェリクスさんはやれやれと言った様子で肩をすくめた。

それを見てヴェアトリクスさんは頷くと、フェリクスさんの腕を確りと掴み、深々と頭を下げる。

「この度は突然、お騒がせしてしまい申し訳ございません」

「いえいえ、とんでもないです。遠慮なく連れて行ってください」

わざわざ上の人から遣いが寄越されるぐらいだから、きっと相応の事情があるんでしょ。

「アメリアちゃん酷っ!」

「あー、煩いしさっさと連れて行ってくれ」

フェリクスさんの抗議の声に心底うんざりと言ったところだろう。露骨に嫌な表情を浮かべていた。

「ふふ、では遠慮なく引き取らせて頂くとしましょう。心配しなくても大丈夫ですよ、可能であれば今日中にお返ししますから。それではまた・・・」

ヴェロニカさんは私に向かって笑顔を向け軽く会釈をすると、フェリクスさんを引きずる様に連れて行く。本当にフェリクスさんは今日中に戻ってこられるのだろうか・・・



*************************************



王子を守る為の陣形をとった列は港から離れ、私達にも(ようや)く下船の時が訪れた。

舷梯を渡り下船した後、報酬を楽しみに浮かれる冒険者達を背に港を去ろうとすると、ルミア先生が待っていた。

「あれ?先生、何でここに?」

「お二人が無事に戻ったようで何よりです。実は故郷から連絡が入りまして・・・」

「お久しぶりです、叔母様」

ケレブリエルさんはルミア先生の顔を見ると嬉しそうに微笑む。

「・・・え?」

知り合い?叔母?

「っと言う事はケレブリエルさんの会いたかった人って・・・」

「ええ、そうよ。でも、アメリアさんが叔母の生徒だと思わなかったわ」

「まあ、身内の話などは授業とは無関係ですからね」

こうやって見ると確かに似てるかも。二人とも銀髪に緑の瞳だしね。

二人は私達をそっちのけで楽しそうに話し込んでいる為、邪魔にならない様に立ち去る事にした。

そこで、其れに気が付いたケレブリエルさんに呼び止められた。

「ちょっと待って!貴方達の泊まっている宿を教えてくれないかしら?船で話そびれてしまった事もあるし」

そう言えば乗船したきりランドルさんに捕まって、(ろく)に話せずじまいだったな。

「それでしたら夕方頃、ここの冒険者ギルドで待っていてください。そこのギルドマスターさんのお屋敷でお世話になっているんです」

「分かったわ、夕方にギルドで会いましょう」

私達はそう約束すると、ケレブリエルさんと別れ街へ歩き出す。

「よし!先ずは腹ごしらえよ!」

「やっぱ、お前は色気より食い気だな・・・」

呆れるダリルを背に私の足は浮足立つのだった。



************************************



私達が約束通りにギルドに行くと、報酬の支払いが終わり、何時もの様相を見せていた。

ただ、一角を除いて。

ギルドに併設されている酒場のカウンターでガクリと肩を落とす見覚えのある影が・・・

「おい・・・アレ・・」

「フェ・・・フェリクスさん?」

「やあ・・アメリアちゃん」

心なしか頬がこけている様に見える。

其処にケレブリエルさんが飲み物を片手に此方に近づいてきた。

「まさか、こんな状態で再会するとは思わなかったわ。今回の件と国内での職務放棄をした末に・・・後は察してあげて」

ケレブリエルさんは目を逸らす。

「あ・・・じゃあ」

その口ぶりに何となく事情を察する。もしかしてでは無く・・・?

「何だ?解雇でされたのか?」

ダリル(こいつ)は本当に無神経ね・・・

その言葉にフェリクスさんは「フツ・・・」と笑うと、一気に目の前に置かれたグラスを飲み干す。

「悔しい!でもお兄さん、挫けない!オレも冒険者になるからな!」

「では、良ければ今度、パーティを組んでクエストを受けましょうか?」

「ありがとう!アメリアちゃん・・・!!」

「おい・・・なんでコイツと・・・」

どんなに私達に冷たくされてもめげないと言いたいが若干、無理している様に見えなくもない。

「そりゃあ、良い事を聞いたな」

私達の声にギルドカウンターからランドルさんが声を掛けてきた。

「ランドルさん、お疲れ様です」

「うむ・・。君達には帰国したばかりでアレだが、とっておきのクエストが有るから受けるかい?」

ランドルさんはカウンターの下から依頼が書かれているらしい羊皮紙を取り出す。

「うーん・・・」

「聖ウァル教会からの依頼でね、君達のランクでは不安だが何とかなるかもしれない。白魔術師を二人ほど護衛し、ベアストマン帝国の各教会へと送り届ける依頼がある。君達なら興味があると思ってね」

ランドルさんは私の事情を知っている為、この依頼を紹介してくれたのだろう。

良い話であるけど私の一存で決める訳にはいかない。私はちらりと二人を一瞥(いちべつ)する。

「でっ、護衛対象はどんな奴なんだ?」

「一人は白魔術師のソフィア・マリーノ。もう一人はシモンズ男爵家三男、レオニダ・シモンズ。此方も白魔術師だ。返事は急がなくて良い。良ければ検討してくれるかな」

私は聞き覚えがある護衛対象の名前に目を丸くする。これは神の悪戯か、船での出会いは意外な形で繋がりを生み出す事になりそうだ。

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