第3話 結託
「まぁ、これはあくまで提案だ。受付期限まで二日はあるから検討してくれ」
ランドルさんは隣で書類の整理をする受付のクリスティアナさんに何やら耳打ちをする。
「本来なら評価の対象外とさせて頂く案件ですが宜しいのですか?マスター?」
クリスティアナさんは長い兎の耳をピクリと片方だけ持ち上げ、視線をランドルさんの反応を窺うように滑らせる。
「ああ、例え依頼じゃ無いにしてもだ。国の危機を救い、女王陛下にお褒めのお言葉を頂いた。これは冒険者として十分すぎる程の偉業だろう」
やはり、エリン・ラスガレンでの件、ランドルさんにも知らせが入っていたんだ。
「そんな、偉業だなんて大げさですよっ」
「そんなに、謙遜しなくていいぞ。こっちとしても、あっちのギルドとの関係も更に良好になって協力体制が取りやすくなったからな」
「ふふっ、ではアメリアさんとダリルさん。ギルドカードを此方に」
「・・・はい?」
言われるがままに私達はギルドカードを差し出す。クリスティアナさんがカードに手をかざすと、ランクを表すFと書かれた文字が消える。
それをランドルさんは受け取ると、先が淡く発光する羽ペンでサラサラと文字を書き出した。
そこにはハッキリとEと書かれている。
「やった!!ランクアップ!」
牧場でのクエスト以降、ギルドのランクについてすっかり忘れていたけれど、こんなに早くランクアップできるなんて!
「おめでとう、今日から君達はEランク冒険者だ。此れからも期待している、引き続き研鑽に励みたまえ」
「アメリアちゃん、おめでとう!ついでにデコ助もな」
「うふふ・・ランクアップおめでとう」
「はい、ありがとうございます!」
「お・・・おう」
皆に祝福されているのにダリルは浮かない様子。察するに一ランクしか上がらず残念に思っているのだろう。
「そこでだ、祝いと今回の労をねぎらうと言う意味で、アメリア達の御仲間二人も夕食に招待したいと思うんだが如何かな?」
「ええ・・・、ありがたいお話ですが。初対面ですし、出席させて頂くのは悪いような・・・」
ケレブリエルさんはランドルさんの問いかけに戸惑うような表情を見せる。
「ケレブリエルちゃん、何を言っているんだ!これを機会に親睦を深めようじゃないか」
フェリクスさんはケレブリエルさんとは対照的で遠慮が無さすぎる。
「そうだね、人が多いい方が場が盛り上がるしかまわないよ」
ランドルさんにそれを気に留める様子は無い。
クリスティアナさんは、フェリクスさんを見ながら「コホン」と軽く咳払いをする。
「シーラン様、冒険者登録されるとお聞きしたのですが如何なさいます・・・?」
「そうだね、登録するよ」
フェリクスさんは「思わぬ足止めを喰らったな」と言った様子で苦笑いをすると、私達に手を振り、羽根ペンをインク壺につけた。
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実際は私達の労をねぎらうと言うのは建前で、ジョッキ片手にお酒を飲み大盛り上がりする大人達。私は騒がしさに思わず逃げる様に食堂を抜ける。
「あら、貴方も?」
久しぶりにアルスヴィズに会いに厩舎へ向かおうとすると、玄関先でケレブリエルさんに声を掛けられた。
「ええ、少しだけヒッポグリフ達の様子を見に行こうかなと思って」
「私は少し涼みに来たの。でも、これも良い機会だわゆっくりとアノ事について話をしない?」
「うーん、それじゃあ裏庭の厩舎にでも行きましょうか」
ケレブリエルさんの問いかけにそう頷くと、ギーっと玄関が開く音がし、お酒で頬を僅かに朱に染めたフェリクスさんがふらりと現れた。
「こんな夜遅くに何処に行くんだい?」
「ちょっとヒッポグリフ達の様子を見に行こうかと」
あまり多くの人に知らせるべきじゃ無いような気がして戸惑っていると、フェリクスさんはお酒で緩んだ表情が引き締まる。
「・・・風の精霊王の事だろう?」
「えっ・・・」
油断していた為か、思わぬ鋭い指摘にドキリと心臓が跳ねる。
「ぷっ、その反応から察するに図星だね。オレも変身してあの場所に居たからね」
そう言えばそうだった・・・失念してたわ。
「・・・アメリアさん。貴女解り易過ぎよ」
呆れた様子のケレブリエルさんに嗜められてしまった。
一人は目の前でバレ、もう一人はバレては居ないが色々とお世話になっている人だ信用していない訳でもないけれど・・・
もし今後、一緒に行動する事があればいずれかは隠し切れず支障がでるかもしれない。
私は覚悟を決め、人が居ないのを確認し、厩舎の方へと二人を案内した。
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夜も遅い為か使用人もおらず、夜の厩舎には私達の気配を察知したのか、アルスヴィズ達の羽音や足音が響くのみ。近くにランプがあるが火種が無い為、私達は厩舎の隅で月明かりの下、薄明りを頼りに話し出す。
女神ウァルからの神託、与えられた精霊の剣と言う役目、それと対なす存在のである妖精の盾という存在がいること。精霊王様達の力を借りて世界を巡るマナを整える旅をしている事を伝えた。
「女神様からの神託ねぇ・・・なんでアメリアちゃんがエリン・ラスガレンで躍起になっていたのかは理解できたよ。でも、我が国でも魔物の異常などの報告があるけれどマナが原因とはね・・うーん」
そう言うとフェリクスさんは考え込むように首をひねる。
「私も事情を理解したわ。女神さまのお言葉通りなら、世界樹の部分的な枯死がマナの異変や異界への封印に影響していたと言う事よね。そうだとしても、目星をつけて行き当たりばったりでは危険すぎるわ」
ケレブリエルさんの顔にも困惑の表情がみえた。
「・・・そうですね、今回は幸運だったのかも」
確かに他の事に目を向けず、これが原因だと一点に集中し、盲目になっていたのかもしれない。
ついつい肩を落とすと、二人からポンッと優しく叩かれた。
「アメリア、私は貴方の旅の助けをさせて貰うつもりだと言っているのだけど?」
「え???」
思わぬ申し出に頭が混乱する。そりゃ、有り難い申し出だけど・・・
「やだなぁ、オレがアメリアちゃんを疑うわけないじゃないか!オレもついて行って協力するよ!」
「フェリクスさんまで・・・。正直、嬉しいですけど、お二人とも本当に良いんですか?」
「・・・ふっ。傷心中のオレの傷を癒すのは、咲き乱れる美しくも愛らしい花々!そんな麗しいパーティに加わるべきではない。断じて否!何を迷う必要があるのだろうか!」
フェリクスさんは私とケレブリエルさんを交互に見て、目を輝かせ熱く語る。この人、傷心ていうのは嘘でしょ・・。
「「・・・・・」」
「えっ?え?無視?」
フェリクスさんの余りの様子に思わずケレブリエルさんと一緒に呆気に取られてしまった。
「コホンッ・・・私も叔母に会うと言う目的もあったけれど、あの時に精霊王様を見て貴方の旅に興味を持ったの。それに、祭殿勤めを蹴って魔術師になったのに、こんなチャンスを冒険者として逃す訳にはいかないもの」
ケレブリエルさんの瞳も心なしか輝いている気がする。
二人の熱意に胸がうたれた私は二人の前に拳を伸ばした。その手に二人の拳が重なる。
「・・・よろしくお願いします!」
そう言った所で草を掻き分ける音が耳に入った。
「ずいぶん、楽しそうな事してるじゃねぇか」
「ダリル?!」
「何々?独りぼっちにされたのが寂しくて付いてきたのか?」
「あらあら、それで草むらに・・・」
フェリクスさんはニヤニヤと笑い、ケレブリエルさんは生暖かい視線をダリルに送っている。
「ばっ、ちげぇよ!偶然、食堂を抜けてたらだな・・・お前らの煩い声が聞こえたから来たんだ!」
「ダリル・・・ここはお屋敷の裏庭だよ」
当然、食堂の廊下から声が聞こえる事は無い。
「そっ・・・そんな事、どうでもいいだろ!ともかくだ、俺もついて行くからな!」
ダリルは顔を真っ赤にして怒り、重ねられた私達の手の甲に乱暴に拳が乗せられる。
「それじゃ・・・改めて」
「「「「パーティ結成!!!」」」」
「ピキィー!」
「ピギャー!」
煩かったのか、アルスウィズとスレイプニルから抗議の鳴き声があげられたが、皆で一斉に拳を突き上げ誓う空は満天の星々が輝いていた。
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次の朝、一番に私達4人はギルドのカウンターへとクエスト受付書類にペンを走らせた。
「それでは、全員分の署名と渡航及び入国申請書類を確認致しました。此方はクエストの概要になります」
受付のクリスティアナさんは柔らかく微笑むと、書類を私達へと配った。
「よろしくお願いします」
書類によると、出発は書類の申請の受理などの関係で二週間後。クエストを受理後、早急に教会で依頼主との打ち合わせをする事や渡航後の注意や安全ルート等が書かれていた。
教会に着くと、二つの人影が目に入る。私達が近づくと相手も気が付いたのか、大きな声があがった。
「遅いぞ!冒険者風情が!この僕を何時まで待たせるんだ!」
船上と同様の態度と剣幕に呆れつつ、一抹の不安が私の心に過るのだった。




