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金色の瞳の剣姫は今日も世界を奔走する  作者: 世良きょう
第二章 風の国「エリン・ラスガレン」
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第14話 風の防衛線-前編-

注意※今回は残酷な表現を含む描写があります。ご注意ください。

清々しい緑の香りが徐々に腐臭へと変化して行くのを感じ、私は思わず顔をしかめた。

それは他の人達も同様なようで、鼻や手を覆う姿が視界の端でチラチラと目に映る。

「神聖な森に不死者(アンデット)を連れ込むなんて・・・許せない!」

後方で杖を構えるケレブリエルさんの声が怒りに震えている。

次第にはっきりと見えてくる姿は人の形をしている、腐乱した体を揺らし歩く姿からゾンビだと言う事は間違いないだろう。

「・・・先ずは使役者と対面ってなると思ったがなんだ?人一人いねぇぞ。此奴らいったい・・・何体いやがるんだ?」

ダリルは目の前の大群を一瞥しつつ、拳や足から小さな炎をちらつかせる。

私もそれを聞いて目の前の敵へと視線を泳がせた。

「正確な数は不明だけど、目測した限りじゃざっとゾンビ三十体ぐらいにトロール二体ね」

ゾンビ達の額には魔結晶も確認できた。間違いない結晶獣だ。

その数に対して此方は前衛は私達を含めて十人、後衛は弓や魔術師と援護の白魔術師二人を含め七名の計十七人。

私達も含めて、今回のような戦闘は未経験の者ばかりだ。


「皆さーん、動かないでください。援護させて頂きますねー」

背後の方からアイナの声が響く。

アイナと治癒長の二人は私達に向かい素早く詠唱すると、私達に向かって二人の杖から連続して魔法が放たれる。

「俊敏なる翼を与えたまえ【アクセラレーション】!」

「汝の敵を滅する力を【ストレングスニング】!」

体が軽くなるのと同時に、全身に力が込み上げてくるのを感じる。


こうやっている間にも敵は待ってくれるはずもなく、陣形をとり振り下ろされた剣がまるで警告音の様に鳴り響く。

そして、ゾンビの背後から地面を揺らし迫る山の様な大きさの二体のトロール。

唾液をだらだらと垂らし、棍棒を握り絞め歩く姿は知性の欠片も感じないが人に使役されて居る為か、動きは乱れる事も無く風の祭殿へと木々をなぎ倒し、緩慢な動きながらも確実に此方へ迫りよる。

「さぁて、始まりの鐘を鳴らしましょうか・・・アメリアさん頼むわね、ほら撃て~」

ケレブリエルさんはそう言うと、呆気にとられる私の背中を杖で突く。

「え?!あ?はい!撃てー!」

困惑する私の号令と共に、矢がヒュンと空を切り、雨の様に矢が一斉にゾンビに降り注ぐ。

何時の間にかリーダーの座を任されてしまったらしい。なんて無茶苦茶な・・・

「せいぜい、頑張るこったな」

其れを見てダリルはニヤリとほくそ笑む。おのれ、ぐぬぬ・・・


矢により数体、地に転がり動かなくなるものの、致命的損傷の無いものは針山と化した体を不快な声と音を共に響かせ這い寄ってくる。

「こうなったら、やるしかないよね!それじゃ、突撃ー!」

私は地面を蹴りゾンビの群れへと皆と共に駆け出す。使役者を探すにしても、先ずは数を減らすべきだ。

「偉大なる精霊にて光の王、我が剣に宿りて不浄なる者に安らかなる眠りを!ウィル・オ・ウィスプ!」

剣は私の魔力と声に呼応するかのように光に包まれ輝く白刃、クラウ・ソラスへと姿を変える。

私の振り払った刃は自分の周囲のゾンビを一掃し、腐敗した体を腐臭と共に霧散させた。


「はっ、調子こいてんじゃねぇぞ。【炎舞連脚】!」

久々の戦闘に血が滾ったのか、愉快そうにニヤリと口角をあげる。ダリルは跳躍をした後、体を捻り炎を纏わせると、舞う様にゾンビを粉砕していく。焦げた臭気を充満させながら、【跳梁足(ちょうりょうそく)】を駆使して瞬時にゾンビの群れの中を移動し、次々とあちら此方に灰の山を作り上げる。

「そう言っていられるのは今のうちよ!【ブレイドスラッシュ】!」

光の精霊の力が籠められた刃はゾンビを一体また一体と、切り裂かれ次々と霧散していくゾンビの群れの中を縫う様に駆け抜ける。

「行くわよ!【ウィンドスピア】!」

ケレブリエルさんの杖から風が渦巻き一筋の槍を模り、結晶獣達へと放たれる。

渦巻く風の槍はゾンビの頭に風穴を開け、不快な音と共に腐肉の山を作り上げ、トロールの足元の地面を抉り消えて行く。


(しば)し間を置き、遅れて反応したトロールは怯んだかのようにたじろぐが、額の魔結晶が光ると私達へと再び棍棒を振り上げる。

「っ・・退避!」

「逃げろっ!」

私とダリルの声と共に、剣士達は後方へと退避しようと八方へと散る。

だが、無情にも鈍い打撃音と共に避けきれなかった数名が吹き飛ばされ、地面や木の幹に叩き付けられる。

「皆、怯んじゃダメ!動ける人は怪我人を連れて後退して!」

「無事な奴で残れるのは俺達と残ってくれ!」

私達はトロール達の前に飛び出す。私とダリルの声を聞いて数名が怪我人を連れて後退しだした。

しかし、この数を使役し操る使役者は見当たらないのが疑問だ。



***************************************



トロールの粘土の高い唾液がボトリと私達の前に落ちる。

どうやって倒すかと様子を見て思案し、棍棒を睨み動きをよみ剣を構えると、目の前が霞始める。

「くっ、上だ!地上に気を・・・取られ過ぎた!」

ダリルの声に空を見上げると不気味な模様の羽を持つ巨大な蛾が人を乗せ、鱗粉(りんぷん)を撒き散らし飛んでいる。

「あれは、眠り蛾・・・モスリープ!地上の結晶獣に気をとられ過ぎたわね・・・」

ケレブリエルさんは口元を抑えつつ、上空で羽ばたくモスリープを睨む。

周りからは眠らされ倒れる人々が出始めている。迫りくる眼前のトロールに上空のモスリープどうしたものか。鱗粉が視界を塞ぎ、標的を隠しているので矢も使えない。

「くっ・・・口を」

「私が魔法で・・・げほっ」

ケレブリエルさんは杖を構えるものの、意識を保つのに必死な様子だ。

「くっ・・・!」

瞼が重くなるのを必死に堪えていると風が吹き、棍棒が容赦なく振り下ろされる。

一瞬吹いた風により目視した棍棒が私の腕を掠める。

だが次の瞬間、目にしたのはトロールの棍棒へと噛り付く、針山のような背を持つ巨大な猪。

「ニードルボア?!」


「我々の研究が全て悪しきものと認識されては、純粋な意欲を持つ研究者の努力を無下にする事になるのでな」


鱗粉から逃れる為、後退しながら背後から響くその声に振り向くが襲い来る睡魔と鱗粉により目が霞む。

しかし直後、驚愕の声をあげるアイナ達の「イズレンディアさん」と呼ぶ声で声の主が判明する。

そうなると、このニードルボアは結晶獣?

祭殿の外まで出てこれるのも驚くけれど、見張っているフェリクスさんはどうしたのかしら?

「おい!見張りはどうした!」

ダリルの言葉から鱗粉の魔の手から離れ、後方が視認できる位置にいるらしい。

その口ぶりから推測するに、出て来たのはイズレンディア部長のみ?

治療室で安静にしていなければならない筈なのに何故一人で?まさか・・・

「・・・・そんな事より、ニードルボアがトロールを抑えている内にモスリープを如何にかするべきじゃないか?」

ダリルの声にイズレンディア部長の声は一切、動揺を見せず淡々と言葉が紡がれる。

「くそ・・っ。アメリア、取り敢えず退避だ!」

「私は大丈夫!でも、他の人達が!」

霞む目の前の鱗粉から退避できたのは私達のみ。

たまらず深呼吸をして戻ろうとするが、ケレブリエルさんに肩を掴まれる。

「待って、仲間も大切だけど大本を断たなきゃ。此処は私が魔法で・・・」

ケレブリエルさんは杖を構える。

しかし、瞬きをした次の瞬間に私達は驚くべきものを目にする。



************************************



風も無いのになびく若葉色の髪に金の瞳、そして色鮮やかな風を纏う蝶の(はね)を持つ少年が杖の上に腰を掛けている。驚愕の余りに周囲は言葉を失い静まり返るが、私は彼が何者なのか知っている。

その少年は夢に幾度となく出て来た、あらゆる場所に存在し自由に世界を渡り歩く者、ある時には命を運び育み、ある時はその逆も引き起こす気まぐれなる存在にて其れを統べる者。

「風の精霊王様・・・」


「やぁ、精霊の剣。此れまでの努力に免じて一つだけ力を貸してやるよ、さあお前の望みは?仲間を救う?それとも見捨てて、敵の殲滅を優先する?」

無邪気な笑みを浮かべながら私を見下ろす瞳は不思議な輝きを放ち、仲間達を無視して私を見下ろす。

「そんなの・・・決まってます!」

何時、抑えが利かなくなるか解らない事態、私は澱みなく望みを告げた。

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