第15話 風の防衛線-後半-
注意※今回も一部、残酷な表現を含む描写があります。ご注意ください。
『さあお前の望みは?仲間を救う?それとも見捨てて、敵の殲滅を優先する?』
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投げかけられた言葉に私は澱みなく言葉をつむぐ。
「勿論、仲間を救い敵も残滅します!」
私の言葉に風の精霊王様は金の瞳を一瞬、大きく見開いた後に目を細め、さも愉快なものを見たかのような表情を浮かべ口角をあげる。
「実に人間らしい願いだ、強欲だね。お前は二つも叶えると言うのかい?」
そう問いかけた風の精霊王様の目は微笑んでいるが冷たく、私の心に突き刺さる。
でも、此処で私も引くつもりは毛頭も無い。
「・・・勿論です!それに私の思い違いかもしれませんが、精霊王様はどちらか一つを選ぶ様に仰っていませんでしたよね?」
「・・・・・」
しばし訪れる沈黙。確かに少々、強引だったかな?
私は緊張のあまり唾を飲み込み、風の精霊王様の顔を見上げる。
そこに突如、張り詰めた空気を壊す、明るい笑い声が響いた。
「あはははは!どうやらオイラ、お前に一本取られたみたいだ。面白い!気に入ったよ、お前に風をあたえてやる」
「ほ・・・本当ですか!」
「うん、嘘偽りはないよ。ただ・・・」
しかし、女神様から与えられた使命を達成する為の条件が一つが達成される喜びに顔が緩む私を嗜めるような声が響く。
「ただ?」
「光は何も言わなかったようだけど・・。オイラ達の力を集め、整えると言う事の真の意味を知っているのかい?」
「真の・・・意味?それはいったい・・・?」
マナに大きな影響を与える精霊の力を整える事は世界の均衡を正常化し、解けかけた魔界の門の封印をする事になると私は聞いていた為、私はその言葉に首を捻る。
「それは、自分で知るべきだ。そこまで、オイラは甘くないよ」
そう言うと、呆れ顔の風の精霊王様の手から風が沸き上がり、私の足を包み込み渦く。
「・・・解りました。って、わわっ!」
徐々にそれは淡い光の粒を舞い上がらせ、足の防具に風の文様を浮かび上がらせる。
しかし直後、それは徐々に褪せて消え失せてしまった。
「コイツはレヴィア、これでお前は旋風の様に高く跳躍できる。この力を行使する場合は、この風の精霊王シルフに呼びかけておくれよ」
風の精霊王様はニマーっと笑うと、後ろで困惑の表情を浮かべて固まる人々を指さす。
「あ・・・」
「そんじゃ、健闘を祈ってるよ!」
そう言うと風の精霊王様は風を巻き起こし吹き去り、あっと言う間に姿を消していった。
おかげでモスリープの鱗粉は薄れたが、私の背中には二人だけじゃなく複数の視線が突き刺さる。
「・・・・貴方が何故、私の結界を越える事が出来たのか良く解ったわ。後でじっくりお話聞かせて貰うわね」
ケレブリエルさんは私を逃がすまいと、肩を掴み静かに私に微笑みかけて来た。
ダリルはヤレヤレと言った表情を浮かべて肩を竦めている。
なんだか、この後が怖い事になりそうだ・・・・
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突然の精霊王の顕現に騒めき混乱する最中、魔物の咆哮と共に何か硬いものが砕け散る様な音が響き、我に返る。
振り向くとトロールを抑えていたニードルボアが姿を消し、琥珀色の塊が辺りに散らばっていた。
「・・・・試験的に琥珀を使用して作ったものの、研究が甘かったようだな」
ニードルボアもとい、結晶獣を使役していたイズレンディア部長の悔し気な声が離れた場所から聞こえる。あの結晶獣は世界樹の根を使用したものじゃなかったのね。
「琥珀ってまさか・・・」
「おい、それより空と地上。如何にかすっぞ・・・!」
ダリルの言うとおり地上と空を眺めれば、目の前には地響きを引き起こし迫るトロールと翅を羽ばたかせるモスリープが目に入る。そして、地面に倒れる仲間達の姿も。
「ここは、私に任せて!ダリルは眠っている剣士さん達を治癒長さん達の所へお願いっ」
ダリルは私の言葉に不満の表情を見せるが、すぐさま身を翻す。
「・・・チッ、カッコつけやがって」
ダリルは悪態をつくと、倒れている人達の下へ駆け出す。
私は背後のアーチャーさん達に合図をし、再び弧を描く矢が降り注ぎトロール達を怯ませる。
しかし、これで万全ではない。
「風の精霊王シルフよ、私を攫い天を翔ける力を与えたまえ!」
呟く私の声に呼応するかのように風が足へと集束し始める。
地面をけると旋風が起き、地面と風が反発しあう感覚と共に体が上空へと巻き上げられる。
勢いよく宙へと飛び出す感覚に戸惑うが、私の目は確りとモススリープと、その背に乗る使役者を捉えた。
敵は二体ってところね・・・!
使役者は目の前に突如、現れた私に驚愕し固まっている。
「ふふっ、夢か幻を見ている顔ね。その目、覚ましてあげるわ!」
「・・・小娘が、生意気な!」
挑発にあっさりと引っ掛かった敵の一人は剣を引き抜き襲い来る。もう一人は鱗粉を振り掛けようと、モスリープの翅を羽ばたかせる。仲間を囮にするつもり?!
「させないわっ!」
弱まりつつも未だに足に残る旋風の流れに体の動きを合わせると、降下していくのを利用し、二人の乗るモスリープを刃を避けつつ切り捨てる。
汚い悲鳴を上げる二人を乗せたモスリープは徐々に姿が保てなくなり、その姿を光の粒に変えながら主と共に地面に落ちて行く。
そして、私も・・・
「お・・落ちるっ!」
再びレヴィアで落ちる衝撃をとした時、急に体が宙に浮き、私は緩やかに着地した。
「えっ?え?」
「・・・間に合ったようね」
そう得意気に言うケレブリエルさんの前の地面には一筋、土が抉られた跡が・・・
「ったく、魔法の余波をクッションにするなんて博打にも程があるだろ」
困惑をする私の後ろからダリルが呆れた顔をしながら戻って来た。
「あら?結果良ければ全て良しよ。それに、その様子だと皆を避難させる事ができたようね」
「・・・ふん。慢心するなよ」
「こら!ダリルっ」
「うふふ・・それより気にするべきものが有るんじゃないかしら?」
ケレブリエルさんは杖を構えると、その先を見る様に顎をしゃくる。そこには間近まで迫るトロールが。
態勢を整えようと立ち上がろうとした次の瞬間・・・・
断続的なヒュン!と空気をきる音とが響くと矢が雨の如く、トロール達に降り注ぐ。仲間からの援護攻撃だった。
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トロールは怒りの咆哮をあげながら降り注ぐ矢を薙ぎ払い、臭気の漂う息を吐き出しながら気味の悪い声をあげ、地団駄を踏んで暴れている。
何故、消えない?使役者は意識を失っている筈なのに。やはり、何処かしらに別の使役者いるで間違いないようだ。
「さっ、援護してくれた奴等の期待に応えてやるか!」
「アメリアさん、考えている場合じゃないわ」
二人に焚き付けられ私も剣を閃かせ、寸前まで迫るトロールへと駆け出す。
ダリルは地響きと振り下ろされる棍棒をものともせずに跳梁足で棍棒を伝い肩まで駆け上がる。
「一番乗りは貰ったぜ!【焔竜掌】!」
振り上げた拳と共に炎が昇り龍の如くトロールの顎を突き上げる。燃え移った火がトロールの皮膚を焦がした。
私はダリルに続き、頭を抑えて暴れるトロールの足合間をすり抜けもう一匹の足の腱を切り刻む。
しかし、トロールは悲鳴を上げるものの、剣は分厚い皮膚に阻まれ致命傷は与えられない。
「援護するわ【ウィンドスピア】!」
風の槍が斬りつけたトロールの足を貫き奪い去る。片足を失くしたトロールはバランスを崩しよろめき出す。
「退避して!」
私の叫びにより皆で後退すると、トロールは焼ける仲間を巻き込み、体が浮き上がる様な感覚と骨を砕くような音の混ざった地響きを轟かせる。
地上にできた小山は下敷きになった者からは紫色の液体が漏れ、あらぬ方へと曲がった四肢は徐々にモスリープと同様に霧散していく。
しかし、足を失い倒れたトロールは瞳を怪しく光らせ低い唸り声をあげると、四つ這いになり此方へ襲い来る。
「おい!アレはよくある事なのか?」
「お馬鹿さん!あんなの居るわけないでしょう」
「二人とも、迎え撃つよ!」
しかし、臨戦態勢になる私達の眼前でそれは急に動きを止め消えて行く。
「あれ?」
「どうしたんだ?」
困惑する私達の背後から、イズレンディア部長の声が響く。
「安心したまえ!我々の勝利だ!」
振り向くとイズレンディア部長は一人の人物を羽交い絞めにしていた。その顔には覚えがある、蜂蜜色の髪の白魔術師。
「あ・・・アイナ!」
しかし、その顔は祭殿で見た穏やかな表情ではなく、憎悪に染まり醜く歪んでいた。




