第04話 拐かし-一柱の神編
遺跡に差し込む陽の光にも陰りがみえる。
その分、カンテラの灯が大いに活躍しており、ヒューゴー達が集まる事で目の前の灯の中に不気味な空洞が浮かびあがった。
石壁に大きく口を開けた穴、その殆どが瓦礫が雪崩れこんだのか埋もれてしまっているのが残念でしょうがない。
カンテラを近付け、その淵に刻まれた痕跡を凝視すれば五本の指を持つ手形だと判明。
壁に複数の死骸が埋まっていた事から魔物かと推測したが、トロールなど私が知るどの人型の魔物の手とも違和感を感じた。
そもそも、ロジャー神父から受け取った羊皮紙には手形は有れど空洞の存在など記されていない。
皆と共に頭を捻る内、ゴトフリー司祭も同じ疑問を抱いていたらしく、疑問混じりの走り書きを見つけてしまった。
「なあ、これは何なんだ?」
カンテラの灯の中、考え込む内に自然とヒューゴーと目が合った。
その視線が時折、手元の羊皮紙に向いている気がする。
然し、目を幾ら通そうと手形への言及は有れど明確な答えは無い。
「うーん・・・」
唸りながら羊皮紙に指を滑らせる。
「おい、何か言えよな」
ヒューゴーが爪先で何度も私の脛鎧を突く。
コツコツと急かす響く金属音、少し煩わしく思いながら羊皮紙に目を通す。
「・・・ゴトフリー司祭はコレを私に訊ねたくて誘ってくれたのかもしれないわ」
崩落前の魔法陣の写し、中央には光の精霊紋に囲まれた不思議な紋様、陣を閉じる筈の魔法円から一筋の線が伸びていた。
ヒューゴーにも皆にも見えやすいよう屈みこむが、皆の陰で隠れて慌てて間を取り直す。
ザイラさんが上からカンテラで照らすと、腕を伸ばしては線を爪先でゆっくりとなぞる。
「ふぅん・・・成る程、崩落前の写し絵かい。で、この線は此処の何処に繋がってんだい?」
「ここに石碑が記され、線はその斜め向かい側に伸びている・・・恐らくこの位置と言う事に成りますね」
写し絵が合っていれば方角的に石碑ががあり、手形の空洞の前のがれきの下には中央から線が伸びているはず。
「つまり、ここの魔法陣と似た奴が他にも在るって事かい?」
カンテラの灯に照らされるザイラさんの顔が何処か自信あり気に見える。
「確かにそうかも・・・」
謎の紋様を囲む光の精霊紋、写し絵を改めて見直すと広場で上がった六筋の光の柱が空を貫く光景が脳裏に蘇る。
方角的にも光の祭殿と教会は近く、光の柱が此処から上がったとしたら外にも似た地下空洞が存在するのかもしれない。
そう考える程、魔法陣より伸びる線が伸びる先、手形が刻まれた空洞の先に興味引かれる。
「おっし、アタシに任せな!そして、国か教会が煩くなる前にゴトフリーの手伝いをしてやろうぜ」
ザイラさんはカンテラをフェリクスさんに投げ渡すと、自身と積み上げられた瓦礫を照らすように言いつけると腕捲りをした。
瓦礫を両手で鷲掴むと腕の筋肉が盛り上がり、岩の塊は軽々と持ち上げられる。
「え・・・えぇ?」
私達は慣れたものだが、予想外のザイラさんの行動に困惑の声をあげるフェリクスさんの顔は驚愕へと変わる。
ザイラさんは一瞬だけ目を凝らすも、面倒になったのか腕を引き絞る様に構え瓦礫は壁際へと轟音を鳴らしながら投げつけられた。
舞い上がる土煙にカラカラと言う壁が崩れる音が暗闇に響く。
「げほ・・・おい、うっかり魔法陣を消すなよ!」
ヒューゴーの心配を他所に、空洞の前の瓦礫の山が崩れていく。
粉塵を吸わないように口を塞ぎ、厄介な瓦礫が取り除かれた事に安堵するとザイラさんのしたり顔がカンテラの灯の中に浮かび上がる。
その指先は地面をさし、照らされた床には写し絵の通り穴に向けて深い線が刻まれ伸びていた。
「ふんっ、アメリアの推測は合っていたようだね」
ザイラさんは私の方を見て感心したような顔をすると、興味深げに中を覗き込み口元から警戒するように奥歯を噛み締め火の粉を散らす。
床には大半が砕けてしまっているが、縦長の石板が倒れている。
切り出された物では無いらしく、足元は地面と繋がっていた。
何かを恐れた誰かが魔法で穴を封じたのだろうか。
「それとも・・・」
灯り頼みの中、茜色に染まりつつある空が暗闇に浮かんでいる様に見えた。
「まあ・・・何にしてもコレは君に返すよ」
フェリクスさんは崩れた表情を整え、口角を引き上げぎこちない笑みを浮かべながらザイラさんにカンテラを返す。
「・・・ありがとうね」
ザイラさんは素っ気なくも御礼をしたかと思うと、屈みながらカンテラを空洞へと差し込んだ。
魔力が籠る火の魔結晶の灯に入り口が照らされる、掘られたと言うよりも内から抉られたような歪な形状だ。
「けっこう奥までありそうですね。空洞・・・と言うより迷宮の通路みたいだ」
凹凸だらけの壁を確かめるように撫で、警戒しながら片足を踏み込むと肩に誰かの手が置かれた。
「つまり、この先に世界を創造した神さんの下りた場所って奴が在るって事かい?」
「・・・フェリクスさん?」
あの広場では人の目もあり、始まりの地と言う言葉のみ口にしていないはず。
困惑と疑念まじりにフェリクスさんを見つめると、汗と共に視線が斜め上に泳ぐ。
「え?オレ、国に仕えてるし。神話好きの知的な美女と・・・」
取り繕うような笑顔をフェリクスさんは作る。
長旅を共に過ごしてきたが、やはり焦った時の言い訳が如何にも上手くない。
これにヒューゴーからの追及の一言でも飛んできそうだが、代わってザイラさんの苛立ったような声がフェリクスさんの言葉を遮った。
「ハッ、それじゃあ遊んでないで仕事に戻った方が良いじゃないか・・・ヒューゴー、上が騒がしくは無いかい?」
ザイラさんは皮肉交じりにフェリクスさんの離脱を促すと急に視線を上げては視線をヒューゴーに向けて落とす。
ヒューゴーは片眉を上げるとフェリクスさんを睨みつけて舌打ちをする。
「だな・・・こっちを心配してなら良いが、何やら大勢集まっている様だぜ」
空を鳥の群れが横切る、顔も服装も見えないが空洞を囲むように人影が徐々に増えていく。
裏庭の崩落に関係者の同行無しの強行、これは私達の考えが甘かった。
「つまり許可はおりなかった・・・教会の人達かな?」
教会ともめても百害あって一利なし、せっかくの原初の地について知る好機と期待を膨らませていたのだが致し方が無い。
「さあな、これだけ暗いと俺の目でも判別できねぇ」
「これは寧ろ・・・煩い事に成る前に調べるべきじゃないか?」
フェリクスさんは目を輝かせ、空洞に逃げ込むべきだと促がす。
「うっせ、御前が如何にかしろ!」
ヒューゴーが吐き捨てる様に叫ぶと、急にザイラさんが私を抱えて空洞へ飛び込む。
カンテラなど比べようがない光と岩壁が砕ける音、その軌跡により私達を目掛けて魔法が放たれたのだと判る。気づけば警戒する暇もなく、全員で手形の空洞へと身を寄せていた。
「いやいや、こんなの聞いていないって!」
フェリクスさんは冷や汗を流すと、そっと魔法が壁を打ち砕くのを眺めていたが目の前に巨大な岩の鏃が突き刺さり尻餅をつく。さっきまでは威嚇、今のはあからさまな攻撃だ。
此処までされる謂われは・・・
「・・・瓦礫の撤去か」
見物のつもりで許可を下ろしたのであり、無理を言った上に遺跡で轟音をとどろかせては誤解をうみかねない。そう言う考えに至り、背筋を冷たい物が流れ落ちるのを感じた。
「あー、なるほど盗掘と思われちまったか」
窮地に陥っているのにも拘らず、ヒューゴーは楽しそうに不敵な笑みを浮かべる。
「なんだい、あれは致し方なかったろ?」
ザイラさんは気まずそうに顔を顰めると、脂汗を流しながら目を泳がせる。
大人しく弁解をする為に相手を待つか、それとも敢えて逆を選ぶか・・・
「・・・行きましょう!」
私は衝動のまま振り返ると、空洞の奥をカンテラで照らす。
それへのヒューゴー達の応え、それは空洞の更に奥への無謀な道への疾走だった。
「どのみち共犯扱いは待ったなし・・・置いて行かないで!!」
フェリクスさんの情けない声と撃ち続けられる魔法を背に行く当てのない通路を走る。
魔法陣の中央か原初の地、そもそも地下に在るのだろうか。
頭を振るい、俯いていた頭を上げる。
『アメリア!!』
仲間の誰の声でもなく、けれど聞くだけで胸の底から言いようのない何かが込み上げる。
言葉を紡ごうと口を開けば、誰のカンテラの灯も視界から消えて銀色の蝶が舞う。
遺跡に仕掛けられた罠だろうか?
「突然、意味が解らない!何なのよコレ!」
やけ気味に引き抜いた剣の切っ先に硬質な物が当たる。
そして目の当たりにしたのは、教会の裏庭で見たあの石像だった。
本日も当作品を最期まで読んで頂き誠にありがとうございます。
好奇心は猫をも殺すと言いますが、無謀の先に連れ去られた意味とは?
翻弄されるアメリアは何を知り、気づきを得るのか。
次回までゆっくりと御待ち下さい。
***********
次回の投稿は8月31日20時の予定しております。




