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金色の瞳の剣姫は今日も世界を奔走する  作者: 世良きょう
第9章 善なる神の憂い
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第34話 神の回顧録 参ー善なる神の憂い編神

「何とは随分な物言いだな。同時に神界から下りてきた(よしみ)じゃないか」


クリアーレは冷たくあしらわれようと柔和な笑みを崩さず、大御神は何とも胡散臭い物を見るように眉を顰める。

どの様な因縁が有るかなど、人間すら存在しない時代なだけあって知る術は無いが巻き込まれる事は回避しようがなさそうだ。


「白々しい事を・・・余を恨んでいるのだろう?」


大御神からのクリアーレに対する警戒は解けず、復讐を遂げに来たと言う体で接している事だけは解る。怒りで唇を噛み締め、門柱を掴む大御神の手が震えていた。

クリアーレは漸くその意図に気付いたのか表情を崩すと、困ったように眉尻を下げる。


「あれは不慮の事故に過ぎない。こうして我々の手で世界は生を受け彩られ、こんなにも興味深く美しい。さあ語り明かそう!」


不慮の事故と言葉を濁しては、諭す事からの共感を求めて屋敷への招待を所望、悪神ではないが如何にも厚かましい。

好奇心と探求心の塊のような神の傲慢ともとれる畳み掛ける勢いに唖然としていた大御神だったが根負けしたのかクリアーレの熱弁に苦笑いをした。


「・・・余も、此度の事で己の価値観に固執せず新たな風を吹かせても良いような気がしてきた。庭を案内してやろう、余について来るが良い」


疑念は消えずとも先程の非を悔いる気持ちと同志の存在に感化されたのか、満更でもない様子で門を開き私達まで招き入れてくれた。

ひたすら語り合う二柱の神様を追い、私達は傍観に努めながら大御神が造り上げた美しい庭園の中を歩いていく。どの建物や木々や植物も、目にした事は無い物ばかり。

その中の建物も屋敷と言うよりも神殿と言う方が相応しい雰囲気の荘厳な造り。

二柱の話から、神界を模して造ったと言う誇らし気な声が聞こえてくる。

何だかんだで(わだかま)りは解け、傍から見れば友のようにすら見えなくもない。

価値観の違いが有れど精霊や神を始め、創り出す万物について関心を示し熱く語りあう二柱は一喜一憂しながらも饒舌になっていった。


「あのさコウギョク、あの事って知っている?」


すっかりと蚊帳の外な中、足元を四本足でてくてくと歩くコウギョクを見て訊ねるが、少し気まずげな顔で睨まれてしまった。

コウギョクは二柱の様子を窺うように視線を前に向けた後に戻すと、渋々と言った感じで口を開く。


「知る・・・こほん!そ、創世の時に妾は存在してはおらぬ。そっちには何か残っておらぬのか?」


コウギョクは咳払いをすると、知る術すら無いと言わんばかりに首を横に振っては此方に訊ねてきた。


「広く知られている創世記以外は何も。そもそも、人間が作られる以前の記録は残ってすらいないと思う」


二人で思わず見合わせ、収穫は得られず揃って肩を落とす。

故郷で習った歴史や本にも、各地を回って見聞きした中でさえも兄妹神による創世の記録以外存在しなかった。

そう踏まえてから前を行く二柱を幾ら見比べようと到底、兄妹神とは言うには無理がある。

創世記に記されない時の断片、そこに私まで呼ばれた謂れがあるのだろうか。

そしてこれが大御神の所業と言うのであれば、何を見せようと言うのだろうか疑問が湧く。

無念の唸り声の後、コウギョクは肩を落とした。


「なんと、絶滅ではないか・・・いや、別意に良いのじゃが確かに気になるのう。うーむうむ」


コウギョクが眉間に深く皺を刻みながら愚痴をこぼすと、此方を気にしているのか白狐は何度も振り返って来ている事に気付いた。コウギョクはそれに目を丸くすると、言葉を飲み込み慌てて口を堅く閉じる。

長く凝視していた挙句に背中を追い回しては訝しく思われるのも当然だろう。


「コウギョク、試練は達成したんじゃないの?」


二柱の神様と白狐を目で追いつつ声を潜める。


「その筈、何じゃが・・・解らぬ事ばかりじゃ」


コウギョクは私の問いにますます顔を険しくすると足を止めては両前足で頭を抱え、苛立ちからか尾を左右に揺らす。

試練自体に他の条件が有るのか、それとも白狐が狐護様と言うこと自体が憶測に過ぎないのか。

何にしても二柱に置いて行かれる訳にはいかない、屈み込みコウギョクの背に手を掛けると白く美しい尾が視界を掠める。


「神が降臨されし時の過ちが起きる。一柱で創るべく世界に二柱の神が落ち衝突した、彼の一柱は大御神を恨んでいるのやもしれぬ」


白狐は二柱が足を止めては主達の姿を確認し、何の躊躇も無く唐突に私達にとんでもない逸話を聞かせてきた。

子狐姿のコウギョクすら喋っているのだから違和感はない、ただ内容なだけあって行き成り聞かされて戸惑いを禁じえない。


「え・・・?」


これが事実であれば、まさに神話として語り継がれる一説。

思わずコウギョクと共にゆっくりと大御神へと視線を向けるも、クリアーレから矢継ぎ早に繰り広げられる質問責めにより此方を気に掛ける暇もないようだ。

現状には憂いなし、二人で安堵した表情を浮かべては視線を白狐に戻す。


「あー・・・それが、二柱が言うあの事と言う事で宜しいか?」


コウギョクは白狐に対して探りを入れる。

白狐は僅かに驚き目を丸くするも、すぐさま顔を引き締めては先程より声を潜めた。


「うむ。これは口を滑らせたのではない忠告だ。そなた達が連れてきたあの方は壊れていると・・・」


九つの尾を風に揺らしながら驚く私達に語るも半ば、大御神の手が白狐の頭を優しく何度も撫でると言葉は不自然に途切れた。


「壊れている・・・」


そっとクリアーレに視線を向けると、庭を見て目を輝かせながら廊下に舞い降りた木の葉を物珍し気に観察に耽ている。

戦場で見た紫の瞳が脳裏に過るが、確信は得られずとも自分の中で妙に腑に落ちた気がした。

大御神は撫でる手を止めると、私達を一瞥してから白狐に視線を落とす。


「狐護よ、少々の戯れは構わぬ。だが月の神の客人が迷わぬよう誠心誠意、案内してやりなさい」


白狐の名前を耳にして確信したであろうコウギョクは、達成感に歓喜するかと思いきや、緊張の面持ちで石像の様に硬直していた。

穏やかに狐護を窘める大御神、暖かい日の光のような笑顔を浮かべているが不自然さが拭えない。


「御意・・・」


狐護は静かに首を垂れると大人しく大御神に(かしず)く。

大御神は狐護を眺めながら安堵したような表情を浮かべるも、クリアーレの気配に顔を強張らせた。


「その様に急かさなくても良い、私はお前の話を聞いてこの地を気に入ったぞ。従者には使役するだけではなく対話しながら助力を得て造り上げると言う考えにも感動した」


クリアーレはご満悦と言った様子。

新たな革新により歓喜に震え、展望や理想とする世界の未来が描けたと言わんばかりだ。

気付けばクリアーレの次なる関心は私に向けられていた。


「数多の者が我々の干渉外で生き、行動を共にしながら協力し、時には争い乗り越える。お前達の姿にも閃きを得る事ができた感謝する」


「い、いえ、とんでもないです」


世界が創造される際の神々の語らいと其の過程、ただその参照にされた物が此処まで辿り着くまでの私と言う事に光栄に思うべきかは首を捻りたくなる。

未来の為にも、ここは六柱の精霊達と試行錯誤して欲しい物だ。


「然し、植物と言ったか此れは良い物だな」


クリアーレは庭を仰ぎ見ると、うっとりと見惚れては目を細める。


「そうか、此処は全て狐護による物だ。ならば、此処は庭を案内しよう。狐護よ頼めるか?」


度々、どこか冷めた目でクリアーレの様子を眺めていた大御神の表情が僅かに和らぐ。


「承知致しました、大御神の仰せのままに・・・」


大御神に誇らしげに語られると、狐護は尾をゆらゆらと機嫌が良さそうに揺らした。

色とりどりの花々や木々、自然を生かした美しい配色の庭はやはり見事だ。



*********



私達は最後尾から庭を散策する神々の後を追っているが弧護の目が無い分、コウギョクの頭は試練とは何か判らないからと愚痴をこぼしだした。

最初から示されていたのは狐護様に会う事、それ以外は開示されておらず謎のまま。

鬱憤が爆発している様だった。


「やはり、あの方で間違いない。然し、試練とは何なのじゃ・・・あー、もう!」


「うーん、そればかりは神のみぞ知ると言う事じゃない?」


何がなんでも成し遂げて本来の目的を果たしたいと焦る気持ちは解るが、少しは静かにして貰いたい。

癇癪を適当に受け流し、有無を言わせずにコウギョクを抱え上げると馬のいな鳴き声が聞こえてきた。

庭の一角には岩山が突き出しており、そこからやや離れた場所に御社(おやしろ)の様な外観の厩舎が在る。

そこには以前も目にした白く神々しい姿の馬が繋がれており、見慣れない容姿のクリアーレを目にするなり、前足で落ち着きなく何度も敷き藁を掻いていた。

クリアーレはとことん日乃本に関りが有るものに警戒されているな。

二柱の許へ追いついた所で大御神は未だに鼻息が荒い馬の許へ走り寄り、宥める様にその首を撫でる。


「美しかろう、こやつは余の神馬だ」


「ああ、美しいな」


クリアーレは見惚れると、大御神の言葉に頷く。

間近で馬を目にしたかったのかクリアーレも厩舎へと近づこうとするが、何かを察したのか大御神は其れを手で制す。


「こやつは其の気性が故に、他の者には乗りこなせぬ。下々の者も含め、生きて故郷に戻りたくば騎乗しようなど思わない事だ」


クリアーレの言動などから邪推したのだろう。

当の本人は苦笑をしながら素直に足を止めたが馬は興奮し、一際大きな鳴き声を辺りに響かせては前足を振り上げた。


「・・・っ!危ない!」


馬は白く筋肉質な体を(しな)らせては柵を飛び越えんばかりに振り下ろされる。

咄嗟の事で深く考える余裕が無い、衝動的に私の顔を呆然と見つめる大御神の体を白い塊と入れ違いに抱き寄せていた。


「余計な事を・・・」


救い出した大御神からは不愉快そうな顔で突き飛ばされ、尻餅をつくと同時に悲痛な鳴き声が響いた。


「キャンッ!」


九つの尾を持つ妖狐の体は馬に蹴り飛ばされ屋根の高さほどに跳ね上げられる、地面に叩きつけられる直前でクリアーレの命令で風の精霊が救いあげた。

大御神が私を睨みながら祝詞を短く唱えると、馬は昂っていた事が嘘のように大人しく厩舎へと戻っていった。


「全ては私に責が有る、故にこの娘を責めないでやってくれないか」


クリアーレの腕の中には水の精霊により治癒術を受ける瀕死の狐護の体が抱きかかえられている。

それを目にするなり大御神の顔から血の気が引いたかと思うと、酷く取り乱し眉間に深く皺を刻むと同時に涙が溢れだした。


「誠にっ・・・余計な世話だ!そのうえ、弧護に深手を負わすなど・・・・!!」


傍に仕えさせていたのは、やはり重宝していたのではなく大切に思っていたからだろう。

怒声が辺りに木霊し、大地がその心情を現すように荒ぶる。

正否は三者三葉、思いやりが引き起こした惨事は日乃本を瞬きの合間に闇に染め上げたのだった。

本日も当作品を最後まで読んで頂き誠にありがとうございます。

今週は更新予定日を遅らせてしまい、大変申し訳ございませんでした。

出来得る限り間に合うよう執筆していこうと思いますので、引き続き当作品を読んで頂けたら幸いです。


*******

次週こそ無事に投稿できれば2月23日20時に更新いたします。

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