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金色の瞳の剣姫は今日も世界を奔走する  作者: 世良きょう
第二章 風の国「エリン・ラスガレン」
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第6話 潜入調査

私の視界に入る景色は緑濃きものから人の手により作られたものへと変貌していく。

ガタガタと揺れる馬車の中、二人からの質問攻めが繰り広げられていた。

「しかし、不思議だよな。何でアメリアちゃんだけ入れたんだろうね?」

フェリクスさんは小窓の縁に肩肘を掛けながらジッと私の目を見つめてくる。

「うっ、それは~・・・」

行き成り答えるのが難しい核心を突くような質問に思わず口ごもる。

フェリクスさんを信用していない訳ではないけれども、自分は精霊王に選ばれた特別な存在なんです何て話したらどうなるのか不安な部分もある。

「結界なんざ張れるってことは十中八九、ケレブリエルって奴は魔術師なんだろ?」

私が口ごもっているのを見かねてか、ダリルが助け舟を出してくれた。

「うん・・・」

アメリア(こいつ)はお人よしそうだし、話を聞いて貰う為に呼び寄せたんじゃないか?」

「うーん、確かにな。彼女の言い分に耳を傾ける人は居ないようだし、わざわざ出向いてくるなんて珍しいもんな」

フェリクスさんを如何にか納得させれたようだ。しかもケレブリエルさんに対しても失礼過ぎる。


「でだ、肝心のそいつから聞いた話はどうだったんだよ?」

「話を聞くまでに苦労したけれど、結晶獣の召喚結晶に使われている素体の部分が世界樹の根らしいと聞けたわ」

私のその言葉に予想通り、ダリルの顔が驚愕に染まる。

「世界樹の根・・?!あの其処ら中に飛び出している奴か?」

「ふぅん、成程ね」

ダリルとは違い、フェリクスさんは落ち着き払った様子。事前に知っていたかのように頷いている。


「これは機密に関わる事だ、口を大にして話す事じゃない。でも、確証を得たいのなら()が無いわけじゃないな」

そう言うとフェリクスさんは含みのある笑いを覗かせた。



************************************



街に到着後、フェリクスさんと三人で話あっていると「何かお困りですかぁ~」と目を輝かせ尋ねてくるライラさんに捕まった。これ、どこかで絶対に盗み聞きしてたわね・・・

「まっいどあり~」

ライラさんが嬉しそうに代金を受け取ると、素早く紙に包み手渡す。

「なんでカーライル王国の制服(こんな物)が売っているのかしらね・・・」

「何者なんだこの商人・・・」

私とダリルは手渡された包みの中身を中身を見て首を捻る。

「ふふふっ・・・世界を渡り歩くと様々な需要があるんです。それに素早くお答えできなければ儲けを逃してしまいますからねぇ~。ちょっぴしボロいですけど雰囲気はバッチシですよぉ」

得意気に胸を張るライラさん。一国の制服を求める需要って犯罪の臭いしかしない。


「おーい、宿をとって来たぞ~」

髪を綺麗に纏め、制服を確りと着た別人のような姿のフェリクスさんが走って来る。

「・・・・誰?」

「酷っ!こんな色男は他にいないだろ?」

フェリクスさんは少し乱れた髪を整え、此方に向かってバチンとウィンクする。

「「は?」」

思わずダリルと同時に声を出してしまった。

「辛辣ぅっ!」


こうなったのはケレブリエルさんの言っていた事の確証を得る為、フェリクスさんの部下と言う体で仕事に同行と言う名の潜入をさせて貰う事になったからだ。

「今後もどうかご贔屓にぃ~」

上機嫌のライラさんに見送られ宿に向かう。

しかし、魔法省の・・・一国の重要機関が易々と部外者の侵入を許すのだろうか。




**********************************



「良いか、アメリアちゃん達はオレの部下で我が国に結晶獣を普及の為に工程を学びに来たと言う(てい)で頼むよ」

城に向かう道中で人気が無い場所を探し小声で示し合わ、お互いの顔を眺め頷く。

着慣れない濃紺の制服に窮屈さを感じながら歩くと、目的地へと辿り着いた。

暗い色合いの石造りの堅牢な城壁、それとは対照的に色とりどりの鮮やかな花々が咲き誇る庭園が広がり、細やかで美しい造形に彩られた壮麗な城が(そびえ)え建っていた。

「すげー・・・」

フェリクスさんが何かを見せると予想に反しすんなりとアーチを抜け庭に入る事が出来た。少し疑問が沸く部分が有るが、仕事の内容に関しては不問と言う条件で受けた為に聞く事が出来ない。

「これは此れで御の字かなぁ・・・」

などと呟いていると大きな建物の前でフェリクスさんの足が止まる。

「さて・・・ここが魔法省の管轄する魔法技術研究所だ。動きやすいように事前に魔法技術研究所の方へ妖精で連絡をしておいたけれど、問題を起こさない様に行動や発言を気を付けてくれ。特にデコ助、お前は口が悪いからな」

「なん・・・・ちっ、解りました」

反論しようとするダリルだったが、如何にか溜飲を下げる事が出来たようだ。

「それじゃあ、少し此処で待て居てくれ」

そう言って私達を待機させたフェリクスさんは入口まで向かうと、遠くて聞き取れないが所員らしい人物と話している。暫くするとフェリクスさんから此方に来るようにと手招きをした。

重厚感のある扉がゆっくりと蝶番(ちょうつがい)を軋ませ開かれる。


その先で待ち受けていたのは街中でちらりと見かけた人物だった。

後ろになでつけた長い金髪に仏頂面に眼鏡のエルフ。街の中でケレブリエルさんと言い争っていたイズレンディア・ラエブ部長だ。そして隣に居る茶色の髪のエルフはたしか、技術屋のクルニア・プレスタさんだろうか。

「ようこそおいで下さいました。この度は遠路はるばるご側路頂き感謝します。私は魔道具管理部の部長を務めるイズレンディア・ラエブと申します」

ラエブ部長はフェリクスさんを目にすると、折り目正しく綺麗にお辞儀をした。

「私はカーライル王国、魔法省魔法生物管理部のケイシー・エルガー申します。此方こそ、お忙しいところ貴重なお時間を割いて頂き感謝しております。後ろに控えるのは私の部下で・・・」

フェリクスさんの普段見れない真面目な姿には意表をつかれたが、思わず首をかしげたのは名前が違う事だった。

そんな困惑をする私達にフェリクスさんはウィンクで此方に合図を送る。此処は私達も潜入している身だし偽名を使用すべきかな。

「ブリジット・ランドンと申します」

私がそう名乗ると村で暮らしていた頃とは違い、何かを察したのかダリルも続いて「ロニー・ハウエルズ」と名乗り頭を下げた。

「ふむ、承知した。クルニア所長、話は通っているな?」

「はっ、先刻確かにご連絡を頂いております」

クルニアさんは唯の技術屋じゃなく所長さんだったらしい。しかし、そうでも無ければ国賓との面会があるような口振りは余程の事が無い限りしない筈よね。

フェリクスさんとイズレンディア部長は話し込んでいる。

その後ろで背筋を正して立っているとクルニア所長はつかつかと私達の方へと歩み寄って来て微笑んだ。

「ランドン殿達を研究所を案内するよう、ラエブより申し使っております。ご案内致しますのでどうか俺に着いて来て下さい」

「承知いたしました。今回の件、どうぞ宜しくお願い致します」



*************************************



研究所に到着後、色々と丁寧に結晶獣について教えて貰った。冒険者から魔結晶を買収しそれを開発と製造に役立てている等など教えて貰えたが、肝心の素体の()()については機密と言う事で何度聞いたところで教えて貰えなかった。

しかし、何故か研究室に入ってから部屋の隅から不気味な視線を感じている。


そこで急にクルニア所長が申し訳なさそうな顔で此方に話しかけてきた。

「申し訳ないのですが、俺は別の件で席を外さなくてはならないのです。後任の物を呼びますのでどうかお許し願えますか?」

クルニア所長は物腰柔らかで礼儀正しい人物だ。誰よ腰巾着と呼んだのは。

「あぁ、構いませんよ」

ダリルがクルニア所長の言葉に頷く。そこで、クルニア所長は隅に居た人物を呼び寄せる。

すると、ボロボロの研究者用のローブに砂色のボサボサの髪と生気のない瞳が特徴のエルフにらしくない容貌の人物が歩いて来た。

「彼はこう見えても優秀な開発者です。申し訳ありませんが何なりと彼に説明や質問をしてください」

そう言うとクルニア所長は書類を小脇に抱え、慌てて退室した。

「へへへっ、ケビ・ベンディクスです・・・・ふひひ・・」

ケビさんは名乗るとゆっくりと私の顔へと手を伸ばしてくる。体中に怖気(おぞけ)を感じて若干身を引くと更に手を伸ばしてきた。

「あ・・・あの??」

「うひひっ、君のその金の瞳は美しいねぇ・・・。僕に研究させてもらえないかな?なぁに、痛くは無いよ。へへへっ・・・」

「ひっ・・・」

殺意や悪意は無く、あくまで探求心からだと思う。しかし、ニタリと弧を描く口元が、にじり寄り迫りくる指が本能的な恐怖を掻き立てる。

「おいっ!待てよ!」

それに耐えきれなくなり、ダリルと共に私は無心で部屋を飛び出してしまった。

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